数多くのアーティストが参加した原子力発電所建設反対運動のライヴ盤『ノー・ニュークス ~ミューズ・コンサート・ライヴ!~』

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1979年、ジョン・ホール、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット、グレアム・ナッシュらが中心となって核撤廃の未来を呼びかける団体『ミューズ』が結成され、同年9月19日から23日までの5日間にわたってマジソン・スクエア・ガーデンでコンサートが開催された。本作『ノー・ニュークス ~ミューズ・コンサート・ライヴ!~』は、そのコンサートの模様を収録したライヴ盤で、ドゥービー・ブラザーズ、ジェームス・テイラー、カーリー・サイモン、ブルース・スプリングスティーン、ライ・クーダー、ニコレット・ラーソン、CS&N、トム・ペティ、ポコ、レイ・パーカー・Jr.&レイディオ、チャカ・カーン、ジェシ・コリン・ヤング、スウィート・ハニー・イン・ザ・ロックら、豪華なアーティストが参加している。なお、これだけのメンバーが参加していることもあって、LPリリース時は3枚組(CDは2枚組)という大作となった。

■ジョン・ホールから 原発建設反対の申し出

1978年の11月に、オーリアンズのギタリストでソングライターでもあるジョン・ホールは、はるか東海岸(ニューヨーク)から西海岸(ロサンジェルス)までボニー・レイットとジャクソン・ブラウンを訪ねている。その頃、ニューヨークで建設が予定されていたグリーン・カウンティ原子力発電所の建設反対に賛同してもらうためである。賛同してもらえるなら反核団体『ミューズ』を立ち上げるつもりであった。そもそもホールはレイットのバックでギターを弾いていて、彼女の政治的なスタンスを含め旧知の仲であったし、ブラウンに関しても彼の4thアルバム『プリテンダー』(‘76)でバックを務めたこともあって、影響力のある彼らを真っ先に訪問したのである。

結果は、レイットもブラウンも賛同どころかホールに協力して反対運動を行なうことを明言し、グレアム・ナッシュにも参加を呼びかけて『ミューズ』(原子力以外の安全エネルギーを推進するミュージシャン同盟)が結成された。

■映画『チャイナ・シンドローム』と スリーマイル島原発事故

翌年の79年3月に公開(日本では同年9月公開)されたジェームズ・ブリッジズ監督の映画『チャイナ・シンドローム』は、原発のメルトダウン(炉心溶融)の恐ろしさを描いた内容で、アメリカ人だけでなく日本人の多くがこの映画で初めて原発の仕組みや炉心溶融を知ることになった。

この映画が全米公開されて、わずか12日後にスリーマイル島の原発事故が発生、炉心溶融が現実のものとなることで、世界的に原発が見直されるきっかけとなった。特にアメリカでは映画公開の直後であっただけに大きな社会現象となり、反原発・反核運動が盛んになっていく。

余談だが、国際的な原発事故の深刻さを示す評価尺度は0~7の8段階(INESによる)に分かれており、スリーマイル島の事故はレベル5とされている。ちなみに1986年に起こったチェルノブイリ原発の事故はレベル7、東日本大震災の津波により電源喪失した東京電力福島第一原発の事故は、当初レベル5という評価であったが、1カ月後にはレベル7に引き上げられている。

■『ミューズ・コンサート』の概要

同年の5月にはホール、ブラウン、ナッシュらによって『ミューズ』の結成がマスコミに発表された。その内容は9月にマジソン・スクエア・ガーデンで2日にわたってコンサートを開催すること、またその収益は反核の活動グループや安全エネルギーの研究を行う学者への基金とすること、活動を通して核の危険を訴えることなどが語られた。

実際には参加希望のアーティストが増えていき、2日間の予定が5日間に延長された以外は、この会見通りにミューズの活動は行なわれている。

この後、ホールはアーティスト活動を続けながら89年には州議会議員となり、2007~2011年には民主党の下院議員に選ばれている。任期終了後の2011年、東日本大震災の福島第一原発事故を受け、ブラウン、レイット、ドゥービー・ブラザーズ、CS&Nら盟友と一緒に32年振りとなる反原発コンサート『M.U.S.E』を開催している。

