祇園・夜の街で「お母さん」と呼ばれる女将の人情。毎晩ホステスが泣きに来る

日刊SPA!

 京都の観光エリア・祇園に、地元メディアでは有名な和食店がある。その名も「祇をんひつじ」。京都の食材を中心に一品料理やスイーツなどを提供する人気店だ。

しかし、人気の秘密は「味」だけではない。店を経営する女将は祇園の元ホステス。彼女の「義理人情」に惚れ込み、通い詰める客が後を絶たない。女将のもとには悩みを抱えたホステスをはじめ、芸妓や舞妓などが集まってくるという……。

◆ホステスを引退して「おばんざい屋」の女将に

「若い時からご飯屋さんをしたかってん。元々20年くらい祇園でホステスをやってたんやけど、そっから独立してお店を始めたんよ」

そう語るのは、「おばんざい屋」の女将・曽我良子さん。おばんざいとは、惣菜を指す京ことばだ。良子さんは13年前、京都・祇園の一角に小料理店「祇をんひつじ」を開業。長きにわたり京都の夜の街を支え続けてきた。

「今は10人くらいスタッフ抱えとるけど、当時は後輩ホステスとふたりで『女将』と『番頭』でやっててん(笑)」

店をオープンした初日にはホステス時代の仲間や常連客が駆け付け、中には1日で4回も来店してくれたホステスもいたという。

ホステスから念願の女将へと転身した良子さんだったが、開業当時は「3日でやめよう」と思ったそうだ。

「最初はほんまにすっごい大変で。ホステスの時は、自分はお客さんの横に座って喋ってるだけ。氷持ってくるとか、グラス持ってくるとかは、手ぇ上げたらボーイさんが全部やってくれはる。でも、女将やと全部自分でやらなあかん」

食材の調達から仕込み、調理や接客をすべて後輩ホステスと二人三脚でこなす日々。当時の睡眠時間は毎日2時間だったという。

「開業から1週間くらい経つと、毎朝気付いたら涙がポロポロ出ててな。あん時は病んでたんやろうなぁ。『なんでこんな事してしまったんやろ』って後悔した。でも、人間やればできるもんやな。番頭の子も頑張ってくれて、お客さんが支えてくれた」

「人の気持ちに支えられて続けてこられた」という良子さん。そんな良子さんの人柄に引き寄せられるように、店には毎晩ホステスたちが人生相談にやってくる。

◆「泣き」にやってくるホステスたち

祇をんひつじは1階をカフェ、2階をおばんざい屋として経営している。

当初は今よりも小さい店舗で料理のみを提供していたが、「祇園には夜遅くまでやっているカフェがない」とカフェ開業を決意。別物件に移転し、今の営業形態となった。

カフェは深夜2時まで営業しており、仕事終わりのホステスたちの「憩いの場」となっている。

「ホステスさんでな、泣きに来る子もおんねん。仕事でつらかったこととか、普段の生活でつらいことを話してくれはるんよ。水商売って難しい仕事やん? 何も知らん、年代も違う人を接客せなあかん。どんな仕事してはるかも知らん人を接客して、話を盛り上げて、そっから次に繋げる。難しいなぁ思うねん。自分もホステスやってたから、その気持ちが痛いほど分かる」

水商売で働く女性の中には、様々な事情を抱えた人間も多い。そんな彼女たちの話を、良子さんは13年間ずっと聞き続けて寄り添ってきた。

「いろんな子がおるよ。小さい時から家庭環境が悪かったり、男に泣かされたり、子供がおったり。『話して楽になるんやったら』って話はめっちゃ聞くし、女の子たちから聞いた話は絶対よそでは喋らへん。墓場まで持っていく。店のドア開けた瞬間にスライディングして入ってきて泣く子もいたで。今はいっぱしのママになっとるけどな(笑)」

夜の街で働くホステスたちにとって、良子さんのように「気持ちを分かってくれる存在」は頼もしく、心の拠り所にもなる。「女の子が安心して泣けて、水商売の人が安心して来れるようなお店作りをしていきたい」と良子さんは語る。

