ギャンブルで100万円を賭けられる人間は、勝っても負けても地獄に堕ちる

日刊SPA!

―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。

それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteで有名になったTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は25回。

今回は、犬が過去を振り返って遠吠えします。

=====◆地に足がつかなくなったのはいつからか

今日書く内容は僕自身の時系列を並べているだけだが、誰にでも当てはまると思っている。違うのは右か左か、届いたか届かなかったか。

「お前も堕ちたな」とよく言われる。

文字通り山に電波を遮断された東北の井戸の中で東京大学に入ると信じて止まず、地元の人間に天才の背中を見せて上京した。

「俺、一番になってくるから」

現実、というか井戸の外は本当に大海で、テンプレみたいな打ちのめされ方をして滑り止めの私大に入ったが、これまたテンプレみたいな若気の至りで、

「俺はこんなもんじゃない」

と勇み足で退学。ここで実家との縁が切れる。

引っ越すにも金が要るので友達の家を転々としながらパチスロを覚えた。この頃は友達と一緒だったからまだ勝てた。友達は賢くて自制の効く人間が多かった。

引っ越して一人でパチスロを打ち始めると途端に負けが込み、金がなくなった。借金をし始める。金が無いから働き始めると、それが勉強しない言い訳になり、水商売の世界に入り込んでいく。

「俺はこの業界の中では一番頭がいい」

という驕りのせいで水商売の世界での居心地はよかった。あとから理解したが、中途半端な学歴の人間が水商売の浅瀬に立つ理由のほとんどがこれだ。違う水を飲むと、なんだか特別になれた気がする。

だが結局、水商売も長くはもたず、

「東京で受験勉強します」

と逃げるようにして退職。友達の家に転がり込み、塾講師をして得た金を麻雀で全部溶かす。増やしたバイト先がたまたまカジノ関係だったので、ここでカジノを覚える。この頃にはもう期待値だとか、勝てる方法だとか、そんなのは全部どうでもよくなっていた。

◆ある日突然勝った750万円

毎年カジノに旅行に行っては金を溶かす日々を5年続けたある日、突然750万円勝った。借金を全額返済し、会社も辞めた。ツキが向いてきたと思った。

古い人間の言葉みたいだが、借金は手間をかけて返した方がいい。当時200万弱の借金を一気に返したが、体がついていかない。「借金の無い体」になる準備ができていないのだ。

借金を返すための数年間が、積み上げた石の上にようやく立ち、扉を開ける瞬間が、僕には与えられなかった。100年続く煉獄に放り込まれて95年目のある日、急に現実に戻った。

5年も借金生活をしていると、返す金が無いというだけで、

「これは、もう一生働かなくても良いのでは?」

と思わせる。

「一生働かなくていいなら、一生カジノで生活すればいいじゃん」

上京してから6年。パチンコも何もかもを覚えた僕の地獄はここでようやく始まった。

◆返し終わった借金は、ピカピカの新しい借金に見える

これまで収入からチビチビ処理できていて、遅滞もなく、なんなら生活にも支障が出なかったおかげで「無い」に等しかった借金を、あぶく銭で返し終えた瞬間に再びその存在感を増してきた。リニューアルされたピカピカの借金(正確には限度枠)は生き生きしながら、

「さあ初めまして冒険者、俺たちと一緒に一山当てようぜ!」

と語りかけてくる。その言葉に乗らなければ男じゃない。と、馬鹿な自分は勝手に世の男を代表していた。

ギャンブルについてだが、いや、ギャンブルに限らないかもしれない。初めて100万円を超える支払い又は勝負をした時の思い出は忘れようとしても絶対に忘れられない。

100万円とは、貯めるのには途方もない時間がかかるのに、なくなる時は一瞬の不思議な金額だ。一度に100万円以上の「何か」が起こった時、親や先生、地元の友人との間で長年かけて育ててきた正常な金銭感覚の全てを破壊する。

「タガ」とは本来、木板を並べたものを固定し、桶にするための輪状の部品である。外すと木板が一気にバラけ、中に入っているものが全て流れ出る。100万円を一度に失う衝撃は人の心のタガを外し、中に入っていた金銭感覚や価値観を全て流れ出して台無しにしてしまう。

僕は140万円の勝負をした時が初めての「100万円超え」だったのだが、勝負が終わった瞬間にはもう100万円を賭ける前の自分には二度と戻れなくなっていた。余談だが、僕の友人は今年競馬で100万円勝ってしまってからずっと地獄を見ている。最近も100万円負けて抜け殻になっていたが、近いうちにまた100万円の勝負をするらしい。一流大学を出て有名企業に入ったとしても、人は簡単に堕ちてしまう。教育が快感に負ける瞬間だ。彼はもう馬を見て馬だと認識できない。悶々と皮算用をしてはヨダレを垂らし続けている事だろう。ギャンブルに堕ちるとはそういう事なのだ。

◆100万円を作るまでの道程は辛い

100万円を作るまでの道程は辛い。少しの我慢が長いこと続き、ようやく100万円が出来上がる。しかし人間は「慣れる」生き物だ。1の痛みを100回続けたとしても、痛いのは最初の20回くらいで、あとは惰性で我慢できてしまう。瞬間的な100の痛みに、その努力はいとも簡単に負ける。

金銭感覚が壊れたら、そこからはあっという間だ。僕は平然と200万円を賭けるようになっていた。当時通っていたカジノのテーブルでの最高ベット金額だ。

もうチップがオモチャにしか見えない。価値は日本円で200万円あると言うのに、まるでポケモンでジムリーダーと戦う前くらいの緊張感で臨んでしまう。心の奥では負けたらリセットできるつもりでいる。ここで言うリセットとは「借金」だ。もちろんリセットにはならない。最後の10万円を使った後に追加で10万円を借りている自分がいる。

旅行で行った海外のカジノで大負けした時、現地では結構平気でいられる。そこでは時間が止まっているからだ。僕はスラムに2週間いたが、金はほとんど使わずに楽しめた。一番辛いのは、日本に帰ってきて日常の時計の針が動き出した時だ。

家賃、光熱費、携帯代、借金の支払い……。

「金が無いなら使わなきゃいいや」が通用しなくなった時、本当の絶望がやってくる。

◆無職、資格なし、高卒、借金500万円が誕生

500万の借金が生まれた時、もうこれは普通に返せないと思った。無職、資格無し、高卒。賭けるのはあんなに簡単だった500万を作るビジョンが全く見えなかった。ただ毎月の支払いを30日かけて凌ぐだけだ。そこには反省や後悔はない。ずっと、

「どうしてこんな目に?」

と目を丸くさせている。事実としては受け入れていても、実感としてはわからないのだ。いつまでも続くこの状況を産んだのが、あの一瞬の出来事だったなんて。

僕は馬鹿だ。馬鹿だが、道理が全くわからないからこうなったわけでも悪人だからこうなったわけでもない。流されている人生のどこかでタガが外れてしまった。

借金を返し切っても嬉しい気持ちにはなれないだろう。金は使う方が楽しいのだから。タガが外れるとは、こういうことだったのだ。

〈文/犬〉

―[負け犬の遠吠え]―

【犬】

フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。

Twitter→@slave_of_girls

note→ギャンブル依存症

Youtube→賭博狂の詩

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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