杉原邦生インタビュー ギリシャ悲劇の空白の物語を“捏造”する、新作舞台『オレステスとピュラデス』

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2020年11月28日(土)~12月13日(日)KAAT 神奈川芸術劇場<ホール> にて、杉原邦生演出による新作公演『オレステスとピュラデス』が上演される。

『オイディプスREXXX』『グリークス』に続く、杉原によるギリシャ悲劇シリーズ最終章となる今作は、アガメムノンの息子・オレステスと、その従兄弟で親友のピュラデスがギリシャを出発して遠くタウリケにたどり着くまでの、ギリシャ悲劇には描かれていない物語を創作した作品で、かつてギリシャ悲劇の『アンティゴーネ』をもとに現代劇を創作した経験を持つ瀬戸山美咲が脚本を担当している。

オレステス役には鈴木仁、ピュラデス役には濱田龍臣と、その活躍に注目が集まる若手俳優の2人に加え、趣里、大鶴義丹ら実力派俳優たちが集い、新しいギリシャ悲劇を創り上げる。演出の杉原に、今作への思いを聞いた。
杉原邦生
杉原邦生

演劇は人類が欲して必然的に生まれてきたもの


ーー今回はギリシャ悲劇をベースにしたオリジナル作品ということで、その発想にまず驚かされました。この企画が生まれた経緯をお話しいただけますか。

2015年から毎年度KAATで公演をやらせていただいていますが、白井晃芸術監督は当初から「邦生くんにはホールでやって欲しい」と言ってくださっていました。その頃の僕は、大きい空間で演出すること自体に不安はなかったんですけど、それまで小劇場を中心に活動してきた中で、その延長上にある規模感でもう少し試したいことや、やってみたいことがあったんです。なので、白井芸術監督任期の最後の年にはホールでやらせていただくので、それまでは大スタジオで修行させてください、とお願いしました。そして、2018年に『オイディプスREXXX』をやることが決まったとき、その次はずっと挑戦したかった『グリークス』をやりたい、2年連続でギリシャ悲劇をやったら最後はホールでオリジナルのギリシャ悲劇を創りたい、と3年構想のような形を思い描いていたんです。だから今作で、それがようやく実現できることになりました。​
杉原邦生
杉原邦生

ーー『オイディプスREXXX』、『グリークス』、そして今作と3回にわたってギリシャ悲劇と向き合って来られて、改めて感じられたことや得られた気付きなどはありましたか。

やはりギリシャ悲劇は演劇の原点である、ということに尽きる気がします。『グリークス』をやったとき、なんでみんなこんなに「神様、神様」って言うんだろう、って僕なりに考えたんです。ギリシャ悲劇が発生した当時は、もちろん現代のような情報社会ではないし、科学も発達していないから様々なことが解明されていなくて、例えば、自然災害などの人智の及ばない力に対して、人間は何か理由付けが必要だったと思うんです。だから人間は「神」という存在を創り上げたんじゃないかと。そして、神という存在を確固たるものにするために、物語が必要になって、それで神話が生まれたんだと、そう考えたんです。神話から派生して演劇が生まれたと考えれば、演劇の原点というのは神を創り上げたことなんだ、だから『グリークス』をはじめギリシャ悲劇において神の存在というのはとても大きなものなんだ、と自分の中で納得がいったんです。演劇というものは人類が欲して必然的に生まれてきたもの、人間の欲望のひとつなんだ、ということが改めて感じたことかもしれません。​

ーー『オイディプスREXXX』のときに、「古典の面白さとカッコよさを伝えるのが僕の一つの使命」というお話しをされていました。その後のご活躍を見ていても、そのお気持ちが活動のベースにあると感じられます。

僕らは歴史の上に生きているんですよね。自分より前の世代のものに触れていく、アプローチしていくということは僕にとってとても重要なことだと思っていて、古典を無視して僕が表現活動をするということは、過去の戦争の歴史を忘れて再び戦争を繰り返してしまうことと同じくらいやってはいけないことなんじゃないかなと思っています。僕なりの方法で、現代のお客さんに届く形で古典の面白さとカッコよさを伝えていくことによって、歴史の上に現代の社会は成り立っていて、そこに僕たちは生きている、ということをどこかで感じ取ってもらえるといいなと思っています。​
杉原邦生
杉原邦生

