「私は子どもたちに違うモデルもあるんだと提案したい。プリンセスではなくても、スーパーパワーを持っていなくても、普通の女の子であっても勇気と頑張り、忍耐があればヒーローになり得ると」レミ・シャイエ監督『カラミティ』インタビュー

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2015年フランス – デンマーク合作の2Dアニメーション『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』にて、アヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を受賞、TAAF(東京アニメアワードフェ スティバル)2016ではグランプリを受賞し、ジブリの高畑勲監督も絶賛するなど世界的に注目を集めるレミ・シャイエ監督が5年ぶりとなる新作『カラミティ』を完成させた。2021年の公開を前に、現在開催中のフランス映画祭にて12月13日(日)、ジャパンプレミア上映される本作について、監督にインタビューを試みた。『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』では貴族ながらに祖父を探すために航海の旅に出るサーシャ、実在した西部開拓史上初の女性ガンマンとして知られるマーサ・ジェーン・キャナリー(別称:カラミティ ・ジェーン)の幼少期絵を描いた『カラミティ』と、両編ともに常識から逸脱しようとも自身の信じる道を進み、社会に変革をもたらす女性たちの物語。このテーマについて、そして自身の制作環境についてなどを聞いた。

――まず『カラミティ』の企画の発端、どうしてこの題材を選んだのか聞かせてください。

レミ監督「前作の仕上げの段階でプロデューサーのHenri Magalonから次の作品も考えてほしいと言われたんですが、その頃に偶然カラミティ・ジェーンのドキュメンタリーを観たんです。そこでパイオニアとして、東部から西部へと向かうオレゴンの道を彼女も行ったんだということを知り、父親の事故が起こったという設定にして、元々強い性格はあったものの反抗的なわけではなかった若い女性が、本人の意思ではなかったものの男性的な役割だとされていたことを色々とやることになるという話は面白いなと思いました。そしてやってみたら非常に自由を感じるわけです。馬に乗ってあちこちに行けるという地理的にも自由を得て、段々と非常に特徴的なあのジェーンができたんだと。そして当時の女の人だったらやらないようなことをやってみたら面白いなということでシナリオを書いていきました」

――前作と同様に、男性社会の中の少女が主人公です。

レミ監督「もちろん私が興味を持っているからそういうテーマになったんですが、前作のサーシャは脚本家のFabrice de Costilが考えた人物で、私が考えたわけではありません。マーサ・ジェーンもたまたま出会ったわけですけれど、興味があるということでテーマにしています。ただ私は、男だからとか女だからという遺伝子はないと思っています。社会的に男性はこうあるべき、女性はこうあるべきなどというものが作られていくんだと思うんですね。カラミティも非常に荒々しいんですけれども一方で私は『本当に女の子だ!』と叫んだりもする。それも面白いと思います」

――「少女」「少年」を行き来するカラミティ・ジェーンを描くにあたり、服、ドレスコードは重要なテーマとなっており、意図的に使われています。

レミ監督「カラミティ・ジェーン本人が仮装を好み、いろんな服を着て写真を撮っています。本物の軍服を着ている時もあれば、芝居用の衣装、はたまた社交界の女性のような大きなハットをかぶってドレスを着ている時もあれば、猟師のような格好をして撮っている写真もあります。そういう意味では写真を通して自分を見るということをしている人でもあったわけです。パーティをやって軍人がいればその人の帽子と自分の帽子を取っ替えたりということもしています。衣装はカラミティ・ジェーン自身にとって重要だったわけですけれど、それをこの映画の中ではうまく使っていて、マーサ・ジェーンは髪を切って男の子の格好をすることで少年と思わせる、逆に女の子の格好をすることで仮装しているような感じになり、衣装を遊び心を与えるものとして使っています。また、幌馬車の隊列と衣装に関して、男性は黒っぽい服で帽子をかぶっており、女性は明るい色でスカートを穿いている。隊列が円形状に停止すると、中に女性が座っていて、外に男性が立っていて動いているという、男性社会、女性社会というもの、そして幌馬車の隊列の状態をヴィジュアル的に一種の決まりのようなものとして見せています。その二つの世界をマーサ・ジェーンが行き来しているというのもヴィジュアルで見せているのです」



