【おそ松さん特集11】藤田陽一が『えいがのおそ松さん』に込めたこと

『おそ松さん』第3期放送開始を記念し、月刊アニメージュのバックナンバーに掲載されたインタビューを再掲載して6つ子の世界の魅力をあらためて紹介する特集「おそ松さんを6000倍楽しもう!」。
今回は2019年5月号掲載、『えいがのおそ松さん』について監督・藤田陽一が語ったインタビューだ。
2019年3月15日から劇場公開された『えいがのおそ松さん』は、”思い出の世界”へ迷い込んだ6つ子たちが高校時代の自分たちと出会う、というストーリー。
かつての”イタい”自分たちの姿に悶絶する6つ子の姿は爆笑を呼び、卒業式間際にカラ松が受け取った謎の”手紙”の記憶と、同級生・高橋さんをめぐるエピソードは切なくほろ苦く、しかし、この上なく優しいドラマを紡ぎ出す。
シリーズを追い続けたファンにとって最高のプレゼントでありつつ、独立した映画としても完成度の高い本作について、藤田監督が語る。
なお、このインタビューは映画公開後に掲載されたものなので、映画の核心部分に触れた内容が含まれていることをお断りしておく。

がっつり語るよ! えいがのこと
藤田陽一【監督】

高橋さんで映画がしまった

ーー今回は公開後の記事なので、ネタバレありでいろいろ聞かせてください。まずはやっぱり「高橋さん」の話、聞いてもいいですか。

藤田 はいはい(笑)。

——高橋さんはどういう経緯で誕生したキャラクターだったんですか。

藤田 今回、まずはファンが喜んでくれるものを詰めていこうってところからスタートして、18歳の6つ子を出そうとか決めていったんです。でも、まだ”映画”になってないな……と思った時にふと風呂場で、高橋さんのこととか、それにまつわる「思い出の世界」とかのアイデアを思いついたんですよ。その時に、一気に映画としての筋が通った感じはありましたね。

——「”映画”になってない」というのは、具体的にどのあたりが引っかかっていたんでしょう?

藤田 ずっと「過去」ってところが引っかかっていて。「同窓会に行って、過去に行って……」という6つ子の話から組み立てていったんですけど、同窓会の後悔だけで過去に行けちゃうっていうのが、いまひとつ説得力が弱く感じたんです。それだけなら、いつでも過去に行けちゃうじゃんって。だからもうひとつフックがほしいなと思って。6つ子たち自身以外に6つ子に関連して後悔を残している人というか「自分のことを覚えていてほしいと思っている誰か」、それから実際の過去の世界ではなくて夢なのか現実なのか曖昧な「思い出の世界」。それだったら「思い出」というテーマで1本、映画としての筋が通せるな、と。

ーー高橋さんの「自分のことを覚えていてほしい」という気持ちと、6つ子自身の後悔が、6人を思い出の世界へ引き寄せた。

藤田 そうですね、どっちかだけだと弱いかなと思って。相互作用じゃないですけど、たまたまあの瞬間に2つの思いがリンクして奇跡が起きた、みたいな。そんな奇跡が起こるくらいだから、それなりに重たい思いがないと、自分の中で何となく腑に落ちなかったっていうのものありましたね。で、そこからスタートして高橋さんまわりを組み立てて行ったけど、松原(秀)くんが脚本で膨らませてくれた結果、思った以上に含みのあるキャラクターになったんですよ。正直あんなメタな感じに見えるとは、最初は思ってなくて。

ーー「メタな感じ」というのはつまり、高橋さんの姿や視線に、『おそ松さん』という作品や6つ子たちを応援してきたファンの気持ちみたいなものが重なるという……。

藤田 そうですね。

ーーじゃあ、そこは「高橋さん」というキャラクターに後から付け加えられた要素なんですね。

藤田 後から付け加えたというより、そういうニュアンスがより顕著になったのかな、という感じです。そうなるのはもちろん、悪いことではないし。あとは、あの6人だけじゃあ、過去に行ってもストーリー的に行き詰まるなと思ったんです。賢い奴が誰もいないんで、誰か水先案内人がいないといけないなという都合から、黒猫が登場したりとか。黒猫になったのは、赤塚(不二夫)さんが猫好きだったから、映画やるんだったら猫を出したいなという思いがあって。そんな風にいろいろな要素が並列で、たまたま組み合わさったっていう面もあります。

