「ニコール・キッドマンだと誰も気がつかなかった」汚れ役に挑んだ理由

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単調になりがちな日常生活に刺激を与えてくれるもののひとつといえば、劇場の大きなスクリーンで映画を楽しむこと。そこで、予測不能な展開に引き込まれてしまうオススメの話題作をご紹介します。それは……。
■ 衝撃のネオ・ノワール『ストレイ・ドッグ』

【映画、ときどき私】 vol. 333

ロサンゼルスにあるハイウェイの下に止められた車の運転席で目を覚ましたのは、憔悴しきった中年女性のエリン・ベル刑事。足を引きずりながら歩き始め、男の射殺体がある現場へと向かっていた。

死体の近くにあった38 ⼝径の拳銃と強盗対策⽤の紫の染料に染まった紙幣に⽬に留めたエリンは、「犯人を知ってる」と謎めいた⾔葉を呟き、その現場を後にする。そんななか、LA市警のエリン宛てに差出人不明の封筒が届く。そこにはかつてエリンが関わった未解決事件に関わる“あるもの”が入っていたのだった……。

ハリウッドを代表する美人女優のひとりニコール・キッドマンが、これまでのイメージを覆す危険な汚れ役に挑み、ゴールデングローブ賞ではドラマ部⾨の主演⼥優賞にノミネートされた注目作。今回は、その舞台裏などについて、こちらの方にお話をうかがってきました。

■ カリン・クサマ監督

『ガールファイト』などで評価され、その手腕に注目が集まっているアメリカ出身の⽇系⼥性監督のクサマ監督(写真・左)。本作では、アメリカ映画の伝統的ジャンルのひとつであるフィルム・ノワールに初挑戦しています。そこで、制作過程の苦労や主演を務めたオスカー⼥優ニコール・キッドマンの魅力などについて語っていただきました。

―脚本家たちの話し合いに途中参加された監督から、「主人公を女性にしたらどうか」という提案をされたそうですが、理由を教えてください。

監督
 今回は、警官を題材にした少し変わった構造の物語にしようというのが最初にありました。そのあと、みんなで話し合いをするうちに「主人公を女性にしたほうが、これまでにないより新鮮な作品になるんじゃないか」という結論にたどり着いたからです。

―本作はさまざまな映画からインスパイアを受けているようですが、そのなかでも特に影響を受けている作品はありますか?

監督
 70年代のアメリカのジャンル映画に影響を受けている部分が大きいですね。たとえば『コールガール』(71年)や『タクシードライバー』(76年)、『狼たちの午後』(75年)のように人物形成がしっかりしている映画だったり、『L.A.⼤捜査線/狼たちの街』(85年)みたいに腐敗した人物が出てくる映画などを参考にさせてもらいました。

あとは、これまでの私の人生において、自分のしたことに責任を取ろうと葛藤している人をたくさん見てきたので、そういった人たちを人物像の参考にしたところもあります。

■ 自分の内面にも共感するところが多くあった

―エリンは監督が描いてきたキャラクターのなかでも、もっとも気に入っている登場人物だそうですね。どのようなところが魅力ですか?

監督
 すごくパワフルだけど、葛藤や怒りを抱えていたり、壊れたようなところもあったりしていて、自分のなかに共感できる部分がたくさんあったからかもしれないですね。私が住んでいる世界とエリンが住んでいる世界は違いますが、そういった内面の部分は理解することができました。それに、私自身がキャラクターのことを愛していないと、描けないですからね。

―なるほど。今回は、脚本を読んだニコールさんから監督に会いたいと面会を求めてきたそうですが、彼女からこの役を演じたいと言われたときどのように感じましたか?

監督
 最初にこの役を演じてくれると聞いたときは、とにかく驚きました。実際にニコールと話をしてみると、「こういった役は演じたことがないからすごく怖い」と話してくれたので、「なんて正直な人なんだろう」というのがそのときの印象ですね。でも、彼女はこの役を演じることに刺激を受けているようにも見えました。

それ以外にニコールと話し合ったのは、エリンが抱えている後悔や恥といったものが、肉体的そして精神的にどのような影響を与えるのかということ。私はこれまでにニコールの作品を観て、尊敬していたので、彼女だったらできると確信しました。

■ ニコール・キッドマンは本物のアーティスト

―実際、ニコールさんとは思えないような変貌ぶりでしたが、ご本人からもアイディアなどもありましたか?

