なんとライブ配信も決行! “ねずみの三銃士”最新作『獣道一直線!!!』は稀代の毒婦をめぐる、笑えてイヤ~な気持ちになる傑作舞台

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“面白い演劇に欠かせない俳優”を挙げるとしたら必ず常連メンバーになると思われる、生瀬勝久池田成志古田新太。彼らが“今、一番やりたい芝居を、自分たちの企画で上演する”ためにと結集したのが​“ねずみの三銃士”だ。2004年の『鈍獣』、2009年の『印獣』、2014年の『万獣こわい』と、実際に起きた事件に着想を得た、笑えてイヤ~な気持ちになれる作品を毎回上演してきた彼ら。最新作『獣道一直線!!!』でメインのモチーフとなったのは、いまだに謎が多く残る「婚活保険金連続殺人事件」で、これまでの三作同様に脚本は宮藤官九郎、演出は河原雅彦が手がける。宮藤は今回このシリーズ初の試みとして、出演者としても参加することになった。“ねずみの三銃士”の三人のほかには、いずれも初参加となる池谷のぶえ山本美月が出演し、美しく妖しく謎をたたえながらオモシロも忘れずに華を添える。
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司

物語のスタートはいつも軽妙なコントから、というのが“ねずみの三銃士”の定番の流れだが、今回もストーリーの入口と巧妙に重なる幕開けとなった。舞台上には三脚のパイプ椅子、時間差でやってきてそこに座るのは稽古着、もしくは私服と思われる生瀬、池田、古田の三人。並んで座ると、両足の開き方が見事なほど三者三様に違うところからして面白いバラバラ感だ。この、猛者たちに負けずとも劣らない強烈なキャラクターで下ネタも厭わず怪演する池谷の登場シーンを目にした瞬間、開幕早々にしてこの上昇した期待値は決して裏切られることはないだろうと確信した。そして、その確信は間違いではなかった。
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司

物語は2016年から2020年にかけて起きた殺人事件と、その容疑者をめぐって展開する。被害者は皆、多額の生命保険がかけられており、受取人はいずれも“苗田松子”という女性になっていた。彼女はSNSに嘘で飾り立てたセレブ生活をアップしては“婚活”にいそしんでいた。三人の被害者は苗田に同じEDの薬を服用させられており、そのせいで幻覚として苗田の姿が美女に見えたのか、それとも苗田自身に実はそこまでの圧倒的な魅力があったのか。なぜ金を差し出し、命をも失う羽目に陥ったのか。ドキュメンタリー作家の関はその謎に迫るため、苗田が働く福島の練りもの工場へと向かう。するとそこには彼女にスカウトされた三人の舞台俳優がいた……。
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司

被害者三人をそれぞれ、三人の舞台俳優がドキュメンタリー用に“演じる”ことで、事件の流れが少しずつ分かっていく。それも、“彼女が最後に愛した男性”から始まり、時間軸が過去にさかのぼっていくため、じわじわと謎がほどけていく感覚があり、引きこまれる。

“稀代の毒婦”苗田の謎と、その事件のいきさつを追うため、出演者は各自くるくると大忙しでたくさんのキャラクターを演じ分けていく。再現ドラマを演じる役者三人と事件関係者がクロスしつつ、時々“素”の彼らをも匂わせつつ、物語は進む。生瀬、池田、古田は相変わらずの自由度、演技の深さと絶妙な軽さ、あて書きされた個性を十二分に輝かせて、体力勝負とも言えそうな力技も合わせての熱演。山本は六年ぶり二度目の舞台出演にして、この内容、加えて演劇界のモンスターしかいないこのカンパニーの中、堂々たる大健闘を果たした。とにもかくにも可憐さと初々しさという強力な武器を持ちつつも振り切った役にも果敢に挑戦し、全力でボケる姿もまた可愛く強い印象を残した。そして、何と言っても今回このモチーフでの物語が圧倒的な説得力を持って成立したのは、池谷の存在感があるからこそ。「なぜ彼女に被害者は魅了されたのか?」という問題についても、被害者の気持ちを非常に想像しやすくさせていたように思う。メチャクチャな展開に転がっていくにもかかわらず「あれ? これって純愛もの?」と思わされたりもしたのは、ひとえに池谷の静かな微笑み、上品さを滲ませる色気、豪快なやりとりや下ネタがあったからで、とてもとてもチャーミングな毒婦ぶりだった。
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司

一体、何が真実か、本当に怖いのは何か。自粛警察、誹謗中傷に満ちた現代社会の闇、そして悪に魅せられる心理とは何か。騙されたのか、騙されたかったのか、ハマったのか、ハメられたのか。謎は深く、笑いは濃い。盛りだくさんのネタを散りばめた凝った構成の脚本と演出には当然ながら今回も見応えがあり、クスクスと笑いながらも背筋がゾクッとしたりするのに、次の瞬間にはなんだか切なくてたまらなくなる。それでも「いいのかな?」と思いながらもやはり結局は爆笑してしまう場面の連続は、“ねずみの三銃士”でしか味わえない至福の演劇体験だ。
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』 撮影:細野晋司

日によっては劇場でナマで観られるチャンスがまだありそうだが、なんとデンジャラスなことに今回はライブ配信も決行されることに! まるでブラックジョークのようなこの現実をも、作品にまぶされた刺激的な毒成分で思い切りよくスカッと笑い飛ばしてデトックスできてしまいそうな痛快作。未見な方はもちろん、リピーターも合わせてこれは貴重な機会となるはず、ぜひともチェックをお忘れなく。

当記事はSPICEの提供記事です。

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