ーー高橋さんは、見た目はちょっと地味で、マイペースで、天然ボケも入っていて、でもわりと元気のいい子というキャラクターでしたね。

藤田 そこは自分好みのバランスも入ってますけどね。あと、手紙をもらって会いに行ったら、めっちゃ美少女がいた……というのも、なんか嘘くさいなと思って。何てことない普通の子が、自分たちの肯定してくれるっていうほうが、むしろ気持ちよいというか。絶世の美少女に「好きだったよ」と言われるような立派な青春ではないし(笑)。あの6人のことを気に入るのって、どんな子だろうなっていうイメージから、ああいうキャラになっていったってとことですかね。浅野(直之)くんとキャラクターデザインの打ち合わせしたときは、「こういう感じの子って十四松の彼女もいたから、難しくないですか?」って話も出たけど。また違うパターンあるかなと、いくつか描いて探ってもらった中から、あのデザインに落ち着いた感じです。あと、ほとんど前振りのないところから、佐藤利奈さんがよくあそこまでバッチリ演じてくれたなと思いますね。

ーー冒頭から思わせぶりに存在が匂わされつつ、前半は黒猫に想いがダブらされていて……。

藤田 「ニャー」しか言わない。

ーーそして最後の最後に登場し、いきなりストーリーの軸を担う。

藤田 TVシリーズを含めると2年以上、好き勝手やってきた作品に、いきなりゲストで登場して、いきなりえげつないバトンを渡されるというね(笑)。音響監督の菊田(浩巳)さんとも相談して、しっかり場数を踏んでいるベテランの方にお願いできればと、佐藤さんにお願いしたんですが、想像以上のお芝居でした。最後の手紙も、あんな風に見事に読んでもらえるとは。おかげで、しっかり映画がしまったなと思います。



(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019

松原秀が深掘りした6つ子のこと

ーー高橋さんを軸にしたちょっと切ない青春ストーリーの一方で、特に前半、ハチャメチャなギャグはやっぱり相変わらずというか(笑)。

藤田 ははは(笑)、基本はコメディですからね。いつも通りのコントをやりつつ、映画なのでそれだけじゃない要素も入れましたよ、くらいのバランスかなと。むしろ、6つ子が18歳の自分たちを見て「死にたい!」って悶えるくだりを中心にお話作りがスタートしたので、よくぞこんな普通の映画の形になったなっていう(笑)。あとは観た人それぞれ、お好きなところを拾って楽しんでくださいって感じです。

ーー手紙の件を覚えているのがカラ松だった理由はありますか?

藤田 まあ、ほんのりと。まず、それなりの大ごとにするなら、自分の中ではおそ松かカラ松しかないなと思ったんですよ。で、2人のどっちにするか迷って……ぶっちゃけ理由のひとつは、カラ松くんがわりと人気があるってところ(笑)。あとは、おそ松が悩んでのあの展開だと、ちょっと重すぎるかなというのもありました。何かひとつ決定的という理由があるわけじゃなくて、そういういろいろなことからです。ただ、キーマンになるとどうしてもボケが減っちゃうんで、ちょっとかわいそうかなって思いつつの選択でした。

ーー言われてみればカラ松は、もちろんギャグ場面もありましたけど、笑える要素には比較的深入りはしていなかった気がします。

藤田 回し役はお笑い的には損をするんですよね(笑)。本当は中村悠一さんも、もっとボケたかっただろうなと思いつつ。ただ「キーマンをカラ松にした場合」でシミュレートをした時に、大人の6つ子と18歳の6つ子がやりとりする場面の、カラ松同士のやりとりのボケを思いついて、これはイケる! と(笑)。

ーー大人のカラ松が「自分たちがモテてる」と嘘をついたら、18歳のカラ松がダマされて「かっこいい~!」となって(笑)。サングラスも継承(?)されますね。

藤田 ”終わりの始まり”みたいなやりとりですね。いい話のようで、全然いい話じゃない(笑)。これならカラ松でいけるな、と。

ーー大人の6つ子と18歳の6つ子がそれぞれに会話をする場面は、今回の映画の大きなキーポイントだったと思いますが。

藤田 カラ松については、今、言ったようなネタをこっちから出しましたけど、他は全部、松原くんにお任せでした。松原くん自身も「あそこは素直に出てきた。TVシリーズを真面目にやってきてよかった」って言ってました(笑)。今回は、6つ子には松原くんが踏み込んでくれたので、オレはそれ以外の部分、コントのネタ出しだったり、高橋さん絡みのところだったり、映画としての全体のルックを整理した感じです。あの終盤のやりとりで言うと、個人的にはトド松同士のやりとりが一番好きだったかもしれないですね。トド松が、TVシリーズでも見せなかった本音をカミングアウトする。でも「思い出の世界」の中でのことなので、それが本当に現実に干渉しているかどうかはわからない……というバランスもいいな、と。そういう意味でも「思い出の世界」って設定を思いついたときには「勝った」と思いました(笑)。



