「暗いだけの10年ではなかったです」~10周年を迎えるテレビ番組『ヨーロッパ企画の暗い旅』上田誠×石田剛太×酒井善史に聞く

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京都の劇団「ヨーロッパ企画」の、手作り感満載のドキュメンタリー・バラエティ番組『ヨーロッパ企画の暗い旅』(以下暗い旅)。身近にある様々なアイテムや風景や人間の行動を、ちょっと違った角度から検証したり、あるいはコントや映像対決などにして見せていく、異色のテレビ番組だ。最近は劇団のファンのみならず、この番組単体のファン(つまり、ヨーロッパ企画の舞台を観たことがない)も付くなど、細く長く人気を保つ形となっている。

2011年に放送が開始されたこの番組が、来年1月で10周年を迎えることに。それを記念して、企画・構成を担当している上田誠と、番組MCの石田剛太&酒井善史にリモートインタビューを実施。『暗い旅』をここまで語る機会は、これが初になるそうだ。京都・大阪・山梨(?!)の三元中継で、旅の始まりから思い出に残る旅、そして10周年記念のオンラインイベントなどについて聞いてきた。

『暗い旅』初期の名作「石田をあざむく旅」(2011年6月8日放送)

■『暗い旅』の企画が、本公演やドラマに昇華することがあります。

──最初に、この「暗い旅」という、テレビ番組にしてはネガティブな響きのタイトルにした理由をおうかがいできれば。

上田 まず劇団で、テレビ番組を一から作る……撮影も編集もして(テレビ局に)納品する所まで、全部自分たちでやれる番組を作ろうと思いました。それもレギュラーでやろうと。そうした時に、ドラマやバラエティ番組は体力的に難しいけれど、ドキュメンタリーならカメラは一台で、出演者も最小限の形でやれるなあと。それでタイトルを考えている時に「我々」というバンドの『暗い旅』という曲が、当時の心境と合致したんです。「恋人と別れて、一人で暗い旅に出るよ」という歌ですけど。

──番組主題歌の、あの「うんまんの~♪」の曲の方が、実は先にあったんですね。

上田 あとその頃に読んだ、吉阪隆正さんという建築家の方の「金も暇もいらない、魂の旅行をしましょう」という内容の文章ですね。それが「暗い旅」という言葉と符合して「普段は行かないような場所に出かける“旅”のように、普段はやらないようなことをしよう」という方向性が決まりました。番組自体は、スポーツをしたりゲームをしたり、コントをする回もあるんですけど、どれも「今までやったことがないこと」というのが基本ですね。

タイトル通りの状況で中川が様々なことに挑戦する「中川さんの頭に象のじょうろを乗せる旅」(2016年7月9日放送)

──「頭にじょうろを乗せる」とか、確かにラッキィ池田さん以外の人はあまりやらない。

石田 ですよね。そういう意味じゃあ、ちゃんと魂の旅行をしていると思います(笑)。

酒井 ただそのせいで、番組作りのフォーマットが毎回ほぼ違うんですよ。

石田 シリーズものはいくつかあるけど、それも結構撮影ごとに変わるんで。

上田 「やったことがないことをする」というコンセプトの宿命ですね。今まで番組になったことがないようなテーマを、毎回どうやって番組にするのかは、やっぱり結構悩みます。

石田 だから「どういう番組なんですか?」って聞かれた時に、説明がすごく難しいんです。「旅番組ですか?」と聞かれるけど、基本(撮影は)ヨーロッパハウスの中だけだし、出かけたとしてもほぼ徒歩圏内だし(笑)。

酒井 「旅」とは言いつつ。

石田 最近は「YouTubeみたいな番組です」と言うと、話が早いです(笑)。

上田 そうですね。YouTubeでやるようなことと近いかもしれない。

『水曜どうでしょう』の藤村&嬉野コンビが審査員で登場した「六つ子ムービーアワードの旅」(2017年6月24日放送)

──YouTuberが登場する以前から「○○をやってみた」みたいなことをやっていたと。

石田 だからテレビじゃなくて、YouTubeにしておけばよかったかも(一同笑)。

上田 でもテレビ番組にする上では、『水曜どうでしょう』の藤村(忠寿)さんと嬉野(雅道)さんに、やっぱり影響を受けました。地方局から勝負をする場合、当然機材とか予算とか、出演するタレントの豪華さとかは、キー局のゴールデン番組なんかには敵うわけがない。でも作り手と出演者が、ホームビデオみたいに親密な関係性を持ちつつ、超面白いことをやれば、ここでしかやれない勝負ができる……という姿勢は、お二人からすごく学んだことです。

