[Alexandros]川上洋平、アーロン・ソーキン監督の法廷劇『シカゴ7裁判』について語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、名優たちの演技のぶつかり合いが見どころの法廷劇『シカゴ7裁判』について語ります。

『シカゴ7裁判』
『シカゴ7裁判』

すごくおもしろかったですね! 久々に、実の詰まった、脂の乗った映画を観れたなと思いました。オリバー・ストーン監督の『JFK』とかを思い浮かべるような重厚感プラス、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』とかのブラック・コメディ・タッチがあいまった、見応えのある法廷映画です。同じくアーロン・ソーキンが脚色を手がけた『ア・フュー・グッドメン』もおもしろかったけど、久々に思い出したりしました。
Netflixで独占配信されてて、深夜1時くらいから観始めて、超眠かったんですけど(笑)、最後まで止められなかったです。展開のスピード感のつけ方がすごく良かったですね。あと、何より俳優陣が本当に素晴らしかった。

『シカゴ7裁判』より
『シカゴ7裁判』より

■テーマはシリアスだけど、深刻にならずに楽しめるエンターテインメント


この映画の舞台は、ベトナム戦争に反対する抗議デモが行われている1968年で。まず冒頭で、当時のニュース映像とかが、ザッピングみたいに、どんどん画面が切り替わるようにしてたくさん流れてくるんですね。最近だと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の舞台が1969年のハリウッドでしたけど、ウッドストックが開催されたり、ベトナム戦争に反対する動きの中でヒッピー文化が生まれたりして。そのなんとなくの時代の空気感は知ってても、そこで行われていた戦争反対のデモや人種差別がどれだけシリアスだったかとか、詳しい背景を知らない人にとっては、導入としては情報量が多くて、少し難しく感じるかもしれない。だから、基本的な知識を得てから観たほうが入りやすいとは思います。でも途中から、そういった知識を抜きにしても飽きさせない展開が見事だと思いました。
テンポがすごく良い。セリフが数珠つなぎにどんどん繋がっていく演出も、ウィットに富んでておもしろかったし、皮肉を交えた笑いもあるので、テーマはシリアスだけど、そこまで深刻にならずに楽しめるエンターテインメントになってますよね。僕はどちらかというとブラック・ジョークが楽しめる映画が好きなんですけど、そういう意味でもバランスがちょうど良くて、すごく好きでした。

『シカゴ7裁判』より
『シカゴ7裁判』より

■今にも通じるところがたくさんある


そもそもは、今回の監督と脚本を務めてるアーロン・ソーキンが1968年に実際に起きたシカゴ・セブン裁判を題材に脚本を書き始めて、スピルバーグが監督をやる予定だったんですよね。でも、ストライキの影響で制作が中断されたりして、結局アーロン・ソーキンが監督もやることになって。公開に関しても、最初アメリカで今年の9月に劇場公開される予定だったのが、コロナの影響で断念されて。でも、公開を延期するのではなくて、Netflixが一部の劇場で公開することを約束した上で、権利を獲得して、配信に至ったという。
そうやって今公開された背景には、1968年っていう僕が生まれる全然前の話だけど、今にも通じるところがたくさんあるからっていうのがありますよね。人種差別がずっと昔からの根深い問題なんだっていうことが手に取るようにわかる。戦争反対デモの首謀者として、7人の男性が暴動を煽ったっていう罪で起訴されるわけなんですけど、その“シカゴ・セブン”のうちのひとり、黒人でブラックパンサー党のボビー・シールには弁護士をつけてもらえなかったり、法廷内で猿ぐつわをつけられたりする。それはさすがに、ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる検察官が、「それはないんじゃない?」っていう行動を取るわけですけど(笑)。今に続くアメリカの闇みたいなものが生活レベルで根付いてるのはこういう歴史があったからというのもわかるし、歴史の勉強にもなりますよね。

