130年の歴史初のオンライン配信へ 『新派な夕べ』に込める劇団新派・齋藤雅文の思い

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劇団新派の劇団内ユニット「新派の子」が、2020年11月12日(木)に『新派な夕べ 劇場で会えなかったあなたのために…』と題した一夜限りの特別公演を行った。チケットは完売となり、公演は盛況のうちに終了したが、この日の模様が劇団史上初めて、イープラス「Streaming+」にてオンライン配信されることとなった。

発起人であり、劇作家・演出家の齋藤雅文(新派文芸部所属)は、「三本立てで上演します。3種類、まったく色の異なる作品です。通してご覧いただくことで、新派の全体像を見られます」と語った。
<新派の子『新派な夕べ』プログラム>
一、邦楽、語りと舞『八つ墓供養』(出演:鴫原桂、川上彌生、堅田喜三代、藤田和也、木戸紗都子、河合誠三郎、只野操/尾上墨雪)
二、新作芝居『湯島の春』(出演:高橋よしこ、伊藤みどり、村岡ミヨ、小川絵莉)
三、朗読劇『明治一代女』より「新富座芝居茶屋の場」(出演:波乃久里子、水谷八重子、柳田豊、只野操、鈴木章生、小川絵莉、伊藤みどり、高橋よしこ、小山典子、佐堂克実、河合雪之丞)

視聴チケットは、3作セットの「通し券」と、一演目ごとの「幕見券」の2種類がある。いずれも11月21日(土)12:00より11月27日(金)21:00まで購入可能。購入後は、11月27日(金)23:59まで何度でも視聴できる。本番を控えた稽古場で、齋藤に本配信の見どころ、新派への思いを聞いた。公演当日の舞台写真とともに紹介する。



■あの子が主役のスピンオフもの『八つ墓供養』


ーー劇団新派は今年2月、新橋演舞場で『八つ墓村』の公演をしていましたが、千穐楽を迎えることなく、上演自粛となりました。

自粛期間中、『八つ墓村』の典子が主人公のスピンオフ物を作れないかと着手し、『典子の八つ墓村日記』というオーディオドラマを作りました。これを元に、声と音と舞踊に特化した舞台にしたのが今回上演する『八つ墓供養』です。

齋藤雅文(新派文芸部所属 劇作家、演出家)
齋藤雅文(新派文芸部所属 劇作家、演出家)

稽古場の様子 齋藤雅文(右)
稽古場の様子 齋藤雅文(右)

ーーヒロインの典子は、“頭の足らん”不思議な女性です。舞台、オーディオドラマ、そして今回の『八つ墓供養』のいずれも、鴫原桂さんが典子役を勤めます。齋藤さんは、舞台の演出をしていた時から、典子というキャラクターに注目されていたのでしょうか。

はい。典子は、横溝ファンから「聖女」と言われています。作品全体はドロドロしていますが、典子は最後に何千両という財宝を見つけ、ヒーローと一緒になり、ハッピーで終わる。物語の最初では「頭が悪くてブス」と言われていたのに、いつの間にかキレイになっていますし、面白いと思いました。

『八つ墓供養』(右手)鴫原桂
『八つ墓供養』(右手)鴫原桂
『八つ墓供養』(左から)只野操、河合誠三郎
『八つ墓供養』(左から)只野操、河合誠三郎

ーー古典の名作をレパートリーにもちながら、齋藤さんは1回限りの公演のために新作を書き下ろされたのですね。

僕は新派の新作担当ですから(笑)。新派は古いものだけでなく、新作を創ることを知っていただきたいです。題材は新派的だとしても、現代の演劇を創らなければやっている甲斐がありません。『八つ墓供養』は、ある意味でアングラ。新派を題材とした小劇場演劇を創っている感覚があります。そのくらいチャレンジングです。

『八つ墓供養』短編の中に、邦楽囃子、舞踊、人間ドラマと、ユーモアまで詰まっている。
『八つ墓供養』短編の中に、邦楽囃子、舞踊、人間ドラマと、ユーモアまで詰まっている。

ーー大変贅沢な要素もありますね。邦楽の演奏家の方々が劇中の人物として登場し、“八つ墓明神”役としては尾上墨雪先生も出演されます。

邦楽の鳴物に、尾上流の先代の家元。垣根のないところは、新派の強みですね。そして伝統芸能の基本を知った上で現代のモノを創る。生意気ですが(十八代目中村)勘三郎さんも「型があるから型破り」とおっしゃっていました。型を知っている新派だから、できる新作があると思っています。
『八つ墓供養』尾上墨雪先生(右)による八つ墓明神は、本編映像で!
『八つ墓供養』尾上墨雪先生(右)による八つ墓明神は、本編映像で!