酒井 でもその「やってみた」が、大きな企画に昇華することが、まれにあるんですよ。

石田 上田君が『暗い旅』を通して実験するというか、研究している企画を連発していく中で、それが本公演やドラマに採用されることがあります。

自宅にあるアイテムだけで作った「ピラゴラ装置」を競い合う「イエゴラスイッチコンテストの旅」(2012年10月10日放送)

──具体的にどんな企画が?

酒井 「イエゴラスイッチ」はいろいろやってますね。『遊星ブンボーグの接近』(2015年)のラストとか、『雨天中止ナイン』(2014年)にも出てきました。

上田 「インテリワードを使いこなす旅」は、そのまま『(インテリワードBAR)見えざるピンクのユニコーン』(2015年)って番組になりました。あと「絶対に置いていってはいけない旅」は『ロベルトの操縦』(2011年)に……あれ、舞台の方が先だったかな?

酒井 あれは僕らが、私生活でやってた遊びが先でした(笑)。

──プライベートでやっていた悪ふざけを、そのまま番組にしたわけですね。

酒井 そうですね。最近だと『浦安鉄筋家族』(2020年)で「サカイアローン」と、オススメのお店がことごとく更地になってる奴(「オススメの店を紹介する旅」)をやりました。

上田 あと「ドローンドラマを作る旅」で、だいたいドローンとの付き合い方がわかったから、『来てけつかるべき新世界』(2016年)にドローンが登場したという。本公演ってそこそこの規模だから、その前段階の短編を作るとかの実験がやっぱり必要で、『暗い旅』にはその役回りもあります。そういう意味では、僕らが今一番やりたいことや、新しいアイディアの最先端にある番組と言えますね。だから「『暗い旅』が好き」って言ってくれるお客さんは、超信頼できると思ってます(笑)。

「メンバーがオススメする店をめぐるが…?」という設定のコント回「オススメの店を紹介する旅」(2014年1月15日放送)

■芸人でもタレントでもない、役者の僕らだからできる面白さを。

──特に印象に残ってる旅はありますか?

石田 僕は「永野がスネてるけどパーティをする旅」ですかね。

上田 あー、同じこと言おうとしてた!

石田 あれは全部エチュード(即興芝居)でやって、自分でも何か面白いことができたという感覚がある回なんです。芸人さんでもタレントでもない、役者の僕らだからできた面白さがあるかなあ。エチュードで番組を作るとかって、他にあまりない気がするというのも含めて、すごく好きな旅ですね。

上田 あれはねえ、自画自賛してしまいますけど、他ではなかなか作れないと思います。僕らはテレビっ子で、もちろん芸人さんが出るバラエティ番組もたくさん見てきてるから、逆になるべく役者だからできるバラエティ……芸人さん的なコメント力よりも、演技の中で面白さを作っていく方を大事にしていて。僕も台本やテロップには、あまり芸人さんは使わないだろうなという言葉を入れるようにしています。だからあの旅で「キリストが見た風景はこーれか」とか(笑)、バラエティではあまり見ない言葉が出てくるのは、『暗い旅』ならではですよね。

永野宗典のスネ芸を全員がことごとく受け流していく「永野がスネているけどパーティをする旅」(2015年4月1日放送)

酒井 僕はやっぱり「サカイアローン」。映画の『ホーム・アローン』に憧れがあるんで、夢を叶えられた旅です。あと普通のテレビって、あまり人に危険を与えるようなことをしちゃ、ダメじゃないですか? それがどこまでやれるのかという、普段は試せないことをやった旅でもありました。「自分の家」を大義名分にして(笑)。

──一番ダメージがデカいのは、実は自分の住まいだという。

酒井 だから奥さんに怒られて、もう自宅ではできなくなりました。まだ爪痕が家の壁にあるんで、階段を上るたびに思い出します。でもあれで「人を攻撃する機械」という、本当は作りたいけど、なかなかできる機会がないことをやらせていただけて(笑)。