■本作『ノー・ニュークス ~ミューズ ・コンサート・ライヴ!~』について

このコンサートが行なわれた79年は、ロックを含むポピュラー音楽の転換期に当たる時期で、70年代に隆盛を誇ったアメリカ西海岸産のロックは打ち込み中心のディスコ音楽やシンセポップに取って代わられようとしていた。それでも本作は人力演奏(それもライヴ)の素晴らしさを伝えてくれる作品として、決して忘れられることはないだろう。

本作のプロデュースは、ジョン・ホール、ジャクソン・ブラウン、グレアム・ナッシュ、ボニー・レイットらの反核団体『ミューズ』によるもので、5日間に及ぶ長いコンサートの中から選曲やミキシングなども彼ら自身の手によって実施されている。

収録曲は全部で29曲、オープニングとエンディングはマイケル・マクドナルド率いるドゥービー・ブラザーズで、当時の彼らの人気が高かったことが窺える曲順だと言える。ボニー・レイットの2曲は、ジョン・ホール(Gu)、フリーボ(Ba)、ビル・ペイン(Key:リトル・フィート)、デニス・ウィッテド(Dr)、ウィル・マクファーレイン(uG)、ローズマリー・バトラー(Vo)という最高の布陣で臨んでいるだけに名演となっている。

コンサートの発起人であるジョン・ホールの2曲はどちらも反核をテーマにしたもので、特に彼の代表曲「パワー」はコンサートの要でもあり、ドゥービー・ブラザーズ、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、グレアム・ナッシュ、ボニー・レイット、カーリー・サイモン、ニコレット・ラーソンを従えた演奏は素晴らしく、アルバムのハイライトとも言える仕上がりとなっている。

クロスビー・スティルス&ナッシュは最終日に登場し、久しぶりの再結成で当日は沸いたようだ。ナッシュのソロやジェームス・テイラーとのセッションも含めると、本作で最も収録曲が多い。クレイグ・ダーギー(Key)、ラス・カンケル(Dr)、デビッド・リンドレー(Gu)、ボブ・グロウブ(Ba)、ティム・ドラモンド(Ba)など、普段のレコーディングと同じ気心の知れた最高のミュージシャンたちがバックを務めている。

ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドは5日間のうち、2日間メインアクトとして登場し、会場は大いに盛り上がった。ブラウンの『孤独のランナー(原題:Running On Empty)』(‘77)に収録された「ステイ」でのスプリングスティーンとブラウンの共演は珍しく、そして楽しい。

ポコ、チャカ・カーン、レイディオ、ニコレット・ラーソンはそれぞれ大ヒットしたナンバーを披露していて、中でもチャカ・カーンはアベレージ・ホワイト・バンドのスティーブ・フェローン(Dr)とヘイミッシュ・スチュワート(Gu)とアンソニー・ジャクソン(Ba)、ジェフ・ミロノフ(Gu)、フィル・アップチャーチ(Gu)といった名プレーヤーたちをバックに従えている。ライ・クーダーやジェームス・テイラーもまたレコード通りのすごいメンツがバックを務めていて、申し分のない演奏を繰り広げている。

異色の女声アカペラ・グループのスウィート・ハニー・イン・ザ・ロックや政治色の濃い硬派のブラック・ミュージックを披露するギル・スコット・ヘロンらを紹介しているのも本作のメッセージ性の高さが窺えるところだ。また、ジェシ・コリン・ヤングのヤングブラッズ時代の名曲「ゲット・トゥゲザー」、ボブ・ディラン作の「時代は変わる(原題:The Times They Are A-Changin’)」、CSN&Yの「ティーチ・ユア・チルドレン」の3曲はアメリカ人にとって大きな意味を持つ曲であり、本作のメッセージをリスナーに伝えるには最適な選曲だろう(「ティーチ・ユア~」ではサビの部分を観客が歌う感動的な場面も収められている)。

