オルタナカントリーの先駆けとなったエルヴィス・コステロの『オールモスト・ブルー』

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パンク~ニューウェイヴ文脈で77年に登場したエルヴィス・コステロ。彼のデビューアルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー』はロック史に残る傑作である。実際にはパンクロックではなかったが、「アリソン」をはじめとする名曲群を収めたこのアルバムが、パンクロック嫌いのロックファンをパンクロックに振り向かせるきっかけとなったことは間違いない。今回取り上げる本作『オールモスト・ブルー』は彼の6枚目となる作品で、コステロ作品の中で最も聴かれていないアルバムかもしれない。それは、本作がカントリーのカバー集であり、アレンジも至極まともな正統派カントリーに聴こえるので、特にパンクロック好きには敬遠されたからである。しかしこのアルバム、80年代初頭のヒットチャートがポストパンク、シンセポップ、ディスコなどの音楽で占められていた時に、一部の若者にとってはとても新鮮なサウンドとして受け入れられた。『マイ・エイム・イズ・トゥルー』とは逆に、本作はカントリー嫌いの若いパンクファンをカントリーに振り向かせることとなり、90年代初頭に台頭したオルタナティブカントリー・ムーブメントに大きな影響を与えるのである。

■アメリカ音楽に大きな影響を受けた イギリスのパブロックシーン

イギリスのパブロックシーンは60年代半ばから活況であった。多くのグループやシンガーが、アメリカのソウル、フォークロック、ブルースロック、カントリーロック等のカバーや、それらに似たオリジナルを居酒屋で演奏し人気を博していた。60年代後半からは主にバーズ、ザ・バンド、CSN&Yに影響を受けたアーティストが増えたが、その中でもニック・ロウが在籍したブリンズリー・シュウォーツは大きな人気を集め、大手レコード会社(ユナイテッド・アーティスツ)と契約している。彼らが先陣を切るかたちで、ギャラガー&ライル、グリース・バンド、ダックス・デラックス、ドクター・フィールグッド、グレアム・パーカーなど、パブロックならではのアーティストが次々にデビューする。

■パブロッカーとして活動する エルヴィス・コステロ

コステロはブリンズリーに影響を受け、ブルーグラスやカントリーロックを演奏するフリップシティというグループで演奏を続けるものの芽が出ず、ソロアーティストとして再スタートを切る。そして、ニック・ロウのプロデュースでデビュー作にして名作『マイ・エイム・イズ・トゥルー』をリリースするのである。

『マイ・エイム・イズ・トゥルー』はアメリカのグループでイギリスのパブに遠征に来ていたカントリーロックグループのクローバーがバックを務めることになるのだが、このグループにはのちに大成するヒューイ・ルイスをはじめ、ドゥービーブラザーズに加入するスーパーギタリストのジョン・マクフィーらが在籍していた。このアルバムのレコーディング時、コステロはマクフィーやロウらと、リスペクトするグラム・パーソンズ(バーズ、フライング・ブリトー・ブラザーズに在籍)の音楽について語り合いながら、ひねったカントリーロックアルバムの制作を模索していたようだ。実際、のち(1993年)に発表されたこのアルバムのアウトテイクのひとつ「Stranger in the House」ではマクフィーのペダルスティールギターをフィーチャーし、ストレートなカントリー(ひねりはない)を披露している。

■アトラクションズの結成

デビュー作の後、コステロ専属のバックバンドが結成され、2枚目の『ジス・イヤーズ・モデル』(‘78)からアトラクションズとして参加する。メンバーは、ブルース・トーマス(Ba)、ピート・トーマス(Dr)、スティーブ・ナイーブ(Key)の3人。3枚目の『アームド・フォーセス』(’79)以降のアルバムはエルヴィス・コステロ&ザ・アトラクションズ名義でのリリースとなり、4th『ゲット・ハッピー!』(‘80)、5th『トラスト』(’81)まで、コステロの才能が炸裂する名作群が生まれる。『トラスト』にはアトラクションズをバックにして初めてのカントリーナンバー「Different Finger」が収録され、これは本作に向けてのリハーサル的な意味合いがあったのかもしれない。