石田 どえらいこと言ってるぞ、お前(笑)。

酒井 でも人間って多分、そういう思いがどっかにあると思うんですよ。

ハンドメイドの罠だらけな酒井家でお宝ゲットを目指す「サカイアローン2の旅」(2012年8月29日放送)

──絶対押すなと言われてるボタンを押したら、何が起こるか? みたいな。

酒井 そうですそうです。そのギリギリのラインに踏み込もうとした旅でした。

上田 普通のテレビだと、無理やり誰かの自宅に押しかけてメチャクチャにしていくというノリはあるんですけど、あれは自宅を自ら進んでムチャクチャにしてるじゃないですか? そこはもう、圧倒的に狂っているし、面白い。

石田 確かにねえ。「やめてよー。来ないでくれよー」って言うもんね、普通は。

上田 そして僕は「演劇蟹工船の旅」が面白かったです。

酒井 賛否両論の企画ですけどね。

──私事ですけど「見ててつらい気持ちになる」という声が多くて、なかなか見れなかった旅です。

上田 「観客0人の前で芝居をやった」とか、演劇界ではありえる話だけど、テレビではなかなか聞けない、劇的な苦労話がね。

石田 ヒリヒリしますよねえ。

酒井 あれこそ「魂の旅に出る」感覚でした(笑)。

若手演劇人たちがプロレタリア的な演劇経験を告白しあう「演劇蟹工船の旅」(2019年1月5日放送)

上田 でもそんなつらい話の数々を、テレビマンである鍋島(雅郎/番組ディレクター)たちの能力によって、わざわざ再現VTRまで作るとか、狂ってますよ(笑)。でもすごく珍しいものを、テレビという枠組みの中で見せることができたというのは、間違いないです。

やっぱりテレビのゴールデンタイムに放送されるものって、安心だったり平和だったりするものが多いけど、この番組は深夜だから、観たい人しか観ない(笑)。だから安全なものじゃなくて、今まで味わったことのない面白さのある人やモノを映せたらなあと。僕、さっきから「面白い」って言葉をずっと使ってますけど、面白いことって必ずしもテレビでは正義じゃないと思うんです。

──「サカイアローン」にせよ「演劇蟹工船」にせよ、人を傷つけたりつらい思いをさせる一歩手前の面白さって、最近のテレビでは排除されがちな気がします。

上田 大多数の人が安心して見られる番組が、昨今の雰囲気的に求められるからだと思うんですけど、そういうのは他にいっぱいあるので。『暗い旅』では、危うさのある面白さとか、手間のかけ方を間違った面白さの方を、撮っていきたいと思っています。

放送200回記念で、全メンバーがしのぎを削った「絶対に絶対に置いていってはいけない旅」(2019年4月27日放送)

■面白いことに貪欲な、学生に見られていることは誇りです。

──「演劇蟹工船の旅」を始め、全国区ではまだ知られていない、京都の若手演劇人が多数出演しているのも、この番組の見どころです。

酒井 割と初期の頃から出てもらってたし、その人たちの力を借りないと、続けられなかったと思います。

上田 普段テレビに出ることがない人ならではの面白さって、演劇人には結構あると思うんですよ。メジャーの画一化されたクオリティのすごさとは違う、インディーズでしか味わえない雑味のようなもの。だからゲストは、テレビ的な言語やドレスコードみたいなものがあまりない人たちを呼びますし、そっちの方が面白いですね。この前「100人でだし巻きを食べる旅」というリモート企画をやった時は、たまたま(小林)欣也(注:『暗い旅』常連の京都の俳優)さんの知り合いの人が、変なタイミングでつながっちゃって。

石田 あれは放送事故ギリギリだったけど、面白かったー!

上田 でもお茶の間に普通は映らないんですよ、ああいうのは。そういうテレビ的な完成度とは遠い所にいる人たちを、僕らが作家のプロ、鍋ちゃんが映像のプロ、石田や酒井がタレントのプロという立場ですくい上げて、番組の中で面白く見せていくというのは、一つの使命だと思っています。実際僕らの周りって、そういう人が多いし……まあ、積極的に「テレビに出たい!」という役者は、あまり京都にはいないですね。そういう人は、東京に行くから(笑)。

テレビ的でないけど『暗い旅』人気が絶大な、劇団スタッフ・黒木正浩の半生に迫る「黒木のウィキを作る旅」(2017年10月21日放送)

──10年間続けてきた中で、何か変化や転機を感じることはありましたか?

