ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦とコンサートマスター赤松由夏に聞く

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大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスの専属オーケストラとしての活動が1988年に始まったザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団(通称オペ管)は、学生の研究や学習をサポートしながらも、独自の活動を通して「関西でオペラと言えばオペ管!」と、一目置かれる存在となっている。中でも正指揮者の牧村邦彦はオペラに精通していて、「現在、日本で一番オペラを振っている指揮者」と言われているほどで、「みつなかオペラ」を始め、本拠地のザ・カレッジ・オペラハウスを離れて、オペラを指揮する機会も多い。

そのオペ管でコンサートマスターを務める赤松由夏も、オペラ演奏に留まることなく、現在では関西フィルのコンサートマスターも務めている。

コロナの影響で、11月に予定されていた大阪音大のオペラ公演が中止になる中、オペ管が12月の定期でチャイコフスキーの「悲愴」をやるらしいと聞いたので、牧村邦彦と赤松由夏に話を聞いた。
(左から)赤松由夏、牧村邦彦  (C)H.isojima
(左から)赤松由夏、牧村邦彦  (C)H.isojima

―― コロナの自粛期間が嘘のようにお二人とも忙しそうですね。

牧村:この人はもう引っ張りだこですからね。今日もこの後、ゲネプロから本番。明日も本番入ってるそうですし(笑)。

赤松:そうなんです。今日が選抜学生によるコンチェルトで、明日がびわ湖ホール声楽アンサンブルの「マタイ受難曲」。明後日が落語家さんの会で、ヴィヴァルディの「四季」を全曲弾かせて頂きます。

―― お忙しいのに時間を頂きましてありがとうございます。牧村さんには先日のみつなかオペラ「満仲~美女丸の廻心」の取材でもお話をお聞きしましたので、赤松さんにお伺いすることが多くなると思いますが、よろしくお願いします。

牧村、赤松:よろしくお願いします。

―― 今となっては遠い昔のような出来事かもしれませんが、赤松さんはコロナの自粛期間はどうされていました。

赤松:1か月ほどヴァイオリンを弾かなかったです。普段なら忙しくて手が回らない家の片付けなんかを集中的にやっていたのもあるのですが、どうも自分のペースがわからなくなっていて。ああ、弾いてないなぁ、本番ないしなぁっていう感じですね。3月明けたくらいに、弾こうと思って楽器を出してみたものの、何を弾こうかなと…。そこで昔弾いていたクロイツェルを出してきて、最初からさらい出したのですが、これが良く出来ていて驚きました。何番の曲は何を習得するためのエチュードか一目瞭然。子供の頃、先生に言われるまま弾いていましたが、今になって気付きました(笑)。
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団コンサートマスター 赤松由夏  (C)H.isojima
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団コンサートマスター 赤松由夏  (C)H.isojima

―― 昔の教則本を弾いてみたという人、意外に多いみたいですね。何人かの方からも聞きました。

赤松:そうだと思います。新しく弾く楽譜も届かないし、さらうモノが無いですしね。徐々にバッハの無伴奏なんかを弾き始めました。

―― コロナ前の仕事というと、お二人ともフェニーチェ堺の堺シティオペラ「アイーダ」になりますか? あれは1月の中旬でしたね。

牧村:僕はあの「アイーダ」がコロナ前最後の仕事で、そこから先日の「みつなかオペラ」まで全てキャンセルでした。

赤松:私はコロナ明けは、関西フィルでした。

―― 久し振りの演奏、やはり感動されましたか。

赤松:もちろん喜びもありましたが、やっぱり私はコレしか出来ないなぁという感じでしたね。コレが私の仕事なんだ。自分で選んだ仕事だし、コレをやって行くしかないなぁと…。音楽は、お腹も満たせないし、病気も直せない。電車も動かせませんし、何も役に立てないなぁと自粛中に思っていたのですが、終演後のお客様の拍手を聞いたら、それを待っていてくれる人がいるんだ、必要とされているんだと、しみじみ感じましたね。
コンサートマスターとしてオーケストラを束ねる赤松由夏  写真提供:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
コンサートマスターとしてオーケストラを束ねる赤松由夏  写真提供:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

