渦中の「日本学術会議」と中国の関係/国防ジャーナリスト・小笠原理恵

日刊SPA!

◆米中対立と安全保障と一体化する国際経済

米国では、ByteDance社の動画共有アプリ「TikTok」(ティックトック)が子供たち(未成年)を含むユーザーの生体情報を違法に収集していたとして裁判が起きています。ユーザーの年齢や人種、身体的特徴で動画コンテンツを推奨する目的で「顔の形状スキャン情報」や「声紋」などが収集されていたというのが主な内容です。

「顔の形や声の情報が集められたからって、それがどうしたというの?」と、不思議に思う人もいると思います。なぜ、これが恐ろしいかを説明しますね。

集められたたくさんの「顔の形や声紋、身体的特徴の情報」は、中国のサーバーに送られます。ビッグデータは情報が多くなるほどAI技術を向上させ、ユーザーの嗜好を特定する「より精度の高いデーターベース」となります。しかも、それは商用に使われるだけではありません。

日本の防衛白書にも「中国は、従来から、緊急事態における民間資源の軍事利用(徴用を含む。以下同じ)を目的として国防動員体制を整備してきましたが、近年、国家戦略として軍民融合を推進しています」と説明があるように、商用情報も軍事転用される可能性があります。これが、安全保障上の問題とされる所以です。

中国には「天網」と名付けられたAI監視システムがあります。「天網」は蓄積された個人生体情報を使って、1秒で中国全国民の照会が可能です。2017年に米国メディアBBCのジョン・サドワース記者が、中国の貴陽市でこの世界最大の監視カメラネットワーク「天網」に自分の写真を重要指名手配犯として提供する実験をしました。

写真を提供後、身柄拘束までにかかった時間はわずか7分でした。つまり、写真提供された「天網」は即座に人物の位置を特定して警察を差し向けたことになり、まさに驚異の監視システムと言って差支えないでしょう。

このAI監視システムは現在、中東、アジア、アフリカ各国に輸出されており、監視できる地域はさらに広がっています。あちこちにある監視カメラ画像から自分の位置と行動を読み取られるなんて、想像するだけでもぞっとしませんか。中国には、もうプライバシーも隠れる場所もないのです。

前出のTikTokやTencent社の対話アプリ「WeChat」(ウィーチャット)をこの先も永遠と放置したら、米国ユーザーの情報が着々と中国企業に蓄積され続けるのですから、米国が安全保障上の脅威とみなすのも十分うなずけます。ただ、TikTokやWeChatに関しては、トランプ大統領がアプリの利用を実質的に禁じる大統領令に署名しましたが、表現の自由を侵害しているとの訴えが相次ぎ、配信停止直前で連邦地裁が差し止め命令を出しています。

この「国際経済安全保障」上の米中対立は、今後さらに激化するはずです。すでにモバイルネットワークのバックドアを懸念されたHuaweiなどの通信機器メーカーに対しては、追加の輸出禁止措置が9月に本格導入されました。

◆経済安全保障と日本学術会議

中国では平成20年から海外のトップレベルの研究者を高待遇で招き、先端機微技術や研究成果の集積を行っています(いわゆる「千人計画」)。これに対して自由主義諸国は非常な危機感を持っています。

『週刊新潮』10月5日号では、櫻井よしこ氏が連載コラムの中で、話題の「日本学術会議」の会員が2012年に中国の「外専千人計画」の一員となったことが指摘されています。ただ、これは、かなり前から中国で研究をしている人が日本学術会議にもアクセスした例ではないかと思います。

自民党の甘利明・元経済再生担当相が中国による科学者の招聘事業「千人計画」に「積極的に協力している」とブログに書き込んだことでネットは一時騒然としました。しかし、その後は加藤勝信官房長官も「中国の『千人計画』を支援する学術交流事業を行っているとは承知していない」と会見で否定しており、真相は藪の中です。しかし、どちらにしても、日本の貴重な人材がさまざまなかたちで外国に奪われている構図には警戒が必要です。

米中対立が激化するなか、自由主義諸国が国際経済安全保障上の脅威と考えている中国に対して、今も協力的な日本学術会議とはどういった機関でしょうか? 日本学術会議の会員の任命問題よりも、こちらの方が重大な問題だと感じます。日本学術会議は「中国科学技術協会との協力覚書」を交わしています。

この覚書の冒頭には、「日本学術会議と中国科学技術協会(以後、両機関)は、相互の関係を強化し、個人の研究者及びその関係者間のつながりを育むことは望ましいものと考え、以下の事項に同意後協力関係に入ることを希望する」とあります。

世界中に広がるAI監視システムの脅威は監視カメラのもたらすものですが、すでに昆虫サイズの飛行可能な監視カメラロボットも実用化されています。軍事技術転用可能な研究の流出のリスクを日本学術会議ではどう考えているのでしょうか?

◆参院閉会中審査における山谷えり子氏の質問の意味

10月8日、参院内閣委員会において閉会中審査で山谷えり子参議院議員が「日本の学術会議の学者がこの千人計画に参加しているという報道もある。米国では外国から資金を受けた場合の資金の開示や外国人研究者を入れるときに過去の経歴の申告制度が決められている。日本の平和を守るための研究は禁じておいて、中国に対しては非常に強力的であると姿勢をどうかんがえたらいいのか。この問題について日本学術会議は委員会を開いてそのような問題を議論したことがあるのか?」という質問をしています。

答えは「日本学術会議においてお尋ねの議論がなされたことは承知しておりません」でした。世界が警戒している中国への危機感を感じることも、議論することもなかったようです。日本の科学技術イノベーション・成長戦略は総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔です。こちらは毎年、「科学技術イノベーション総合戦略」を策定し、実行しています。

会員の任命拒否問題で注目された日本学術会議でしたが、日本学術会議の存在意義そのものに疑義が生じる展開となってきました。防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」は将来の軍備用の研究だから参加を禁ずるのでは科学技術の未来を妨害するだけではないでしょうか?

日本学術会議の職員は国家公務員として報酬を受け、その組織は独立して職務を行う内閣府の「特別の機関」ですが、国家予算を使って国家の省庁の研究開発活動を禁止し妨害するなどあってはならない組織です。

国防ジャーナリスト・小笠原理恵

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