上田 「ここ!」っていう転機はないんですけど、やっぱり10年間やっていくうちに、どんどん状況が温まってきた感じがあります。ずっと視聴者として見てきた人が、スタッフとして入ってきたりとか。

──実際、今のディレクターの鍋島さんは『暗い旅』のファンだったから、ヨーロッパ企画に入ったと言ってました。

上田 番組を続ける上で、それはすごくありがたかったです。大学生の作家チームも、僕らがうなってしまうような面白さのネタを出してくるから、頼もしいですよね。僕が大学生の頃にはこんな体験はできなかったし、こんなクオリティのものは作れてなかったと思います。

石田 「面白いなあ。上田君が考えた企画かな?」と思ったら、学生スタッフの企画だったということもありますよ。

上田 だから10年かけて、いろいろと層が分厚くなってきたわけです。僕がしょうもない企画を出しても、MCの2人がそのダメさを何とかしてくれたり、鍋ちゃんのファインプレーで面白い画が撮れたり、後輩チームがすごいアイディアを出してくれたり。番組を、そして劇団を長くやったことで、みんな厚みが増したなあと思います。

自爆覚悟で後輩たちによる劇団員人気ランキングを作った「接しやすい先輩・仏3に入る旅」(2018年11月24日放送)

──11月には、オンラインの感謝祭もありますね。

酒井 まず僕が作る「SAKEKE」というアトラクションが、KBSホールという巨大空間で復活します。あと『暗い旅』内で人気の高い、黒木(正浩)さん、欣也さん、中川(晴樹)さんが、総出演するのも見どころです。

石田 中川さんのおかげで盛り上がる旅って、結構あるんですよ。意外といろいろ、サービスをしてくれる人なんで。

酒井 サービス精神もあるけど、いい格好もしたいという、いろんな思惑がキレイに変な形で結実する(笑)。

石田 黒木さんも、僕らの知らない所で勝手な根回しをしてますし(笑)、この3人には何かハプニングを見せてもらえるんじゃないかなあと思います。

──それでは11年目に向けて、何か抱負などがあれば。

石田 このままでありつつ、もっと見てもらう人が増えてほしいです。今は(YouTubeの)生配信で、視聴者の方に直接「どうしたらいいか」を聞いたりもできるので、そういうのを進めながら、たくさんの人に見てもらう工夫をしていきたいですね。できる範囲で面白く、楽しく旅を続けられたらいいなあと思います。

酒井善史が作成した「SASUKE」ならぬ「SAKEKE」に挑む「SAKEKE完全制覇の旅」(2011年4月13日放送)

酒井 石田さんと同じですね。それプラス、今は封印されている「サカイアローン」を、誰かの家でやりたいです。上田さんが(10月に)引っ越しをされる前に、やればよかったですね(一同笑)。

上田 そうだよね。やっとけばよかったねえ。

酒井 敷金礼金は、間違いなく帰ってこなかったと思いますけど(笑)。「サカイアローン」ができる家を募集中です。

上田 この前「クイズ! 暗い旅」という企画で、番組をよく見ている人を募ったら、意外と学生さんが多かったんです。それってすごく、励みになりました。大学生の時って、一番「面白いものに触れたい」ということに、貪欲じゃないですか? その世代の人たちに共感してもらえてるのは、めちゃくちゃ誇らしいことです。さらにそういう人たちが、スタッフとして新たに入ってくれて、旅の道行きが一つ楽になりました。

多分僕らだけだったら「そろそろ道に迷って疲れたから、旅をやめようか」ってなってたと思うんです。でも「疲れてきたなあ」という頃に、同じ志を持った人に出会えたりするから、それが嬉しいですね。しかもそれが、僕らが嫉妬するぐらい面白い人たちだったら、なお嬉しい。だからそうなんです、暗いだけの10年ではなかったというか。

──案外明るい旅だった。

上田 そうですね。初期は正直辛かったけど(笑)、やっと視界が開けてきた感じです。

さらにパワーアップした「SAKEKE」に挑戦する「SAKEKE2完全制覇の旅・前編」(2011年12月7日放送)

取材・文=吉永美和子

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