『シカゴ7裁判』より
『シカゴ7裁判』より

■史実をベースに必要最低限のことを描いていて潔い


ベトナム戦争を汚点だと思ってるアメリカ人は多くて。そういうところをほじくり返されると嫌だなって思う反面、しっかり向き合って描く姿勢はすごく潔いと思うし。こういう作品を作ることで、「二度とこういうことが起きないように」っていう教訓にしようという意志を感じますよね。
ただ、僕が個人的にこういう映画に不安を感じるのは、[Alexandros]の最新シングルの「Beast」も、何が正しくて何が間違ってるかとか、何が正義で何が悪かっていうテーマを歌ってるんですけど、共和党はこうで民主党はこうだよねって、何かしらの特定の見方が生まれることで。どっちが正しくてどっちが間違ってるかっていうのは一概には言えないことだと思うんです。僕としては、“共存しよう”っていう気持ちが一番強いんですよね。だから、政治的な特定の思想については僕としてはなかなか難しいところはある。でも、映画としては本当に素晴らしいと思ってます。
ソーキンが監督した『モリーズ・ゲーム』と比べても、スピード感があるし、わかりやすい。人が亡くなったりドラマチックなことがあるわけじゃないから派手ではないんだけど、史実をベースに必要最低限のことを描くっていうところが潔いなって。脚本家出身の監督だけに、軸がすごくしっかりしてる。演出のアプローチがちょっとドラマっぽい感じがあったので、そういう意味では、劇場でも公開されつつ、Netflixで配信されたのは良かったんじゃないかなとも思いましたね。

『シカゴ7裁判』より
『シカゴ7裁判』より

■出てくる俳優陣の演技が本当に見どころ


出てくる俳優陣の演技が本当に見どころで。中でも、マイケル・キートンの出方はおいしかったですね。僕が一番最初に観た映画が『バットマン』で、その主演がマイケル・キートン。だから僕のハリウッド初体験は、彼だったんですね。『シカゴ7裁判』にはエディ・レッドメインも出てますけど、マイケル・キートンが『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で初めてアカデミーの主演男優賞にノミネートされた時、エディ・レッドメインも『博士の彼女のセオリー』でノミネートされてて。結局、エディ・レッドメインが主演男優賞に選ばれたっていう因縁の相手なんですよね。そのふたりがこういう形で共演するのもおもしろかったです。
マイケル・キートンってすごく雰囲気のある人で、コメディ作品に多く出てて、コミカルな動きや表情をする。僕の中では“ザ・アメリカ人”って感じで大好きなんですけど(笑)、今回はドスの利いた声の演技が良かったですね。
主役のアビー・ホフマンっていうヒッピーの社会活動家を演じたサシャ・バロン・コーエンも素晴らしかった。昔は、マドンナの「MUSIC」のMVに出てたりして。そこからアリ・Gとボラットで広く注目されて。だから、俳優っていうよりはキャラクターのイメージが強かったんだけど、今回はそれとは全然違うアプローチで、すごく良かった。アカデミー賞取ってほしいですね。
あと、検察官役のジョセフ・ゴードン=レヴィットもおさえた演技が良かったですね。ほんとはいい奴なんだろうな感も出てて、おいしいなって。横暴な裁判長にドン引きしてる感じも良かったですよね(笑)。
その裁判長を演じたフランク・ランジェラもすごい俳優さんですよね。ジョージ・クルーニーが監督した『グッドナイト&グッドラック』とか印象的で。悪役が多いイメージですけど、この人もすごく好きです。
でも、僕の中での一番は、弁護士役を演じたマーク・ライランスでした。トム・ハンクス主演の『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー助演男優賞を受賞したんですけど、その作品でもすごく慎ましく丁寧に役を演じてて。僕の中では、元祖おさえめの演技で魅了する俳優さんですね。
『シカゴ7裁判』だと、アビーに向かって「おれは命を懸けてでもこの裁判をやりきる」っていう決意を表明するシーンも、裁判長の横暴さに対して判例集か何かの分厚い本をバンって机に投げつけるシーンもすごく良かった。それまでは冷静におさえ気味に振る舞ってたのに、だんだん熱がこもってきて、感情を爆発させていく。この人は自分の熱意に突き動かされてシカゴ・セブンの弁護をしてるんだっていうことが伝わってきて、とてもぐっときました。今回のカワカミー賞はこの人でしたね(笑)。



取材・文=小松香里

当記事はSPICEの提供記事です。

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