美人シンガーと50代バツイチおじさんのクリスマスソング制作に密着

日刊SPA!

 VOCALOID(ボーカロイド)の登場や動画配信サイトの普及により、素人でも「自分の曲」を気軽に発表できる世の中になった。そんな中、「自分の気持ちや生き様を曲として残してほしい」と、一般人向けに楽曲制作サポートをしている女性がいる。シンガーソングライターのSakiさんだ。

彼女のもとで曲作りに励んでいるのは、なんと50代の「バツイチおじさん」。なぜおじさんが曲作りを……? その裏には、孤独な中年が抱える寂しさと挑戦があった。

◆「Lifetime Respect -女編-」で注目を集めた美人シンガーの現在

「曲作りサポート」を行っているSakiさんは、女性ボーカルユニット「RSP」の元メンバー。「RSP」は三木道三の「Lifetime Respect」のアンサーソングで注目を浴び、2007年にはベストヒット歌謡祭と第40回日本有線大賞でそれぞれ最優秀新人賞を受賞したグループだ。グループ解散後、Sakiさんはフリーランスとして活動を開始。

メジャーレーベルで活動していた経験を活かして、現在は講師業も行っている。

「ボイストレーニングの講師を始めた頃から、一般の人向けの楽曲制作を考えていました。車だったりダイエットだったり、みんな人生のどこかでお金をかけるタイミングってありますよね。それが自分のオリジナル曲だと最高じゃないかなって。普段は言えない気持ちや自分の生きた証を、曲として世に残す。ひとつの思い出にもなるし、後の人生にも影響してくると思うんです」(Sakiさん)

講師として働き始めた1年後、「曲作り生徒」第1号となる中瀬さん(50代)が体験レッスンにやってきた。

◆バツイチ50代男性のひとり暮らしで孤独な日々

中瀬さんは工場勤務のバツイチひとり暮らし。成人した息子はいるものの交流はあまり無く、孤独な日々を送っているという。

Sakiさんの体験レッスンを受けたのは、知人からの誘いがきっかけだった。

「知り合いから『あそこに有名な人がいて、ボイトレを教えている』と聞いて、一回見に行ってみようかなって軽い気持ちだったんです。ひとり暮らしで工場勤務だから、普段は誰とも喋らなくて楽しいことが何にもない。工場に行って家に帰っての繰り返しで、『なんか楽しいことないかな』って思っていました。僕は真面目というか臆病者なんですよ。だからギャンブルもお酒もしなくて、ストレス発散の方法が無かった」(中瀬さん)

自らを「臆病者で冴えないおっさん」と称する中瀬さん。そんな彼にとって、Sakiさんとのボイストレーニングは運命の出会いだったという。

「先生のレッスンを受けている間は、会社のことや日々の生活を忘れられたんです。一瞬だけでも日頃の厳しさや辛さから現実逃避できた。楽しいだけの世界が広がっていて、まるで中学生に戻ったみたいでした」(中瀬さん)

体験レッスンを機にSakiさんの生徒となった中瀬さんだが、レッスン時間のほとんどを雑談で過ごしていた。その会話がきっかけで、Sakiさんから楽曲制作を提案したそうだ。

「月1回のレッスンで、中瀬さんはずっとお喋りばかりしていました。好きな音楽の話や、中瀬さん自身のこととか。喋りたいことが溜まっていたんだと思います。ボイトレレッスンなので、私としては発声や歌の練習をしたかったんですけど(笑)。彼の話を聞いていくうちに、『中瀬さんって小説に出てきそうな人だな』と感じたんです。人がすごく良くて、だからこそ貧乏くじを引いてしまうところがある。そういうところが凄く小説ぽくって、曲にしたらどうかなって思いました」(Sakiさん)

「詩とか書いてないですか?」というSakiさんの問いかけに、今までこっそり書いていた詩のメモを持ってきた中瀬さん。そこから楽曲作りの第一歩が始まった。

「いつも仕事して家に帰って黙って寝るだけの生活。今まで何も楽しいことが無かったので、曲を作ってみないかと言われた時はワクワクしました。先生が、『曲作りは人生の最大で最高の幸せな遊びだよ』って教えてくれたんです」(中瀬さん)

◆「おじさん」だってロマンティックなクリスマスを過ごしたい

現在Sakiさんと中瀬さんが挑戦しているのは、「おじさんのクリスマスソング」だ。なぜクリスマスソングなのか。中瀬さん自身の悲しい経験が理由だという。

「クリスマスってロマンティックなものってイメージが強いじゃないですか。恋人と過ごす特別なクリスマスに憧れている人や、そういう経験をしている人もいっぱいいる。だけど中瀬さんは、一度もロマンティックなクリスマスを過ごしたことがないまま『おじさん』になってしまったんです」(Sakiさん)