監督
 ニコールはこの役を演じると決めたときから、外見をとても重視していました。なぜなら、それによって人生に打ちのめされて、疲弊している人物の見た目を作らなければいけないということをわかっていたからです。彼女としてはもっと老け込んだ感じにしたかったみたいですが、私たちがもう十分ですと言って止めたんですよ(笑)。

今回私たちが特に意識していたのは、エリンの肌は紫外線でやられていて、シミやそばかすだらけで、乾燥している質感であるということ。メイクアップアーティストが素晴らしい方だったのもありますが、みんなで何度もテストを重ねて、最終的にあのようなビジュアルにたどり着きました。

―見たことのないニコールさんの姿に、観客も驚かされると思います。

監督
 そうですね。彼女自身も、あの外見からはすごくインスパイアされていたようです。ご自身とはまったく違う人物ですから。そんなふうに変貌した自分の姿を鏡で見ることで、キャラクターをよく理解することができたとおっしゃっていました。

―では、ニコールさんと一緒に仕事をしてみて、感銘を受けた瞬間はありましたか?

監督
 彼女は用意周到に準備をされていましたし、とても勤勉な方なので、本当の意味でアーティストだと感じました。現場に来るときには、すでにキャラクターに入り込んでいて、撮影が終わってもそのキャラクターのままセットを出て行くようなタイプの女優。撮影期間中はずっとエリンでいたように見えました。

彼女に対しては尊敬と憧れの気持ちをずっと抱いてきましたが、今回一番驚いたのは、失敗を恐れることなく、つねにリスクを取っているところ。たとえ間違ったことをしても、新しいことに挑戦し続け、世の中に対して好奇心を抱き続けている姿からは学ぶことも多かったです。これは女性にとっても男性にとっても、大切なことだと思っています。

■ 撮影中にはさまざまなトラブルもあった

―そういったところが、長年にわたってハリウッドでも第一線を走り続けられる秘訣かもしれませんね。では、監督が見た素のニコールさんの魅力はどんなところですか?

監督
 ニコールは10代ときから映画スターとして活躍されていますが、それにもかかわらず、とにかく優しくてオープンな方。周りにいる人だけでなく、社会に対しても優しさを持っているんですが、そういうところが本当に魅力的だと感じました。

―劇中ではリアルなロケーションも見どころですが、危険地域とされる場所でも撮影をされたとか。撮影中にトラブルなどに見舞われたことはありませんでしたか?

監督
 夜にヒスパニック系の教会で撮影していたとき、近くで襲撃事件が起こってしまい、警察が犯人を捜していたので、そのときは一旦撮影を止めたこともありました。みんなその場から動くことができず、大変でしたね。

そのほかにも、すごく治安の悪い場所でたくさん撮影していたので、なるべく映画の撮影だと気づかれないようにしていましたが、なかなか難しかったです。ただ、不思議なことに、外見が豹変しすぎていたので、ニコールが一番目立たず、誰も気がついていなかったですね(笑)。

とはいえ、誰にも気づかれずに街を歩けるのが、彼女はすごく楽しかったみたいです。実際の日常生活ではありえないことですから。

■ 自分らしく生きるとは何かを考えてほしい

―確かにそうですね。監督は「本作は⼥性が⾃らに⽴ち向かう鮮烈なドラマであり、この物語に自身のこだまを見出し、共感を覚えてほしい」とコメントされていますが、監督自身もエリンと向き合うなかで、新たな発見がありましたか?

監督
 それは自分のことを受け入れたうえで、自分を愛することができない部分が私のなかにもまだあると気がついたことですね。エリンもそれができない人ですが、私自身としてもそういった自分の側面は変えていかないといけないと感じました。

―最後に、ananweb読者へ向けてメッセージをお願いします。

監督
 いまは、正直に生きるというのがとても難しい時代。だからこそ、みなさんには自分自身をオープンにすることを恐れず、自分を受け入れて見つめ直してほしいと思っています。特に、女性は周りからいろいろなことを期待されて、さまざまな役割を演じなければいけないという期待を背負っているかもしれません。だとしても、そういったことに関係なく、自分らしく生きることとは何かを考えてほしいと伝えたいです。

■ 最後まで緊張感が止まらない!

圧倒的なニコール・キッドマンの存在感と、衝撃的な結末から目が離せなくなる本作。秘密、孤独、葛藤、後悔、復讐、贖罪を描いた物語のなかで、主人公とともにさまざまな感情が渦巻くのを体感してみては?

■ 胸がざわつく予告編はこちら!



■ 作品情報

『ストレイ・ドッグ』10月23日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開配給:キノフィルムズ(C) 2018 30WEST Destroyer, LLC.

当記事はananwebの提供記事です。

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