ーー『八つ墓村』は、80年以上も昔の昭和13年に起きた事件を取り上げた物語ですが、『八つ墓供養』はあくまで現代として描かれています。

欧米が入ってきた「近代」以降の日本人ならば、たとえ100年前でも、現代の我々と重ねて描くことができます。近代化以前の江戸時代まで遡ると、士農工商の世界で、社会と個人の関係がまるで違う。ファンタジーとしては面白くても、人間関係にリアリティがありません。一方で明治、大正、昭和の日本人の葛藤は、ずっと変わっていないと思っています。重ねて描けるだけでなく、100年前の人間も現代の人間も演じられるのが、新派の俳優です。
『八つ墓供養』典子の三年後という設定でありながら、現代に重なる物語となっている。
『八つ墓供養』典子の三年後という設定でありながら、現代に重なる物語となっている。

■贅沢でマニアックな『湯島の春』


ーー『湯島の春』も新作です。『婦系図』のお蔦、『明治一代女』のお梅、『大つごもり』のお峰、『日本橋』のお千世が、数十年の年を重ねて一挙に集まる、悲劇のヒロインのドリームマッチです。

新派ファン必見、分かる方にしか分からない大変不親切なスペシャルイベントです!(笑)。昔の演劇界には、このような贅沢な遊びが、しばしばあったんです。一回限りの特別公演として、歌舞伎座や新橋演舞場で、役者さんが本来の役どころではない役を勤めたり、男性が女性の役をやったり。演じる側は、一発勝負で底力を試される怖さもあります。お客さんには宝箱のようなプレゼントになると思います。

『湯島の春』(左から)村岡ミヨ、高橋よし子、小川絵莉、伊藤みどり。手にもつ台本の表紙には、それぞれの役を象徴する柄があしらわれている。
『湯島の春』(左から)村岡ミヨ、高橋よし子、小川絵莉、伊藤みどり。手にもつ台本の表紙には、それぞれの役を象徴する柄があしらわれている。

ーー見どころをお聞かせください。

新派の悲劇的ヒロインたちを、幸せにしてあげたかった。そのためのファンタジーです。彼女たちは皆、原作の中では、死ぬか殺されるかして悲劇的な結末を迎えます。これほど理不尽なドラマが、なぜ長年にわたり日本人の芸能の素材となってきたのか。僕は新派の演出部として、彼女たちにずっと寄り添い考え続けてきました。

そして結局、日本の女性たちは、当時も今も変わらず理不尽を強いられ、ヒロインたちの悲劇的な運命に深く同情し、「自分もそうだ」と涙を流しているからではないか。100年も変わらず、不幸な結末を描く作品が受け入れられ続けているのだと感じました。この国は、ヒロインたちが生きた時代から何も変わっていません。

それぞれの悲劇から何十年後…のヒロインたちを、説得力ある個性で勤める新派のベテラン女優陣。全員チャーミング!原作を見直したくなる魅力があった。
それぞれの悲劇から何十年後…のヒロインたちを、説得力ある個性で勤める新派のベテラン女優陣。全員チャーミング!原作を見直したくなる魅力があった。

ーー劇中には、様々な名作から台詞が引用されています。

ジレッタントのマニアックな愉しみに満ちた作品です(笑)。

ーーたとえば「因果だねぇ」という台詞が、印象的に使われていました。

『婦系図』の台詞ですね。年を重ねたヒロインたちは、お互いの手をとり「因果だねぇ」と言い合います。でも僕は「因果じゃないよ。そんな因果は断ち切れるよ」と思っています。たしかに彼女たちには、悲劇の女という暗い影が付きまといます。でも、みんな元気に長生きして、明るくずうずうしく生きてほしい。日本の女はもっと自由に年をとり、ずうずうしく幸せに生きるべきだよって思えて。それを彼女たちの言葉に託し、お見せしたかったんです。

ーーラストには、齋藤さんからのお手紙が届きます。

気恥ずかしいのですが、8か月の間に考えていたことのすべてを、齋藤の生の言葉そのままにメッセージとして……何を考えているのでしょうね(笑)。齋藤から演劇への恋文です。

『湯島の春』辛い過去を背負いながらも、円熟のガールズトークに華を咲かせ、はしゃぐヒロインたち。
『湯島の春』辛い過去を背負いながらも、円熟のガールズトークに華を咲かせ、はしゃぐヒロインたち。