今の時代にギリシャ悲劇を上演するのには女性の視点が重要


ーー杉原さんの演出は、ラップなどの現代性を大胆に取り入れたり非常にダイナミックですが、一方で物語は非常に緻密に描いていらっしゃる印象があります。そのあたりはどのように意識して演出をされているのでしょうか。

そもそも演劇は物語を見るものですし、僕自身物語が好きだから大事にしているというのはあります。あと、僕は演劇を観ているとき、演出家として自分が気になったところばかり注目して観てしまう傾向にあるからなのか、新作とか初めて観た作品で物語のすべてをキャッチすることが苦手みたいなんです。ある種の職業病でしょうね(笑)。同じ芝居を観た人と観劇後に話をして「あ、そんな話だったんだ」ってようやく気付く、みたいなことがあって。きっと観劇IQが低いんですよ(笑)。なので、稽古場では「僕が観て物語がわかるんだったらお客さんも絶対にわかるだろう」という感覚で稽古しています。だから、物語が丁寧だと感じてもらえるのかもしれないですね。​

ーー今作は瀬戸山美咲さんによる新作書き下ろしです。

僕は最初に「ギリシャ悲劇のオレステスとピュラデスというキャラクターを元にした現代劇を創りたい。だから設定も全部現代にして戯曲を書いて欲しい」と瀬戸山さんにお願いしました。その後いろいろ話をしていくうちに、瀬戸山さんから「時代設定はそのままにして、ギリシャ悲劇の空白の物語を私たちが捏造するという形はどうですか」と提案があって、それは面白いなと思って方向転換しました。うまくいけば『グリークス』の合間に挟んで一挙上演しても違和感のないものになるんじゃないか、なんて思ったりもして。そんなことしたら、上演時間12時間とかになっちゃいますけど(笑)。​

ギリシャ悲劇の世界は、基本的に男尊女卑なんですけど、『グリークス』は近代演劇の手法で編み直された作品だったので、女性のコロスの視点などが現代的に描かれていて、それがギリシャ悲劇の物語を豊かにしていると感じました。今の時代にギリシャ悲劇を上演する上で、女性の視点が入るということはとても重要だと思ったので、女性の作家に書いて欲しいと思ったことが瀬戸山さんにお願いした理由のひとつです。シンプルで力強く、でも柔らかく愛のある脚本になっていると思います。​
杉原邦生
杉原邦生

出演者14人が大きなホールでとにかく走り回る!


ーー出演者も非常に魅力的な方ばかりですね。杉原さんはギリシャ悲劇においてコロスの存在を重要視されていますから、今回も全体的にどんな座組になるのか楽しみです。

ギリシャ悲劇において、コロスは一番重要な存在だと思っています。だから存在感がなくてはいけないし、かといって前に出過ぎてもいけないし、実力のある俳優じゃないとコロスを演じるのは難しいんです。今回のコロスのメンバーは個性的かつ頼れる方たちばかりで、僕が指示しなくても稽古でいろいろ自由に試してくれます。その上で、僕のオーダーにもすぐ反応してくれる。とにかくクリエイティブで楽しいです。それに後押しされて、(鈴木)仁くんもたっちゃん(濱田龍臣)も稽古のたびに刺激を受けながらどんどん良くなっていってると感じています。​

ーーホールをどんなふうに使うのかも気になるところです。

今回は、これでもかというくらいホールの舞台を大きく使います。たった14人しか出ないのに(笑)。みんなにはとにかく走り回ってもらいます。趣里ちゃんと(大鶴)義丹さんには5役早変わりで忙しく走り回っていただきますし、コロスと主役2人はほぼずっと舞台にいて休む間もなく走り回ってます。​

人間なんて自然の大きな力や長大な歴史の前では何もできない、小さな存在。だから、ホールという大きな空間に対しても、無理にそれを埋めていこうという発想ではなく、僕らはこんなに大きな世界の上にポツンと存在して何もできないけれど、様々なものと向かい合い、個人的な感情や欲望、葛藤と対峙しながら必死に生きている。そういう人間そのものの姿を描けたらいいなと思っています。​
杉原邦生
杉原邦生

取材・文=久田絢子 撮影=早川達也

当記事はSPICEの提供記事です。

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