「常連のお客さんはほとんどが水商売の人間。ホステスさんとか、ママさんとか。せやから、ホステスさんが同伴で来はったらお酒は薄く作るねん。後がしんどいの知ってるさかいな。逆に、『先に出勤しますわ、お客さんお願い』って、連れてきたお客さんを置いてかはる人もいはる(笑)」

ホステスだけでなく、花街の芸妓や舞妓にも人気だ。店の柱には、来店の記念に「千社札」と呼ばれる芸舞妓の名刺がたくさん貼られている。

「芸妓さんや舞妓さんがお稽古帰りにスイーツを食べに来てくれはるの。13年もやってたら、若いホステスで上手に喋れへんかった子が独立してママになったり、幼い仕込みさんやった子が綺麗な芸妓さんにならはったりね。そういう人たちが今でも利用してくれて、『お母さん』なんて呼んでくれる。嬉しいなぁって思うね」

そうして夜の街で数十年築いてきた縁をもとに、「祇園をもっと楽しんでほしい」と、良子さんは9年前からとあるイベントを始めた。

◆夜遊びの「広がり」を提供

「クラブやラウンジで遊ばはるのもええんやけど、せっかく京都の祇園に来て遊ばはるんやったら、芸舞妓さんたちとも遊んでいただきたいなって」

2階のテラス席を利用し、定期的にイベントを始めた良子さん。

季節毎に行われるそのイベントでは、コース料理を食べながら芸舞妓の踊りや弦楽器の演奏、シャンソンライブなどを楽しめる。

「春の時期やったらテラスに桜を飾ってライトアップして、それをバックに津軽三味線やニ胡(※中国の弦楽器)、シャンソンのライブをやってます。2月は『節分お化け』やね。芸舞妓さんを呼んで仮装してもらって、舞いを披露してもろうてます」

節分お化けとは、古くから京都を中心に行われていた厄払いの儀式だ。

節分の日に仮装して寺社仏閣へ参拝するものだが、京都では町おこしの一環として花街を中心に数年前から毎年行われている。

通常、「お座敷」に芸舞妓を呼ぶと数万~数十万かかるが、祇をんひつじでは食事代と花代5千円で楽しめる。演奏ライブは2ドリンクとコース料理付きの1万円。オトナの遊びとしてはリーズナブルな価格だ。

「ただ単にご飯食べて『ほな帰りますわ』でもええんやけど、祇園楽しいなぁって感じてもらいたいんよ。ライブが見れるとか芸舞妓さんが来てくれるとか、あれもこれも詰め込んだおばんざい屋です(笑)」

こうした良子さんの取り組みと心意気に触れ、常連となる経営者も多い。

提供する料理にもこだわっているという良子さんだが、信念にしているのは「変わらないこと」だ。

◆「祇園で生きて祇園で死ぬ」夜の街で生き抜く覚悟

「変わらへんっていうのも大事やと思うねん。ご飯だけじゃなくて、ウェルカム感もな。今回コロナで大変なことになって、『店手放さなあかんかも』って瞬間もあった。コロナで閉めた贔屓筋の店も多い。けど、コロナやから経営が大変やからって、特別なことはしたくないねん。いつ来ても同じで変わらへん店って、なんかホッとするやん」

新型コロナウイルスの影響で経営が追い込まれ、生き残るために経営戦略や営業形態を変えた飲食店は多い。しかし良子さんは、「周りの方々に支えられてきたからこそ、変わったらあかん」と言う。

「バタくさい言い方すると、人情やな。13年間、お客さんが店を作ってくれはった。その気持ちを思うと、裏切ったらあかんなって。ほんまは何年か前にも辞めよう思った時期があってん。辞めて違う事しよう思っててんけど、お客さんから『女将、来月○○さん連れてくるからな』って言われたり、次々予約が入ったり。神の啓示やなぁって思ったね。『今辞めたらあかんで、たかだか何十年しか商売してへんくせに』ってことやなって。せやし今回も、限界まで頑張っていこう思ってるよ」

夜の街の人生ドラマを見続けてきた女将の灯は、まだまだ消えそうにない。<取材・文/倉本菜生、写真提供/祇をんひつじ>

【倉本菜生】

福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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