『湯島の春』新派の遊び心に触れ、笑顔の美しさにパワーをもらう一幕。
『湯島の春』新派の遊び心に触れ、笑顔の美しさにパワーをもらう一幕。

■いま出せる最高の一皿『明治一代女』


ーー川口松太郎作『明治一代女』の一場面の朗読です。

新派的古典の一部を、本寸法でお聞かせします。「新富座芝居茶屋の場」にはリアルな台詞も様式的な台詞もあり、そこに邦楽が加わります。ともすると朗読は、お手軽なものと思われるかもしれない。でもこの『明治一代女』は、いまお聞きいただける最高の声と音でお届けします。

『明治一代女』鳴物と拍手の中、幕があくと中央に水谷八重子。下手に佐堂克実。第一声で観客を物語の世界に引き込む。
『明治一代女』鳴物と拍手の中、幕があくと中央に水谷八重子。下手に佐堂克実。第一声で観客を物語の世界に引き込む。

ーー波乃久里子さんのお梅、水谷八重子さんの秀吉という配役です。今年90歳となられた柳田豊さんが、持ち役の福地桜痴を勤められます。

この機会だから集まれる人を、と集めてみたら、本公演より贅沢な配役になりました。お梅は波乃久里子の役です。ライバルで一流の芸者・秀吉役をやるなら水谷八重子が一番です。柳田さんもお年は召されましたが、声も心も元気。出演される方々は、大ベテランたちです。その声で、新派が継承してきた古典の集大成の一場をお出しします。そこに河合雪之丞さんの巳之吉です。彼は女方ですから、本来、巳之吉はやる役ではありません。一夜限りのご馳走です。

朗読劇『明治一代女』(左から)水谷八重子、鈴木章生、波乃久里子、只野操、柳田豊。芝居茶屋で鉢合わせた恋のライバル。
朗読劇『明治一代女』(左から)水谷八重子、鈴木章生、波乃久里子、只野操、柳田豊。芝居茶屋で鉢合わせた恋のライバル。

ーー稽古は、当日のリハーサル1回のみとお聞きしました。

『明治一代女』は、歌舞伎の古典と同じように、演出家いらずです。皆さんその役に入り、役として迷いなく生きてきた方々ですから。新派でリアリズムを語る時、「役になっていればいいんだ」とよく言われます。台詞を間違えたとしても、その役で生きていればいいと。実戦を経験してきた方々は、やはり圧倒的です。そんな方々の腕比べと思って、皆さんにも楽しんでいただければと思います。​

朗読劇『明治一代女』(左から)河合雪之丞、波乃久里子。緊張感のあるシーンが続く。
朗読劇『明治一代女』(左から)河合雪之丞、波乃久里子。緊張感のあるシーンが続く。

ーー21日より1週間、イープラス「Streaming+」で映像が配信されます。どのような方々に楽しんでいただきたいですか?

新派の名前は知っているけれど、見るチャンスがなかったという方々に観てほしいです。新派の公演は、大劇場のことが多く、チケットも安くありません。「幕見券」もご用意したのは、若い方々に観ていただきたいと思うからです。「こういう世界があるんだよ」と配信でも知っていただきたい。3本観ていただければ、新派がどういうものかを知っていただけると思います。でも2本目は……やっぱり予備知識がないと分からないだろうな。「あなたはどれだけ分かりますか?」の"新派検定"さながらの、遊びのお芝居ですから(笑)。

(左から)波乃久里子、水谷八重子
(左から)波乃久里子、水谷八重子

12日に開催された公演のカーテンコールでは、水谷が「皆に会えることができました。本当にうれしゅうございます」と感謝を述べ、「どうぞこれからも新派をお忘れなく」と呼びかけた。波乃は9か月ぶりの仲間との再会を喜び、「舞台裏ではしゃぎすぎ、齋藤先生に何度も怒られました」と笑いを誘う。女方の雪之丞が巳之吉を勤めたことについても「一生に一度」と喜びをあかす。雪之丞は、立役を不慣れながらも楽しみ、また、久しぶりの舞台に「緊張いたしましたが、皆様のお顔を見ましたら、本当に舞台は素晴らしいものだなと改めて感じました」と感慨深げに語った。



尾上墨雪は20代より新派に関わってきた中で、初めて登場人物として舞台に立ったことを明かし「新派の仲間に入ったようでワクワクいたしました。ぜひまた呼んでいただきたい」と笑顔で語った。齋藤は多くの協力者のおかげでこの公演が実現したことへの感謝を述べ、また、オンライン配信の視聴者に向けて「これが新派の幅の広さ。名作がまだまだたくさん眠っています。ぜひ劇場へ」と呼びかけた。

新派初のオンライン配信『新派な夕べ 劇場で会えなかったあなたのために…』は、11月21日(土)12:00~ 11月27日(金)23:59の1週間限定配信となる。



取材・文・撮影=塚田 史香

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