―― 実は、今回お二人にお話を伺いたかったのは、リモート演奏の「BELIEVE」を聴いて感動したからなんです。自粛期間中、リモート演奏がネット上に溢れていましたが、オペ管の「BELIEVE」は、歌心に溢れ、皆さんの表情が素晴らしい。やっぱり日常的にオペラをやられている人たちは違うなと感じました。あれはどういう経緯で出来たのでしょうか。

牧村:それは嬉しいですね(笑)。あれは、自粛期間でみんな音楽に飢えているのではないかなぁと思い、何か出来ないかなと考えていた時に、文化庁公演の練習時にたまたまiPhoneで録っていたいた「BELIEVE」のカラオケを見つました。そこにみんなの演奏を被せていけば作品に仕上がるのではと思い、真っ先に赤松に声をかけたのです。結果的には、そう思って頂けるようなモノには仕上がりましたが、編集作業は大変でした。再生装置(携帯の機種など)によってフレームレートが違うので、膨大な時間を要しましたが、メンバーの中にはデジタルに強い者もいて、何とか仕上げることが出来ました。オーケストラのメンバーに加え、オペラハウスのオペラ主要メンバー、合唱団のメンバーも参加して、50名を超えるちょっとした大作です(笑)。
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦   (C)H.isojima
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦   (C)H.isojima

赤松:牧村さんから「BELIEVE」やらないか! と提案を頂いたのは、まだこの先、オーケストラの公演って出来るの? 密で飛沫が避けられないオペラはどうなるの? という時期でした。牧村さんから送られてきた音源を聴いた瞬間、メンバーの顔が浮かんできて、懐かしさで号泣しました。とにかくこの音源はみんなに聴いてもらいたいと思い、牧村さんの企画案と共にメンバーに送ったところ、すぐにやろう! 参加します! と返信が届き、多くの人が参加して出来上がりました。出来上がった作品を見たら、久しくお会いしてなかったオペラハウス合唱団の皆さんにも画面上ですがお会いすることが出来、声も聞けて、また号泣でした(笑)

先日、コロナ禍初の文化庁公演の時、子供達との共演曲が「BELIEVE」で。本番、子供達の声を聴いた瞬間、動画のことを思い出し、もう少しで涙腺崩壊するところでした。マスクで隠れた口元はへの字に曲がって、必死に涙を止めていました(笑)。いつか、動画メンバー全員集合で「BELIEVE」を演奏したいですね。

―― 素敵なハナシですね。「BELIEVE」の動画は、「SPICE」読者の皆さまにも後で見ていただきましょう。牧村さんのことを「現在、日本で一番オペラを振っている指揮者」と言われることが多いですし、事実そうだと思いますが、赤松さんは日本で一番オペラのコンサートマスターを務めておられるのではないでしょうか。

赤松:回数とかはわかりませんが、普通のオーケストラはオペラをやる機会は少ないので、そうなのかもしれませんね。ただ、私はシンフォニーの時も、オペラとあまり変わりが無いと思っています。歌詞はありませんが、無言歌のメロディを作り上げているイメージですね。
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団コンサートマスター 赤松由夏
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団コンサートマスター 赤松由夏

牧村:オペ管はどこよりも、ブレスや言葉を分かっているオーケストラですが、その中でも赤松は特別。天性の語感のようなものを持っています。

赤松:喋られないのにね(笑)

牧村:それが信じられない。イタリア語なんかペラペラなイメージがあるよね。そして、天才的に単語に反応する。

赤松:歌手とのコンタクトが上手くいかないところは、自分で歌詞を読んでみるようにしています。声に出してみて、ストレスの位置や伸び方、ここでこう来るのかなどは、やってみます。