「クリスマスには人生が詰まっている」と言う中瀬さん。彼にとってクリスマスはロマンであり、「クリスマスを楽しく過ごせたら成功者」らしい。

「若い女の子が素敵なクリスマスを過ごしたいって歌うのは当たり前ですよね。でもおじさんは絶対に言わないじゃないですか。思っていたとしても恥ずかしいから言えない。だけど、『おじさんだって特別なクリスマスを過ごしたい!』って思っている人はいるはずです。プロのアーティストがおじさんに向けて歌ってもリアルじゃない。『僕は冴えない』と思っているおじさんが歌わないと、同年代のおじさんに響かないんじゃないかって思ったんです」(Sakiさん)

歌詞作りは二人三脚で行っている。中瀬さんが持ち寄った膨大なメモの中からSakiさんが抜粋し、そこから内容を膨らませて組み立てる形だ。

「ふたりで色々やり取りしながら話を引き出していって、『そのアイデアいただき!』とか『それ使おう!』とか曲に反映させていっています。もちろん、中瀬さんの言葉をそのまま使ったフレーズも。クリスマスっていう大きなモチーフの中に、中瀬さんの人生みたいなものを投影させたいと思っているので、私も彼になりきって詞を書いていっています」(Sakiさん)

「僕も本当のクリスマスがほしい」から始まるサビには、中瀬さんのクリスマスに対する思いや人生観が滲み出ている。

<僕はなんの為に生きているんだろう

こぼれ落ちゆくものばかりだよ

もしも振り出しに戻れるのなら

次は絶対に守りたいよ

僕も本当のクリスマスが欲しい

愛に満たされた大人のクリスマス

だからあなたを支えたいけど

あなたが気にしているのは世間体

僕は本当のクリスマスが欲しい

愛に満たされた大人のクリスマス

今日はサンタの服を着てあなたの枕の横に

プレゼントを置いてこよう

きみの幸せってなんだろう

ぼくの幸せってなんだろう

後悔は数知れない

だけど真面目に生きてきたよ

いつか本当のクリスマスが欲しい

ぼくは冴えない50のおっさん

バカにされても関係ないさ

これが心からの願いさ(歌詞一部抜粋)>

歌詞とメロディーができあがり、トラックメイキング(本格的な曲作り)の段階にきた。曲作りとMV(ミュージックビデオ)制作を支援するのは、この春からSakiさんが所属している音楽スクール「KYOTO NEST」(京都市)だ。

「私ひとりではMV制作までできないので、KYOTO NESTの力を借りる形でレコーディングからMVまでパッケージ化してもらっています。一般人でも歌える、難しくないレベルで音を作っていって、中瀬さんに確認しつつ進めている感じですね。曲が完成したらMVはYouTube、楽曲は各配信サイトなどに公開する予定です。今は配信サイトが充実していて、ある意味で曲発表の敷居が下がっています。一般人の曲をある程度のクオリティで世の中に出すには、ちょうど良いタイミングです」(Sakiさん)

◆「僕と同じおじさんに希望を持ってほしい」

今回の曲作りを通して、中瀬さんには二つの願いがある。ひとつは、息子に自分の生き様や背中を見せたいといった「父親」としての気持ちだ。

「息子と会っても何も喋らないんですよ。僕自身、父親や祖父とは会話が無かった。僕は父が何を考えて生きているか知らなかったし、息子も僕がどう生きているか知らないと思うんです。父が亡くなった時、遺品整理のために本棚を見て、『こんな本が好きだったんだな、もう少し喋っておけばよかったな』って後悔しました。言葉にしないと何も伝わらないなって。自分の気持ちを誰かに伝えるのって戦いだと僕は思っています」(中瀬さん)

人前で自分の曲を公開する恥ずかしさよりも、「気持ちを伝えない」家族の在り方を変えたい気持ちが強いという。

久しぶり会った息子に「自分の曲を作っている」と伝えたが、苦い顔をされたそうだ。

それでも、曲を通して自分の気持ちを家族や世間に伝えたかった。

もうひとつの願いは、同年代の「おじさん」に元気を与えることだ。

「おっさんは日々の暮らしがあるんで、無茶とかしないと思うんです。1年後も2年後もずっと同じ生活で、給料も変わらないし、生活があるからはっちゃけることもしない。我慢の連続です。若い子に何か話そうとしても「汚いおっさん」って毛嫌いされる。周りに50人くらいのおっさんがいるんですけど、みんな夢も希望も何も無いんですよ。『なんで生きてんの?』って絶望しているおっさんを笑わせたい。僕は普通のおっちゃんやけど、周りのおっさんに夢や希望を与えられたらなぁって」(中瀬さん)

そう語る中瀬さんを温かい目で見つめながら、Sakiさんは自身の気持ちを教えてくれた。

「音楽はプロだけのものじゃないと思っています。音楽を生業にしている人には作れない、一般の人だからこそ歌える心情がある。その人の生き様を歌詞に起こし、作品にする。そのことにすごく大きな価値や、やりがいを感じています。一般の人との曲作りは、これから自分のライフワークの一部にもなりそうです」(Sakiさん)

孤独なおじさんによる挑戦は人々の心を突き刺せるのか。中瀬さんのクリスマスソングは12月公開予定だ。<取材・文/倉本菜生>

【倉本菜生】

福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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