――この話には悪人が出てきません。彼女に辛く当たる人にも、それぞれに自分の都合や暮らしがあるということが描かれているのが素晴らしいと思いました。

レミ監督「それこそ私たちが人物像を作り上げるときに大切にしているところです。シナリオはFabrice de CostilとSandra Toselloと共に書いてるのですが、それぞれの人物に影と光があり、そういう状態になるのは理由があるというように正当化することを考えています。ただただ何も理由がなく暴力的な人物は描かない。子どもが見るというのもありますし、大人が見たときにも自分と重ね合わせてみることができるように、複雑な面を持っている人物像を大切にして描いてます。そして 私が描こうとしているヒロインは特別な力や技術を持ってるわけではないけれど、勇気を持っていてどこまでもとことんやっていく。また試練を乗り越えることによって段々と力をつけていくというような人物像にしています。私は子どもたちに違うモデルもあるんだと提案したいんですね。プリンセスから外れるとか、結婚することだけを考えている少女とは違う少女を描くとか、スーパーパワーは持っていないけれども、普通の女の子であっても勇気と頑張り、忍耐があるのでヒーローになり得るということを言いたい。それに男の子や女の子に容姿は関係ないとも言いたい。父親の姿もそうです。ヨーロッパやアメリカのアニメーションでは、お父さんは体が大きくて安心感があって、母親は優しく子どもと深い関係にあるような描かれた方を常にしていますが、そういう父親像母親像にはいい加減にうんざりしていて、父親であってもその場を逃げたかったり、困難になかなか打ち勝てないこともあるし、そんなに優しくない母親もいる。子どもたちも実際にそういう親を持っている場合もあるから、アニメーションを観て家に帰って自分の親をどう捉えるのかとも思いますし、そういう意味で全然違うモデルの提案をしたいんです」

――素晴らしいお話をありがとうございます。作画について、前作に続き輪郭線なしにキャラクターが描かれています。フラットな色面を組み合わせることで、背景との素晴らしい一体感が生まれています。この技法にはどのような魅力を感じ、またどのようにしてここにたどり着いたんでしょうか。

レミ監督「この技術は『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』のために編み出したものです。最初はどういうグラフィックにするか色々研究をしていて、輪郭を外してパイロットを作ってみたら非常に良かったのでこの手法で行こうとなったのですが、チームのみんなが、グラフィックとしても非常に強いものを持っており、またそれを作り出すプロセスにおいても強いものがあるので、ぜひこれを続けてやりたいとなり、今作でも用いています。この一体感がある表現をとても気に入っています。色がお互いに絡み合っていく、まさに人物像と背景が対話するような感じを大切にしています。輪郭があったら、輪郭が黒いのでステンドグラスのようになってしまって、黒が色と色を分けてしまう。それを嫌って輪郭を外しており、肌の色と背景の色が対話するような作品になっているのです。また、ボタンや紐、顔、髪の毛などの詳細もわざと描かず、非常にミニマルな形式をとっていますが、それがかえって不思議を生むんですね。アニメーターたちがそれに命を入れると本当に動いているように見える。観ている人にもこのシンプルなものを最初に受け入れてもらうと、観ているうちに物語に引き込まれていくという作りになっています」



――今作もロードムービーとなっていますが、パノラマ的な、広々とした風景を描けることが理由でしょうか。

レミ監督「もちろんそうです。『カラミティ』のマーサ・ジェーンは二つの征服をしていきます。一つは西に向かって西部を、またそれに伴って自分が成長して自分を征服していく、自分がどういうものかをわかっていくという二つの征服があります。人物像を通して男の人とは、女の人とはと問いかけている作品でもありますが、特に子ども向けの作品でもあるので、アドベンチャーを通して、そして次から次に起こっていく色々な事態やアクションを通して、広い風景などを通して、発見や危険などを通して語っているわけです。また当時は電話やスマホもないですし、地図も完全にはできていなかったのでまだ分からない場所というのもあって、私はそういうことにも興味があります。私が描く世界は両作共に19世紀を舞台にしており、現実なんだけど存在していない世界を描いています。常に危険と隣り合わせで、猟に行って戻らないなど、いつ帰って来れなくなるかという危険があり、自然はすごく雄大で、地図に描かれていない、知られていない自然や地域もあった。今はなんでもわかってしまって、逆に全てが閉じた世界ですよね。人間がいるし、飛行機が通ったり、どんな所に行ってもエンジンの音が聞こえる世界。そうではない、知られない部分がある世界の中で物語を語りたい。私は16、17歳の頃にカンザスに行ったことがあるんですが、空があまりにも広くて非常に驚きました。ヨーロッパや日本、フランスどこでもそうだと思いますが、どこを見まわしても人間の跡がありますが、ロシアやアメリカ、モンゴルなどにはそういう場所があって、非常に広大な、山もないようなフラットな高原が何キロも続いていたり、雲が素晴らしく見えたりします。そういう広大な風景にずっと惹かれています」

――今作では開拓時代のパワーや荒々しさを描く上で、色彩で油絵の顔料の色のみを使用されたそうですね。その他の絵やグラフィックの部分では物語と添い、より届きやすくするために工夫されたことはありますか。

レミ監督「Photoshopを使っているので、どんなブルーでもどんな緑でもどんな赤でも本当は出せるんですが、色の監督をしているPatrice Suauが油絵に自然に存在している色しか使わないようにしました。そのために、印象派の絵画やアメリカの風景画家の絵画の色合いになっています。それからもう一つ、40年代50年代の列車ポスターからグラフィック的なヒントを得ています。その頃のポスターは版画で何枚も擦ってあるので色合いはわりと少ないのですが、デッサンが目を引くような素晴らしいものなんです。鉄道会社が旅行の誘致に使っていたもので、大きな山や森、湖があったり、非常にグラフィカルで面白いものなんですよ」



