“見た目”で苦しんだ自分が救われたくて――アザがある少女の物語 <鈴木望×水野敬也対談>

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 太田母斑という、顔にアザのある少女と、人の顔が見分けられない相貌失認という症状を持つ教師の物語『青に、ふれる。』の作者である鈴木望さんと、『夢をかなえるゾウ』シリーズや、見た目に症状を持つ当事者への取材をまとめた『顔ニモマケズ』などの著書で知られる水野敬也さんの対談、第2回です。

◆何でもアザのせいにする思考回路はダメだと思った

鈴木:『顔ニモマケズ』でも書かれていましたが、見た目に症状があるのって表面的な問題というか。症状はきっかけで、「傷つくのは心だ」って思うんです。会った人に好奇の目を向けられたり、言葉を投げかけられたりといった、見た目の症状をきっかけに起こった出来事に対して傷ついたりするじゃないですか。

でもそれを誰にも話せなかったり、話しても共感や理解を示してくれなかったりして更に傷ついて、自己肯定感が低くなっていくんですよ。ただ、こういうことって誰にでも起こりうるものですよね。

水野:自己肯定感は人の幸せを左右する重要な問題ですよね。一方で、僕は「自己肯定感が低い」ことにも肯定できる面があるような気がしています。たとえば肯定感が低いからこそ周りに優しくなれるとか……僕自身、自己肯定感の低い人間で、だからこそ『顔ニモマケズ』に登場してくれた人たちのへ取材を通して自分を救う言葉が見つかるんじゃないかと思ったんです。

――私は短大生のころ、サークルの仲間から「バカだ、バカだ」と言われていました。その時は笑ってごまかしていましたが、実はすごく傷ついていたことにあとから気付いたんです。自分は気にしていないと思って笑っていても、実はどんなふうに心を蝕んでるかは、なかなかわからない。そこにどうやって気付けたんですか?

鈴木:『青に、ふれる。』を描き始めて、担当編集の方と打ち合わせしていくうちにだんだん……という感じです。自分がずっと大事にしていたものを全部否定していく作業や、自己肯定感を下げるような、自分のダメなところにフォーカスしていく作業だったので、私一人では難しかったと思います。

私、何かあったときにアザのせいにすることが多かったんです。例えば昔ナンパされてお断りしたら「そんな顔で出歩いてんじゃねーよ、ブス」って言われたときとか。

水野:すごい捨て台詞ですね。

――ナンパを断ると、だいたいの人は実際の見た目がどうかとは関係なく「ブス」って言って去って行くんですよ。

鈴木:アザに関する話題でその話をしたら、知人に「それってアザじゃなくて顔の造形を指したんじゃないですか?」と言われて、ハッとしました。すぐアザに結び付けて考えてしまうのは、そのほうが楽だからです。造形をどうにかしようと思ったらメイクとか整形とか、努力しなきゃいけない。もしかしたら私の断り方が上から目線で、ナンパしてきた人は気分を害したのかもしれない。「ブス」は、私の努力不足、思いやり不足を指していたのかもしれない。なのに「アザのせいだろう」ってすぐ置き換えてしまう自分の思考回路はダメなんじゃないかなって考えるようになったんです。

◆整形する人は何のために美しくなりたいのか?

水野:僕は恋愛の本を過去に書いているんですけど、相手を選ぶときに、見た目で選ぶ人もいるだろうし、外見にとらわれない人もいる。モテる人の基準も時代によって変わりますよね。ただそのときどきで、「『この人がいい』って思い込める何か」を必要としていて、だからこそ苦しみが生まれてるんだなって思いますね。だから「外見じゃなくて心が大事だ」ということが完全に行き渡った世界もまた苦しいんだと思います。僕は作品で「心を頑張って成長させよう」というメッセージを送っていますが、目に見えない「心」を鍛えるという作業は、すごくしんどいですよね。

――外見を変えるほうが楽ですよね、私は一重が気に入らなくてアイプチで二重にしたし、シミやホクロはほぼほぼ取ってしまいました。

水野:美容は進化し続けていますが、現代では一般的に美しいとされている容姿だけで人の価値を判断する「ルッキズム」は差別だという考えもあります。鈴木さんはどう思われていますか?

鈴木:「ルッキズム」って何なんだろう?と思っています(笑)。正直、まだ私自身の考えがまとまっていないんですけど……一般的な美しさを求めるのって、そうであれば得をするからですよね。確かに、シミを取ったり二重にしたり、自分が理想とする美しい外見になったら自信がもてて、周りにも好かれて、人生いろいろ有利かもしれない。

ただ、私は美しさを求めるのって、愛情を求める心と同じところから出ている気がするんです。だから「何のために美しくなりたいのか?」「誰に愛されたいのか?」「見た目を変えることで好かれるの?」「どういう愛がほしいの?」と、まずは自問自答するのが大切なのかな、と。

例えば「自分はモデルや女優になりたい、多くの人に好かれたい」ということが目標なら、見た目をどんどん良くしていくのは手段ではありますよね。◆アザを隠すメイクは、雑誌にのっていなかった