牧村:イタリア語には長母音、短母音があるので、どこか伸びるのですが、この人はそういうのが直ぐにわかる。普通、シンフォニーしかやっていない人は、8分音符が幾つか並んでいると、タタタタタとやるところを、タタタータタってやると、イタリア語っぽくなるでしょ。赤松は、長母音の位置がすぐにわかる変な人なんです(笑)。しかしそれは、指揮者にとってはもの凄く有難いこと。よそのオーケストラでオペラをやると、倍疲れます。
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦   (C)H.isojima
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦   (C)H.isojima

―― 牧村さんはいつからオペラに特化する活動を始められたのですか。90年代は、大阪交響楽団で指揮されていたのは覚えていますが。

牧村:大響がまだ大阪シンフォニカーだった時代、演奏会形式オペラ、コンチェルタンテを始めたのは僕ですし、その時から興味はありました。次第にオペラにはまっていき、東京の新国立劇場で副指揮の仕事を2年ほどしました。その時に、大尊敬するオペラ指揮者の星出豊さんに再会し、副指揮者として日本全国をついて回りました。大阪交響楽団を辞めた2004年頃から、本格的にあちこちのオペラの本番を振らせてもらえるようになりました。

赤松:意外と最近なんですね。もっと前からやられていると思っていました。

牧村:ザ・カレッジ・オペラハウスには開館当初から関わらせていただきました。94年からはオペラハウス合唱団の専任指揮者として公演を支えて来ました。当時は年2回のオペラシリーズとは別に、オペラハウス合唱団定期演奏会や外注の仕事も結構沢山あって(2大テノール&ダイアナロスなんてのも (笑))、年中バタバタしていましたね。黛敏郎の「金閣寺」を岩城宏之さんとド派手にやった1999年あたりが、カレッジオペラの絶頂期だったかもしれませんね。岩城宏之さんや團伊玖磨さんのアシスタントを経験し、日本のオペラ黎明期のハナシもたくさん聞くことが出来ました。劇場付きのオーケストラと合唱という、新国立劇場が無い頃には、日本で唯一の欧米スタイルのオペラハウスシステムにワクワクする毎日だったことを覚えています。東京でいろいろなオーケストラも聴きましたが、やっぱりオペ管は上手いなぁと思っていました。僕は終始一貫、オペ管の指揮者になりたいと思って来ましたが、ずっと偉い先生がいっぱい来られていました(笑)。
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 正指揮者 牧村邦彦

―― 定期演奏会の本番を指揮されたのも、意外にも最近なんですね。

牧村:2017年の定期演奏会で、モーツァルトの「偽の女庭師」が初めてだと思います。そして、昨年のベッリーニ「カプレーティとモンテッキ」ですね。カレッジオペラハウスでは副指揮の経験が長いですからね。

―― 赤松さんはコンマス就任が2002年とお聞きしています。それ以降はすべての主要演奏会にコンマスで乗られているんですね。もの凄い数を経験されていますね。

赤松:そうですね。オペ管の定期演奏会以外にも、大阪音大の学生の発表会やもありますし、牧村さんがどこかの市民オペラをやられる時に、コンマスとして呼んで頂くこともありますし

牧村:僕は関西でのオペラ公演は、主催者の指定が無い限り、必ずオペ管を使います。これだけの技術を持ったオーケストラですので、いつまでも続いて欲しいと願うからです。指定のオーケストラがプロではない場合などは、コンマスとして赤松を推薦し、一緒に行くこともあります。昨年も札幌まで来てくれました。やっぱり心強いですよ。

―― なるほど。先ほど、オペ管がオペラに精通しているというハナシがありましたが、具体的に一般のオーケストラとどこが違うのでしょうか。

赤松:何といっても、オーケストラのメンバーがオペラをよく知っています。そして、バランスのことは常に気にしていますね。歌手の声が出ていないとか、言葉が聞こえなと察知すると、皆が申し合わせたようにすーっと音量を落とします。よく、エキストラの人が、怖い怖いと言っています(笑)。
写真提供:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
写真提供:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

