アル中はダメな人なのか?元アル中漫画家まんきつ×ソーシャルワーカー斉藤章佳

日刊SPA!

芸能人による不祥事の報道ではアルコール依存症の無理解が目立つ。“だらしない”と一刀両断するばかりで、どこか他人事なのだ。コロナ禍で依存症者が増えている今、無理解はさらなる悲劇を生む。“誤解”がなぜ生じたのか考えてみた。

◆アルコール依存症の理解を妨げる“アル中イメージ”

アルコール依存症に苦しんだ漫画家まんきつ氏と、依存症治療に長年携わる精神保健福祉士・斉藤章佳氏の対談から、アルコール依存症にまつわる誤解を読み解く。

斉藤:日本ではアルコール依存症予備軍は1000万人以上いると言われています。コロナ禍の外出自粛と同じで、今後、新しい生活様式によって働く時間が自由になると、飲酒開始時間が早まって相対的飲酒量も増え、アルコール依存症に苦しむ“ネクタイアル中”が増加する恐れがあります。

まんきつ:怖いですね。私は、面白いブログを更新しなきゃというプレッシャーから逃れたくてお酒に頼りました。最初こそ気分転換のつもりでしたが、朝からウイスキーを飲むようになって以降、飲酒欲求を抑えられなくなりました。

斉藤:飲酒開始時間が早まるのは問題飲酒の前兆です。そもそも飲酒歴には段階があります。「初飲」「常飲」の次が警告のサインとされる「問題飲酒」で、酒で何かを失う飲酒行動を指します。

◆“お酒をやめざるを得ない状況に追い込まれた人”は、アルコール依存症

まんきつ:初のトークイベントでガチガチに緊張して「お酒を飲めば今を乗り越えられる」と思いワインをがぶ飲み。まったく記憶がなくて、翌日DVDで確認したらおっぱいを出していました。これも問題飲酒ですか?

斉藤:そうですね。単発なら笑い話で済みますが、飲むたびに問題飲酒になっていると、それは次の「飲酒パターンの変化」のステージで、アルコール依存症との診断がつくレベルです。手の震え、不眠、抑うつ状態、幻覚・幻聴といった離脱症状が表れます。

まんきつ:私の場合、空を見るとフェイクプレーン(飛行機に擬態しているUFO)が話しかけてきたり、家中のお酒を飲み干して料理酒にまで手を伸ばしたり……。

斉藤:以前はクリニックの消毒液に手を伸ばす患者もいましたよ。この「問題飲酒」から「飲酒パターンの変化」に移行する過渡期はグレーゾーンなので、依存症の見極めが難しい。コントロール障害、薬物探索行動など、専門的な指標はありますが、私の中では、“お酒をやめざるを得ない状況に追い込まれた人”は、アルコール依存症と言えます。

◆精神論で語られがちなアルコール依存症と嘘

――酒気帯び運転で交通事故を起こした元TOKIOの山口達也容疑者。「自分に甘い」「だらしない」といったアルコール依存症の誤解を生むような報道が目立ちました。

斉藤:アルコール依存症者に対するイメージ調査(内閣府/2016)を見ても「本人の意志が弱いだけで性格的な問題である」「昼間から仕事にも行かずお酒を飲んでいる」と非常に悪い印象です。

まんきつ:恥ずかしながら私も、日本刀を振り回して流血沙汰といった暴力的なイメージでした。

斉藤:「暴言を吐き、暴力を振るう」「路上で寝ている」などは“アル中イメージ”と呼ばれ、アルコール依存症に対する典型的なスティグマ(負の烙印)。そもそも中毒と依存症はまったく別ものです。

まんきつ:誤解されやすいですね。

斉藤:中毒は一過性の身体症状で、依存症は習慣です。それに今の依存症者は、生活破綻しているようには見えないサラリーマンも多く、“静かなアルコール問題”とも言われています。長年にわたって形成された、偏った“アル中イメージ”は、アルコール依存症への正確な理解の妨げになっています。