そして、アルバムを締め括るのはドゥービー・ブラザーズの「ドゥービー・ストリート(原題:Takin' It To The Street」で、バックヴォーカルはホール、ブラウン、ナッシュ、レイットが務めており、コンサートは大盛り上がりをみせ、大団円を迎える。

\n最後に…

本作は1997年に日本盤が出てから、残念ながら以降のリリースはされていない。35ページにも及ぶブックレットには、このコンサートが開催されるいきさつだけでなく、原発の危険についても図表を交えて丁寧に解説されており、いつでも入手できるよう数年に一度は再発すべきだと僕は思う。なお、80年にはコンサートや楽屋での模様を収めた映像作品も公開されたが、こちらはアメリカでも現在DVD化すらされていないのが現状である。観たい人はYouTubeで探してみてほしい。

TEXT:河崎直人

アルバム『NO NUKES - The MUSE Concerts For A Non-Nuclear Future』

1979年発表作品

\n<収録曲>
1. ディペンディン・オン・ユー(ドゥービー・ブラザーズ)/Dependin' on You
2. 悲しき街角(ボニー・レイット)/Runaway
3. エンジェル・フロム・モンゴメリー(ボニー・レイット)/Angel from Montgomery
4. プルトニウムよ永遠に(ジョン・ホール)/Plutonium Is Forever
5. パワー(ドゥービー・ブラザーズ・ウィズ・ジョン・ホール&ジェイムス・テイラー)/Power (with John Hall & James Taylor)
6. 時代は変わる(ジェイムス・テイラー,カーリー・サイモン&グラハム・ナッシュ)/The Times They Are A-Changin'
7. 大聖堂(グラハム・ナッシュ)/Cathedral
8. ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル(ジャクソン・ブラウン&グラハム・ナッシュ)/The Crow on the Cradle
9. ビフォア・ザ・デリュージ(ジャクソン・ブラウン)/Before the Deluge
10. 溢れる愛(ニコレット・ラーソン&ドゥービー・ブラザーズ)/Lotta Love
11. リトル・シスター(ライ・クーダー)/Little Sister
12. ア・ウーマン(スウィート・ハニー・イン・ザ・ロック)/A Woman
13. ウィ・オールモスト・ロスト・デトロイト(ギル・スコット・ヘロン)/We Almost Lost Detroit
14. ゲット・トゥゲザー(ジェシ・コリン・ヤング)/Get Together
15. ユー・キャント・チェンジ・ザット(レイディオ)/You Can't Change That
16. ワンス・ユー・ゲット・スターテッド(チャカ・カーン)/Once You Get Started
17. キャプテン・ジムの酔いどれ夢(ジェイムス・テイラー)/Captain Jim's Drunken Dream
18. ハニー・ドント・リーヴ・L.A.(ジェイムス・テイラー)/Honey Don't Leave L.A.
19. 愛のモッキンバード(ジェイムス・テイラー&カーリー・サイモン)/Mockingbird
20. ハート・オブ・ザ・ナイト(ポコ)/Heart of the Night
21. クライ・トゥ・ミー(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)/Cry to Me
22. ステイ(ブルース・スプリングスティーン,ジャクソン・ブラウン&E.ストリート・バンド)/Stay (with Jackson Browne and Rosemary Butler)
23. デヴィル・ウィズ・ザ・ブルー・ドレス・メドレー(ブルース・スプリングスティーン&E.ストリート・バンド)/Devil with the Blue Dress Medley
24. 泣くことはないよ(クロスビー,スティルス&ナッシュ)/You Don't Have to Cry
25. ロング・タイム・ゴーン(クロスビー,スティルス&ナッシュ)/Long Time Gone
26. ティーチ・ユア・チルドレン(クロスビー,スティルス&ナッシュ)/Teach Your Children
27. ドゥービー・ストリート(ドゥービー・ブラザーズ&ジェイムス・テイラー)/Takin' It to the Streets (with James Taylor)

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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