牧村:このオーケストラほどピアニッシモが鳴るオケは無い。普通オケに、小さくお願いします!と言っても、なかなかここまで落ちません。

赤松:みんなピット仕事が好きなんです。狭い狭い!と言いながら楽しそうですし。シンフォニーメインのプログラムだと、明るすぎて(笑)。ピットに比べるとステージは広いので、みんな一所に寄ろうとするんです。
オーケストラピットで演奏するオーケストラ
オーケストラピットで演奏するオーケストラ

牧村:若い頃、旧フェスティバルホールで、日本のオーケストラがピットで演奏しているのを聴くと、どうもしっくり来ないと感じたのに、ミュンヘンやミラノの歌劇場オケが同じピットでやっているのを聴いて、どうしてこんなに歌い手の声が聞こえてくるのか不思議だったんです。よくよく聴いてみると、楽譜に書かれている強弱記号とは別に、絶妙に盛り上げておいて、歌が出る瞬間にさっと歌い手に譲る。そういうバランスの取り方は、歌劇場のオーケストラは出来て当たり前なんですね。しかしそれは、いつもやっていないと無理なのですが、オペ管は出来る。

―― なるほど。一種の職人芸なんですね。そんな皆さんが、12月の定期演奏会では、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」他を演奏されます。

牧村:こんなコロナの時期になんで暗い「悲愴」をやるんだという声もありました(笑)。実は、オペ管はチャイコフスキーをよく知っているんです。

赤松:そうですね、チャイコフスキーのバレエ曲は何度も演奏しています。熊川哲也さんのKバレエカンパニーの西日本の演奏を、専属のシアターオーケストラトーキョーが出来るまで、うちがさせて頂くことが多かったです。

―― そうだったんですか。それじゃあ、チャイコフスキーはお手のモノですね。

牧村:「悲愴」は標題音楽ではありませんが、ドラマ性を求められる曲です。ドラマと言えばオペ管! どこにも出来ないアプローチが出来るはずです。それで決めました。

1曲目のワーグナーのジークフリート牧歌は、当団の首席奏者が輝けるようにと、一管編成の曲を選びました。ワーグナーが妻コジマに送ったクリスマスプレゼントです。~鳥の歌とオレンジ色の日の出をともなう~という副題がある様に、自然に誘われた人間に命が宿るような、愛と優しい活力に満ちた曲です。今年の禍を、少しでも癒せることが出来ますように。オペラを知っている人たちなので、歌心に溢れた演奏になると思います。2曲目のラヴェルのピアノ協奏曲のソロを弾くのは、大阪音大大学院2年の河島利香さん。かなり優秀な学生だと聞いていますので、今から楽しみです。オペラの専門職集団の奏でる「悲愴」。チャイコフスキーは稀代のメロディメーカーですので、歌心を持ったオペ管の演奏にご期待ください!

赤松:河島さん、本当に優秀ですよ。コンクールでの実績も豊富ですし、素晴らしい演奏になると思います。実は、「悲愴」を今年の7月に大阪音大の演奏会(大阪音楽大学管弦楽団サマーコンサート2020)でやる予定だったのですが、コロナで来年の3月に延期になりました。12月にはオール邦人プログラムの大学の定期演奏会が井上道義さんの指揮で、こちらは予定通りに開催されます。後先逆になってしまいましたが、学生達の演奏にもご期待ください。そして、「悲愴」という意味では、ウィーン・フィル、オペ管、大阪音大と続きます(笑)。あっ、大阪フィルも「悲愴」…ありましたね(汗)。一日も早く、当たり前にオペラが出来る日々が戻って来ることを願います。

ーー 牧村さん、赤松さん、どうもありがとうございました。

※本文中で取り上げた『ビリーブ BELIEVE』はコチラ​↓

【ビリーブBelieve / ザ・カレッジ・オペラハウスの仲間たちによるテレワーク・ムービー】

取材・文=磯島浩彰

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