実際にはピート・トーマスはカントリーロックグループのチリ・ウィリ・アンド・ザ・レッドホット・ペッパーズに在籍しており、ブルース・トーマスもクイバーというカントリーロックグループにいたので、ふたりともカントリー系のバックはお手のものである。

■本作『オールモスト・ブルー』について

そして、コステロ初のカバーアルバムとして本作『オールモスト・ブルー』はリリースされる。バックはアトラクションズの他、トミー・ミラーがフィドル、男女混合コーラスグループのナッシュビル・エディション、そしてデビュー作でもバックを務めたジョン・マクフィーがギターとペダルスティールで参加している。プロデュースはサザンソウルとカントリーの両方で活躍するビリー・シェリルで、まさに本作にとっては最適のプロデューサーである。

収録曲は全部で12曲。ハンク・ウィリアムス(1)、ドン・ギブソン(2)、ロレッタ・リン(3)、マール・ハガード(5)、ジョージ・ジョーンズ(6、7、9)、チャーリー・リッチ(8)、ドティ・ウエスト、エミルー・ハリス他(10)といった大物カントリーシンガーのカバーの他、ブルースシンガーのビッグ・ジョー・ターナー(11)の曲も収録している。「I’m Your Toy」「How Much I Lied」はグラム・パーソンズのナンバーで、フライング・ブリトー・ブラザーズ時代の「Hot Burrito #1」がなぜか「I’m Your Toy」と改題されているのだが、僕はその理由を知らない。また、マール・ハガードの「The Bottle Let Me Down」はグラムの愛唱曲でもあり、だからコステロはこの曲を取り上げたのかもしれない。

バックを務めるアトラクションズとマクフィーの演奏は素晴らしく、カントリーの焼き直しというよりはロックスピリットに満ちた新解釈のカントリーと言ってもいいだろう。中でも、スティーブ・ナイーヴはロックフィールを持ちながら、カントリーならではのホンキートンク・ピアノが実に上手い。言うまでもないが、マクフィーのギターとペダルスティールは秀逸で、ハードロックからカントリーまで守備範囲とする彼の存在なくしては、このアルバムは成立しなかっただろう。

しかし、やはり主役はコステロのカントリー的でないヴォーカルであり、これが本作をオルタナティブ化しているのである。実際、この作品を聴いてカントリーが好きになり、90年代にオルタナカントリーのアーティストとしてデビューした当時の若者は少なくない。そして、これはコステロの狙いでもあったのだろうが、本作のリリース以降、グラム・パーソンズの見直しが始まる。

コステロのパーソンズへの思いはオルタナカントリーのアーティストたちにも引き継がれ、現在はグラムへの極めて正当な評価が下されるようになったように思う。これまで“カントリーだから”と本作を無視してきた人は、邪険にしないでこの機会にしっかり聴いてみてほしい。

余談だが、本作がリリースされた時、輸入盤のシュリンクラップにステッカーが貼られていて、そこにはコステロ本人のイヤミとして“Warning! This album contains Country & Western Music & may produce radical reaction in narrow minded people.”(注意! このアルバムにはカントリー&ウエスタンが収録されており、心の狭い人々には面白くないでしょう)と書かれていた。

TEXT:河崎直人

アルバム『Almost Blue』

1981年発表作品

\n<収録曲>
1. ホワイ・ドント・ユー・ラヴ・ミー(ライク・ユー・ユースト・トゥ・ドゥ)? /Why Don't You Love Me (Like You Used to Do)?
2. スウィート・ドリームス/Sweet Dreams
3. サクセス/Success
4. アイム・ユア・トイ/I'm Your Toy
5. トゥナイト・ザ・ボトル・レット・ミー・ダウン/Tonight the Bottle Let Me Down
6. ブラウン・トゥ・ブルー/Brown to Blue
7. グッド・イヤー・フォー・ザ・ローゼズ/A Good Year for the Roses
8. シッティン・アンド・シンキン/Sittin' and Thinkin
9. カラー・オブ・ザ・ブルース/Colour of the Blues
10. トゥー・ファー・ゴーン/Too Far Gone
11. ハニー・ハッシュ/Honey Hush
12. ハウ・マッチ・アイ・ライド/How Much I Lied

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