結婚するつもりでつきあっていた彼に、実はふたまたをかけられていた。それだけでもショッキングなのに、結局、彼が結婚したのはさらに別の女性。そしてコトの顛末(てんまつ)はどうなったのか。事実は小説よりも奇なりである。
◆彼にふたまたをかけられていた
「口約束ではあるけどお互いに結婚の意志は確認していました」
そう言うのは会社員のユキコさん(35歳)だ。29歳のときから3年間つきあっていた2歳年上の彼とは結婚するつもりだった。
「彼は時間が不規則な仕事の上、出張も多かったけど、毎日必ず連絡をくれました。私ひとりを愛しているとも言ってくれた。実家に何度も遊びに来ているから両親も彼を自然と結婚相手なんだろうと思っていたようです」
ところが結婚時期を相談しているときに、彼のふたまたが発覚した。
「私、学生時代からの仲良し3人に彼を紹介していたんです。そうしたら、彼が大阪に出張だと言っている時期に、仲良しのひとりが家族で京都旅行をしていて彼を見たという。大阪出張だから京都にも行ったのかなと思ったら、彼女が『年上っぽい女性と腕を組んで街を歩いていた』と。
なんだそれと思っていたら、『実は5歳くらいの子どももいた』って。不倫か、と絶望的な気分になりました」
友人は彼らの写真を撮って送ってくれた。明らかに彼だったし、確かに子連れの女性とベタベタしながら歩いている。
彼が出張から戻ってきたと連絡をしてきた翌日、ユキコさんは彼に会い、写真をつきつけた。
◆相手の女性と自分より長く交際していた
「いったい、これは誰なのか。あなたは出張だと偽ってこの人と京都旅行をしていたのかと問いつめました。彼は目を白黒させながら、『冗談で腕を組んだだけ』『彼女は学生時代の先輩で……』と何でもない関係をアピールしてきたんです。私は今すぐ彼女に電話をかけてと言いました。そうしなければ別れると。
すると彼は『オレはユキコとは別れない。ユキコだってオレと別れられるはずがないだろ。そんな邪推はやめてくれよ』と涙目になって言うんです。ついほだされてしまって、それ以上責められなかった」
ところがその晩、“京都の彼女”ことマリさんから電話がかかってきた。話をしてみると、マリさんは京都に住んでいるわけではなく、彼と同じ職場のシングルマザーで、ユキコさんより5歳年上だった。
「彼女は私の存在を知らなかった、今日、彼からあなたの連絡先を聞いたんですと言っていました。彼は女同士で話をさせようとしたんでしょうかと聞いたら、『あの人のやることはわからない』と。
いろいろ話していたら、なんと彼女は私より長く彼とつきあっていたんですよ。子どもが生まれてすぐ離婚した彼女の相談に乗っているうちに関係ができた、と。だからもう4年以上になるって。お互いにびっくりしました」
ふたりは不実な男を中にして、奇妙な連帯感をもったという。
◆彼がいきなり結婚
それでもユキコさんは彼と別れられなかった。彼は「もうマリさんとは会っていない。もともと恋人ではない」と言い張っていた。ただ、ユキコさんはマリさんと連絡をとりあっていたので、彼がマリさんにも好きだと言い続けていることを知っていた。
「彼女に対しても気持ちは複雑でした。私は彼と結婚したいという気持ちを持ち続けていいのかどうかわからなくなっていたんです。彼への信頼も崩れかけていたし。前からつきあっているマリさんにも悪いような気になって。
でもマリさんは『いいわよ、何かコトが起こったらふたりで仕返ししましょ』って。そう言っておきながら、彼女が出し抜いて結婚するんじゃないかという不安も消えなかった。誰をどうやって信じたらいいかわからなくなっていました」
それでも曖昧(あいまい)ながらつきあいは続いた。そして数ヶ月たったとき、マリさんからメッセージが来た。
「彼が結婚する。私もあなたも知らない女性と」
それを見てユキコさんはびっくり。昼休みにマリさんに連絡をし、その日の夜、ふたりで会った。
◆女2人で結婚パーティに乗り込んだ
「今日、突然、会社で彼が結婚するという話を聞いたの。ちゃんとした結婚式はしないけど、次の週末、レストランを借り切ってパーティをするから来てくださいってメールが回ってきた」
いったい、彼は誰と結婚するのか。マリさんが聞いたところによると、スポーツジムで知り合った20代の女性で、スピードできちゃった婚だという。そこまできたら、許せないという気持ちがふつふつとわいてきた。
ユキコさんに彼からまったく連絡がないまま週末を迎えた。
「ふたりで出かけましたよ、そのレストランへ。宴たけなわというときにふたりで飛び込んでいって、マイクを奪って、マリさんが『私、彼と4年以上つきあっているんですけど』、私は『私は3年でーす』と叫んで。
彼の上司など仕事関係者ももちろん来ていたし、ふたりの親たちもいましたから、一気に異常な雰囲気になりました。それだけ叫んで、私たち、堂々と会場を出てきたんです。誰か追ってくるかと思ったけど、誰も来なかった。彼女は『来週、しれっと会社に行ってやる』と言ってましたね」
◆2人で彼を呼び出した
その後のマリさんからの報告によれば、月曜日に出社すると誰も話しかけてこなかったという。ただ、上司には呼ばれて話を聞かれた。そしてその週末、彼は地方の支社に転勤が決まったそうだ。
「飛ばされたというわけではなくて、彼の希望らしいです。落ち着いた土地でふたりで子育てしたいからって。
なんだかふざけた男ですよね。だからマリさんとふたりで彼を呼び出したんですよ。『遠くに行く前に私たちに何か言うことはないのか』と。彼、居酒屋で立ち上がって私たちに深々と頭を下げました」
ふたりとも彼に未練はなかったので、それで解放したのだが、これにはさらに後日談がある。
◆彼はすぐに離婚した
「子どもが生まれてすぐ、彼は離婚したんです。どうやら彼の子じゃなかったらしくて」
それを聞いたとき、ユキコさんはなんだかおかしくて吹き出してしまったという。
「誰が被害者なのか、誰が誰を騙していたのか、もうわけがわからない。悔しいとか悲しいとかいうより、人間って私も含めて誰も彼も愚かなんだなあと妙に感じ入ってしまいましたね」
男女の間はいつ何が起こるかわからない。恋愛は闘争だと言う人もいる。力づくで奪いとった者勝ちなのだと。だが実際はそうとも限らない。
いろいろなところに「魔物」は潜んでいるのである。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数