――数の問題でもありそうです。私は高校生になってメイクに興味を持つようになったとき、雑誌には一重用のメイクがどこにも載っていなかった。それですごく一重が嫌になったんですよ。「みんなと同じになれない。みんなは二重で普通に雑誌を見て綺麗になれるのに!」って。

当時父がファッション誌の編集者だったので、「一重用のメイクをやってほしい」と言ったら「需要がない」って言われてしまった。マイノリティの烙印を押されてる気がして嫌だったのを思い出しました。

鈴木:私もファッション雑誌の方にお話を聞きたいなとずっと思っています。私自身も中高時代にアザを隠すメイクをしたかったんだけど、どこにも載っていなくて「じゃあメイクしなくていいや、メイクしないし服も適当でいいや」ってなっちゃって。

でも、太田母斑だけではなくて口唇口蓋裂(唇や口蓋、歯茎などを左右に分裂するような亀裂が生じた状態で生まれる症状)、脱毛症、アルビノ(メラニン色素が欠乏していて、皮膚、髪、目などが白い症状)の人たちも、皆さんメイクやファッションに悩まれていて「ファッション雑誌を買わなくなるよね」というような話をしていたんです。

そのときに「これって出版社にも、症状のある方にも、一般読者にもプラスにできる!」と思って。例えば、アザをカバーするメイクは症状のない人にも参考になるようなテクニックが満載だし、基本が「マイナスをプラスにする」「あるものを生かす」なので、知恵と工夫の宝庫なんです。これで特集組めば全員が楽しめるのでは?と。ファッション雑誌で「こういう症状がある人もいる」と知って損はないだろうし、若い当事者の方が今より少し生きやすく、生活が楽しくなってほしいなとも思います。

◆見た目に関する意識はこれからどんどん変わっていく

――少し前まではわかりやすい「美の集大成」のようなモデルばかりが取り上げていたけれど、最近は少しずつ、活躍するモデルの容姿も多様化しているようです。

水野:見た目に関する意識はこれからどんどん変わっていくと思います。美容整形も、その変化を踏まえて「不特定多数に愛されたい」「多くの人が美しいと価値を置く容姿になりたい」のであればスタンダードな目や鼻にすることも否定しないし、鈴木さんがおっしゃった「どんな愛がほしいのか」を考えて思い直したり、「整形してみたけど、違うじゃん」みたいなことを経験するのもいい。色々な経験や失敗ができる空気や環境があることが大事だと思います。

鈴木:営業事務の仕事をしていたときに、営業さんに「明日新規のお客様のところに行くから、ちょっとアザ隠してきてね」って言われたんですね。当時は素直にメイクしていましたけど、どこかで「なんで隠さないといけないんだろう?」とも感じていました。カバーメイクは時間がかかるし肌もかぶれるし、そのために気分が下がるんだったら、自分が心地よく生きることを大切にしたい、隠さずに自分の好きな顔で生きたいと思ったんです。

水野:世界が変わるときってマイノリティだとされる人たちが「その(一般的な)考えはダメだ」と声を上げる、怒りも必要だと思うんですね。ただその怒りだけでは世界は変わらなくて、マジョリティを説得しなきゃいけない。「顔に症状がない人だって、見た目にとらわれないほうが生きやすくなるよ」って言うために、相手を魅了するかたちでメッセージを発信することが有効だったりもする。

『青に、ふれる。』は、魅力的な作品として見た目に関する問題を描いていて、素晴らしい形になっていると思うんですよ。こだわりを持って言いたい事を主張するところと、エンターテインメントとして他者を喜ばせるぞっていうところと、ふたつがないと世界は変えられない。この作品はそれができているんです。どうしてでしょう?

鈴木:私は話すのが苦手なんです。でも「私の話を聞いてほしい」って思いはある。だから漫画のような、みんなが楽しめるかたちだったら読んでもらえるかなと思ったんです。ただ私自身が少女漫画好き、というのもありますが(笑)。

――漫画を描くことで昇華されることはありますか?

鈴木:描くこと、読んでいただくことで昇華したものが沢山あるので、今描けていることに感謝です。絵については今もずっと勉強中で、正直下手だなと思う時もありますが、でも描きたいからしょうがない。伝えたいって思いもまだまだすごく強いです。

『顔ニモマケズ』で水野さんが見た目問題について書いてくださって、ほかにも本を出したり、演劇にしたりしてくださっている方がいて、そういう土台があるからこそ今、見た目問題について自分が漫画として描けたんじゃないかと思っています。

たまたま私がこの時代にいて、漫画を描けるから、私がバトンを渡されて描いているんです。1十代の頃からずっとコンプレックスを抱えてきて、孤独感を抱いていた。その頃の自分が読みたかったものを今の私が描くのがモチベーションのひとつです。

(第3回に続く)

●鈴木望

漫画家、山形県出身。『月刊アクション』(双葉社)にて、太田母斑の少女×相貌失認の先生の物語『青に、ふれる。』を連載中

●水野敬也

作家。著書に『夢をかなえるゾウ』、『人生はニャンとかなる!』など。また、恋愛体育教師・水野愛也として、著書『LOVE理論』、『スパルタ恋愛塾』がある

<取材/和久井香菜子 構成・執筆/ブラインドライターズ執筆部 撮影/我妻慶一>

【和久井香菜子】

ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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