――伝達ということについてお聞かせください。美術学校に通うことで、感情を構造化して伝達するためのツールを得たとのことでした。監督としてもそれは必要であり重要なことだとも仰っています。その感情を構造化して伝達するというのは多くのクリエイターが苦労する部分だと思いますが、例えばあなたの特徴となるアウトラインの使い方やシンプルな描画で見るものの集中力を感情や物語に集中させるということのほかにどのような点を工夫されていますか。

レミ監督「私の場合はやはりチームワークだと思います。アニメーションや映画というのはチームワークで作るもので、料理のレシピのようなもの。学んでできる場合もあるし、学ばないでできる場合もあるし、できない場合もあるし、レシピを間違えたからかえって感動が生まれた場合もありますし、そういう意味では秘密はないと思います。それがチームワークになった時、それぞれが自分の良さを持ち込んできて、色彩監督は色彩によって空の色に感動を与えてくれたり、アニメーターは生きたものや感じたものを入れ込んでくれたりします。シナリオライターによる物語のベースもとても重要ですし、人物像をどこまで細かく正確に描いていくかも関係していく。やはりチームワークが重要ですね」

――まさに多くのアーティストとの共同作業があるアニメーションですが、『カラミティ 』でもグラフィックなどに若く才能ある女性のアーティストも参加しています。そういった方々から逆に触発される部分もありますか。

レミ監督「多くのことを女性そして若手のクリエイターから学んでいます。もちろん他の人々からも多くを学んでいますが。今回、『カラミティ 』の制作チームはフランスとデンマークで170人。そして80人のアニメーターが魂を込めました。私は今回のチームで男女同数の人々を集めました。すべての職種で、責任のあるポストでも同数になるようトライしたのです。完全にはうまくいかなかったのですが、大体47% 、53%くらいにできました。半々をどういう風に計算するかというのもあって、給与総額で半分なのか、責任あるチーフポストの数なのかなどありますが、私は男女平等に同じ数だけ集まり、ポストも同数に割り振るというのが一番効果的だと思いました。一部の職種、音のデザインは男性しかいなかったので、一部外注に出したり、その部分はコントロールできなかったんですが、今後はそういうところももっと女性に入ってもらいたいと言っているところです。ちなみに作曲家は女性のFlorencia di Concilio で、素晴らしい感覚の持ち主です。そのようにしていくことによってますます素晴らしいアニメのチームになっていくと思います」

text Ryoko Kuwahara

『カラミティ(仮)』https://calamity.info12月13日(日)「フランス映画祭2020 横浜」ジャパンプレミア上映https://www.unifrance.jp/festival/2020/2021年全国公開予定西部開拓史上、初の女性ガンマンと知られるマーサ・ジェーン・キャナリーの子供時代(12歳)の物語。マーサは家族とともに大規模なコンボイ(旅団)で西に向けて旅を続けているが、旅の途中、父親が暴れ馬で負傷し、マーサが家長として幼い兄弟を含め、家族を守らなければならない立場になってしまう。普通の少女であったマーサは、乗馬も、馬車の運転も経験がない。そんなマーサは、少女であることの制約に苛立ち、家族の世話をする義務をよりよく果たすために少年として服を着ることを決心する。女性は女性らしくという時代にあって、マーサの生き方は、古い慣習を大事にする旅団の面々と軋轢を生む。更にマーサを野獣からの危険から救ってくれた中尉をコンボイに引き入れたことで、盗みの共犯の疑いまでかけられてしまう。そして・・・。監督:レミ・シャイエ出演:サロメ・プルヴァウン、アレクサンドラ・ラミー、アレクシ・トマシアン 配給:リスキット 2020/82分/G (2020/フランス・デンマーク/シネマスコープ/5,1ch/フランス語)Twitter: @calamity_movieYoutube: Riskit Channelニコニコチャンネル: Riskit公式 海外アニメチャンネル


レミ・シャイエ監督芸術学校でデッサンを学んだ後、複数のアニメのストーリーボード、レイアウト、特殊効果を担当。そしてフィリップ・ ルクレルク監督の「The.Rain.Children(仏原題Les.enfants.de.la.pluie)」といった長編作品のレイアウト班に加わった。 その後は監修のためアジアに数度渡るが、2003年にはアニメーション映画学校ラ・プードリエールに入り、短編映画「Le. Cheval.Rouge」、「Grand-Père」(Canal.J)、「Eaux-Fortes」の三作品を制作する。  その後はトム・ムーア監督の『ブレンダンとケルズの秘密』の助監督兼ストーリーボードを担当するなど経験を積み、 ついに『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の監督兼原画家となる。現在は新作『Calamity』を製作、開拓時代 のアメリカ初の女性ガンマンとして知られるカラミティ・ジェーンの少女時代を描く本作は2020年アヌシー国際アニメーション映画祭 長編アニメーション部門 クリスタル賞(グランプリ)受賞。

当記事はNeoLの提供記事です。

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