まんきつ:「お酒に強い人や飲酒量が少ない人は、アルコール依存症にならない」も誤解ですよね。大量にお酒を浴びて糞尿まで漏らしていた知人に比べたら、私なんてお酒好きで少し飲みすぎちゃったかなって感じだったから、まさかアルコール依存症と診断されるわけがないと思っていました。

斉藤:漫画で描かれていた「完全に誤診だな」というシーンですね。

まんきつ:はい。2度目の診断で「ビール一缶でも自分の意思で飲みたい気持ちを抑えられないなら、それはもう立派な依存症」と診断医に一蹴されました。

◆アルコール依存症は脳の報酬系の機能不全

斉藤:当の本人が認めないのもこの病気の特徴のひとつ。“否認の病”と言われる所以です。またかつては、再飲酒して病院に戻ってきた患者に対し、「意志が弱い」「反省が足りない」と、精神論で語られた時代があった。ですがそれは、花粉症の人に「くしゃみはダメ」と言い、したら“裏切り者”呼ばわりするのと同じ。アルコール依存症は脳の報酬系の機能不全だから、それは誤った認識です。

まんきつ:叔父がアルコール依存症で亡くなっていて、「遺伝なので一生付き合っていくしかない」と診断医から言われました。遺伝因子と依存症が関係しているのを知らない人は多いんじゃないかな。

斉藤:そうですね。アルコールに限らず依存症は、遺伝的要因、生育環境、心理社会的な要因など、いろいろな要素が重なっています。

まんきつ:父親は祖父から暴力を受け、私も父親からかなり酷い暴力を受けてきました。

斉藤:親からの暴力や虐待が日常化した「機能不全家族」では、子供の自己肯定感は健全に育ちません。実は依存症になりやすいお酒の飲み方があって、心地よい酩酊感を求める飲酒(正の強化)ではなく、自己否定的感情である不安や孤独感、そうした負の感情をお酒で遠ざける(負の強化)。一時的に気分は和らぐが、シラフに戻ると自己嫌悪がより強くなる。それが辛くてまた飲む。これが危険な飲酒習慣に繋がる魔のサイクルです。

◆日本には自己責任論が蔓延しているから生きづらい

まんきつ:「今、飲まないと死んじゃう」のループでした。今はもう、サウナや気功整体など、アルコールの代わりに依存できる抜け道を通るようにしています。

斉藤:お酒以外の依存先を持つのはいいですね。断酒はどの位に?

まんきつ:1年近くです。以前はスリップ(再飲酒)のたびに「生きている価値はない」「消えたい」と自分を責めました。そうそう、半年くらい断酒が続くと「一杯くらい平気でしょ?」と思っている人は多いですが、スリップすると止まらなくなるからダメなんです。

斉藤:スリップの時、誰よりも自己嫌悪に陥るのは当の本人。だから、説教や正論は傷口に塩を塗るだけ。完治はしないけど、再発と改善を繰り返しながら回復していくのがアルコール依存症。スリップは新しく立ち直るきっかけです。

まんきつ:そんなふうに考えたことなかったなあ。

斉藤:回復過程で重要なのは「依存症に至った責任は本人にはないけど、そうと診断された以上、回復する責任は本人にある」という回復責任論という捉え方です。この考え方が浸透している社会のほうが、カミングアウトしやすいし、回復していきやすいです。でも、欧米に比べて日本は、自己責任論が蔓延しているから生きづらい。

まんきつ:依存症というだけでダメな人という烙印を押すのはおかしい。誰も望んでそうなってない。

斉藤:お酒を一滴も飲めない人以外、アルコール依存症になるリスクは誰にでもあります。だからまずは、適正飲酒量を守ってアルコールと付き合うこと。そして、依存症者に対して正しく理解し、本人を責めない。周囲の人には、そのあたりを知ってもらいたいですね。

【漫画家・まんきつ氏】

2012年に開設したブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」が注目。アルコール依存症の日常を綴った漫画『アル中ワンダーランド』は7万部超のヒットを記録した。

【ソーシャルワーカー・斉藤章佳氏】

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部部長。長年、さまざまな依存症問題に携わり、依存症問題のインフルエンサーとしても活躍している。

<取材・文/谷口伸仁 撮影/杉原洋平>

―[『アル中ワンダーランド』文庫版]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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