成河が演じる38役からにじむ“人間の愛おしさ” 一人芝居『フリー・コミティッド』公開舞台稽古レポート

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2018年に上演された一人芝居『フリー・コミティッド』が、2020年11月13日(金)~30日(月)、DDD青山クロスシアターにて再演される。

前回に引き続き今回も、出演は成河、演出は千葉哲也で再び挑む。登場する38人すべてを成河が演じるという、コロナ禍の今、まさにソーシャルディスタンスを保った作品だ。

主人公は売れない俳優で、マンハッタンの超人気レストランの予約電話受付係をしているサム。店はすでに満席だが、何とか席をもぎとろうと電話をかけてくる客に応対するのがサムの仕事。しかもサムは、自分が受けたオーディションの結果を待っており、一人暮らしの父までが電話をかけてきてサムを悩ませる。

成河は主人公のサムを演じながら、金持ちの社交界夫人、レストラン支配人、日本人観光客、カリスマ・シェフ、サムの父親、変り者のボーイ長、ドミニカ共和国出身のコック、大柄でタフなフランス女、医者、優しい性格のウェイトレス、下っ端のマフィア etc……次から次へと電話をかけてくる相手も演じ分けるという、究極の一人芝居ともいうべき舞台だ。

初日に先立ち、公開舞台稽古が行われた。その様子をお伝えする。
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳

クリスマスの足音が近づいてきたマンハッタンの超人気レストランの地下室が舞台で、いくつもの電話が鳴り響く部屋にサム(成河)が出勤してくるところから物語は始まる。すべての電話に素早く的確に応対していくサムと、電話の相手とをすべて成河が演じているので、とにかくしゃべりっぱなしの動きっぱなしだ。サムが何度も電話の相手に言う「目いっぱい、手いっぱい(=FULLY COMMITTED)」そのままに、見ている側も息つく暇もないほど芝居から目が離せない。

1人で登場人物全てを演じるということで、落語にも近いスタイルだ。とにかく成河の、役から役への切り替えの早さがまるでスイッチを押すかのごとく見事で、すべての役が鮮やかに舞台上に立ちあがる。演技だけでなく照明や音楽などにも適度な変化が加えられているので、成河が誰を演じているのかがよりしっかりと伝わってくる。千葉の細やかな演出の成せる業だろう。
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳

舞台が地下室であるということが、非常に示唆的だ。いろいろ命令してくるレストランの従業員たちを始め、サムに電話をかけてくる人たちは恐らく全員地上から電話をかけてきているのだろう。上から物を言われ、それぞれの勝手な都合を押し付けられ、それに翻弄され従うしかないサムの弱い立場が、そうした位置関係からも浮かび上がってくる。

しかしサムも言われっぱなしのただ弱いだけの人間ではないところに、人間の強さやしたたかさが覗く。ささやかだが反撃に出たり、金に目がくらんだり、同じ俳優仲間の発言に反発心を覚えながらも、後に清濁併せ吞むことを受け入れるときの表情など、サムの人間らしさが露わになり、面白さを感じると同時に身につまされる。

そんな中、サムの父が登場する場面は一服の清涼剤のように、物語をいったん落ち着かせる効果がある。家族と向き合うときの穏やかなサムの姿は父思いの優しい青年だし、息子を心から心配している父からは愛情の深さが伝わってくる。世間の荒波にもまれている今のサムにとって、唯一安心できるのが家族の存在なのだろう。脚本の妙が光る部分だ。
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳

実に38人もの登場人物が現れるが、根本的に人間の本質は同じなのではないか、と考えさせられた。誰かのたった一言で、簡単に嬉しくなったり悲しくなったりしてしまう。そんなふうに他人に振り回されることは、時には煩わしく感じられるが、それでも人は誰かと関わって生きていかざるを得ない。人間関係は面倒くさいことが多々訪れるが、それでも人と関わることでしか得られない喜びや幸せを求めて、傷つけ傷ついてもなお人と関わり続けていく。そんな人間の愛おしさがこの作品からあふれていると感じられた。

『フリー・コミティッド』は11月13日(金)~30日(月)、東京・DDD青山クロスシアターで上演される。なお、アフタートークが当初発表になっていた16日(月)14時の回に加え、21日(土)18時の回も追加で開催されることが決まっている。

成河 コメント

『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳
『フリー・コミティッド』公開舞台稽古より 撮影:西村淳

このお芝居は、自分で選びとることの大切さを教えてくれます。周りの目や評価を気にして、ひたすら他人の要求に応えようと頑張ってしまうサムは、時に矮小で滑稽な僕たちの姿と重なります。ひとに嫌われないように生きることに疲れた時、少しだけサムは成長します。そのささやかな瞬間を切り取ってお届けします。

取材・文=久田絢子

当記事はSPICEの提供記事です。

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