引っ越すたびに『クリーニング店』を必ずチェックする女性 理由に、胸がジーン

grape

2020/9/15 18:20

※ 写真はイメージ
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる

今回は、応募作品の中から『わたしの町のクリーニング屋さん』をご紹介します。

心温まる接客と聞いて、まっさきに思い浮かんだのは、わたしの住む町にあるクリーニング店だった。

大学進学を機に実家のある田舎を出てから、東京や名古屋にひとり暮らしをしてきたが、引っ越しの度にまず探す場所の一つは、近所にあるいい感じのクリーニング店である。

ここでは、これまでお世話になったクリーニング店の中でも一番思い出深い、実家の町のあるお店のことを話そう。

そのお店の名前は、まるクリーニング(仮)と言う。小さな田舎町なので、周辺に住む人々のほとんどがまるさんにクリーニングをお願いしていたと思う。

私の家族も常連で、週末になると父のスーツや兄と私の学生服を出しに行っていた。

まるさんの大きな特長は、きかせすぎくらいにきいたパリっとした、というよりバリバリの糊である。

セーラー服のスカートを一度クリーニングしてもらうと、自転車通学でどんなに雨風にさらされても、またどんなに長時間座っていても、そのプリーツはしばらくの間型崩れしなかった。

ということは、それだけ何か溶剤が染みついていて、美容院でパーマをかけてもらった後のような香りを周囲にまき散らしていたかもしれない。

しかし、学校の先生からは、「あなたはいつもスカートがきれいね。しっかりしている証拠だわ」などと褒めてもらえたことを、今も鮮明に覚えている。

父もその糊の効果には太鼓判で、仕上がった仕事服を身にまとう前には、必ず「今日も糊がきいとるなあ」と満足げに笑っていたものだった。

まるクリーニングのもう一つの大事な特長は、クリーニング店を超えて地域の名物、番台さんのような存在だったことである。

チェーン店でないからこそ、常連さんが依頼にやって来るリズムを把握して、少々無理な納期をお願いしても「はいはい、やっておくよ」と快く対応してくれて、大変助けられた。

私の祖父母もまるさんによく出していたが、お店から少し離れて住む高齢の祖父母に配慮して、まるさんのお母さんがいつもバイクで配達をしてくれていた。

配達に来ると、天気や農作物の出来、近々ある行事の話などをひと通りして、あのコミュニケーションの時間も、祖父母にとっては楽しみの一つになっていた。

また、まるさんのお母さんは会計も担当しているのだが、服の種類によっていくらと単価が決まっていないようで、明細は一度ももらったことが無い。

服をたくさん持って行くと高くて、少ないと安くて、たまにたくさん持って行っても「おまけしとくね」と言って少ない時よりもかなり安かったりする。まさに信用商売。

もやもやしつつも、バリバリに糊のきいた服にしてもらいたくて、今日はいくらになるかな、なんて考えながら持って行き(実際にはよきタイミングで気を利かせた母が出しに行ってくれたりして)、家に帰って金額を報告し、家族で毎回ひと笑いするのが楽しかった。

そんなまるさんも、クリーニング作業を担当していたお父さんが高齢になったこともあり、ついに近くお店を閉める予定と聞いた。

真夏になるとランニングの肌着一枚になって、一生懸命アイロンをかけてくれていた姿が見られなくなるのだなあ。そして、あのお母さんの運任せなお会計ネタもなくなってしまうのか。さいごに会った時に、きちんとありがとうを言ったかな。

人生初のクリーニング店がこの名物まるさんだったから、わたしは単身引っ越しを繰り返してからも、クリーニング店にどこかおもしろい所がないかと探してしまう。

クリーニング店を超えた思い出になった、まるさんをふと思い出して微笑みながら。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響いた接客エッセイ』
タイトル:『わたしの町のクリーニング屋さん』
作者名:喫茶去

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!

『grape Award 2020』詳細はこちら


[構成/grape編集部]

当記事はgrapeの提供記事です。

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