(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019

こだわり満載の思春期バスターズ

ーー今回の映画、全体的にいつもの悪ふざけが目立ったり、はぐらかしたりもしているけれど、どこか「優しさ」が感じられました。藤田さんや松原さんの人柄かなと思ったりしたのですが。

藤田 はははは(爆笑)。まあ……自分的には、はじめてのオリジナル映画(注:過去の監督作『劇場版 銀魂完結篇 万事屋よ永遠なれ』は原作・空知英秋のネームがベース。『おそ松さん 春の全国大センバツ上映会』は総集編+αで構成)だったので、観客へのホスピタリティに徹したっていうのはありますね。

ーーファンや観客に対してももちろん、作中の登場人物に対しても優しさを感じました。最近は「イジり」というお笑いの手法も扱い辛くなりましたが、それこそ6つ子の「イジり方」も、どこか優しいというか。

藤田 個人的に「悪人」が描けないっていうのは昔からありますけど。あとは、松原くんはオレより優しいと思いますよ。オレがわりとドライなプロットを書いたりするところも、ちゃんとホットなシナリオに落とし込んでくれる。それはやっぱり、彼が放送作家という出自だから、お客さんの顔が見えているのかなと思いますね。そこでバランスが取れているのかもしれないです。最後に6つ子が高橋さんに「ありがとう」って言う場面も、作ってくれたのは松原くんです。オレのプロットだともう少し切ない感じで終わっていたけれど、松原くんがちゃんとホットなシーンにしてくれました。オレだと照れてできないところもストレートに表現してもらえて、結果としては本当によかったです。

ーーほかに、藤田監督的に手応がえあったシーンなどはありますか?

藤田 やっぱ、細かいコントみたいなところは楽しかったですね。一松とトド松のカラオケのやりとりとか、ちょっといいシーンに無理矢理、野球ネタを放り込んだりとか。あとはスタッフが、こっちの想定以上に6つ子に細かく芝居をつけて動かしてくれたので、映画ならではの絵にしてもらえたなっていう手応えはありましたね。「仰げば尊し」からの思春期バスターズの流れとか、温度差が最高で。実はあの場面にも、めちゃくちゃどうでもいいこだわりがありました。たとえば「思春期バスターズ」っていうタイトルロゴが出てくるんですけど、最近は普通、デジタルでやっちゃうんです。でも今回は「せっかくの劇場版だし、手描きで『(最強ロボ)ダイオージャ』風にやってもいんじゃない」って、手描きでやってくれました(笑)。

——「せっかくの劇場版だし」って、魔法の言葉ですね(笑)。

藤田 (笑)。あのロゴは、動くときにちょっと立体が歪む荒っぽいころも含めて、最高に好きですね。あと、正義のヒーロー風のネタはTVシリーズでもやったんで、思春期バスターズは「思春期の思い出を破壊する悪のヒーロー」というコンセプトで、浅野くんにデザインしてもらったんですよ。

ーーなるほど。「仰げば尊し」が流れる中、18歳6つ子が屋上に集まって口論しているうちに……という場面がセリフなしで描かれる、青春ドラマ的には切ないけれどいいシーン。なのに、思春期バスターズが登場して台無しにしますね(笑)。

藤田 青春の切なくも美しい一場面をぶち壊しにくる、荒んだ大人たちというコンセプトですね。だから背中に「死」とか「呪」とか書いてあります(笑)。音楽の打ち合わせでも「悪いヒーローなんですよね」「じゃあ、テーマソングはヘビーメタルっぽい感じでどうですか」とか、話をしました。

ーーつまり、そこで青春の大事な一場面をぶち壊されてしまった結果、6つ子たちはああなった。自分たちで、今の自分たちになるきっかけを作ってしまった、みたいな?

藤田 そこはまあ、「思い出の世界」の中だから。さっきも言ったとおり、どこまで現実とリンクしているかわからないけどね……ってことで。それに、リンクしていたとしても、それが良かったのか悪かったのかわからない。けど、まあ、どっちでもいいじゃんって。「これでいいのだイズム」ってことですね。


(初出=アニメージュ2019年5月号)

(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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