美しくも残酷な問題作『異端の鳥』<製作期間執念の11年>を物語る6つの数字

クランクイン!

2020/9/15 18:55

 昨年のヴェネチア国際映画祭において『ジョーカー』以上に話題を集めた問題作『異端の鳥』が、10月9日より全国公開される。チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督が11年もの歳月をかけて映像化を果たした本作。その並々ならぬ執念を物語るエピソードの数々を<6つの数字>で大解剖する。

本作は、第二次大戦中、ナチスのホロコーストから逃れるために、たった一人で田舎に疎開した少年が差別と迫害に抗いながら強く生き抜く姿と、異物である少年を徹底的に攻撃する“普通の人々”を赤裸々に描く。ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門で上映されると、少年の置かれた過酷な状況が賛否を呼び、途中退場者が続出。しかし、同時に10分間のスタンディングオベーションを受けユニセフ賞を受賞。さらに本年度アカデミー賞国際長編映画賞のチェコ代表に選出、本年度のチェコ・アカデミー賞(チェコ・ライオン)では最多の8部門受賞を果たした。

原作は、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した『ペインティッド・バード』。ポーランドでは発禁書となり、作家自身も謎の自殺を遂げた“いわくつきの傑作”だ。

そんな本作を映画化したのが、チェコ出身のマルホウル監督。実に11年の歳月をかけて映像化を果たしたが、その並々ならぬ執念を物語るエピソードの数々を<6つの数字>で紹介したい。

■権利取得に<22ヵ月>

読書仲間から原作『ペインティッド・バード』を読むことを勧められ、読み始めてわずか3ページで映画化を決意したという監督は、8ヵ月かけて原作者コシンスキの文学的遺産の権利の持ち主を探し出した。2009年の春に権利を所有する組織のオフィスで初めてのミーティングが行われ、監督はそこで“尋問”を受けたという。

その時のことについて監督は「後で振り返ってみると、私が軽く手を出していないか、利益を得るために買おうとしていないか、または物議を醸したトピックにまとわりついているだけではないのか、ということを確認する必要があったのだと思う」と振り返る。その場で映画化への“真剣”な思いを伝えることに成功した監督は、そこから14ヵ月かけて条件を調整。最終的に権利を取得するまでに22ヵ月もの時間を要することになった。

■<4年>かかった“悪夢”の資金調達

“11年の中で一番大変だったこと”として監督が挙げるのが資金調達で、それに要した4年という歳月を「悪夢」と振り返る。特に、最初の2年間はチェコ国内外含めただの1ヵ所からも援助を獲得できなかったという。

監督は「正直なところ、諦めようと思ったときもあった。しかし、心の奥底では、私はそうしないことを知っていた。できなかった。『ペインティッド・バード』は私の愛であり、それに取り組む必要があり、この本について私が感じたことすべてを画面上に持ってこなければならなかった」と語る。

プロデューサーでもある監督の自己負担も含め、最終的には映画製作に足る資金を集めることができたが、監督の地元であるチェコで獲得できた資金援助は企業ではなく個人からのものだけだそうだ。

■<17種類>の脚本

脚本は、3年かけて17稿にも及んだ。脚本を執筆する上で“なぜ?”という視点を重視していたという監督は、クランクイン後は演出的観点から“どうやって?”という視点も脚本に追加。「この“Why”と“How”というのは違う。その“Why”という質問に答えるために、どういう表現をしたらいいのか考えて書き進めながら、さらに観客も飽きず観られるようにテンポも付け足していった」と度重なる改稿の理由を明かす。

また、脚本を読みコメントするスクリプトドクターを6人付けていたそうで、彼らが“気に入らない”と感じる部分を重視したという。

■撮影は<2年>に及んだ

撮影はほぼ2年間を要し、102日間にわたり行われた。全編モノクローム35mmフィルム、シネスコにより撮影されているが、監督はこのフォーマットを採用した理由として「画面上に映し出される美しさと残酷さの両方を捉えるためだ。画の本質的な真実性と緊迫感をしっかりと捉えたいと思った」と答える。

さまざまな表情を持つ東欧の広大な自然や変わりゆく季節の中、戦争という時代のうねりの中で人間たちが繰り広げる目を背けたくなるような数々の“ちっぽけ”な出来事という対比を存分に感じられるはずだ。

■クランクイン時、演技未経験の主演は<9歳>

クランクイン当時、主人公の“少年”を演じたペトル・コトラールはわずか9歳で、監督がチェコのとある町で偶然出会った男の子だった。全くの演技未経験者であるコトラールを起用したことについて、監督は、「彼こそが“少年”だ」という直感であったと振り返る。

事前のカメラテキストは、監督いわく「彼がカメラの前に行くことができるかすら分からなかった。非常に外向的な性格で、演じたいという意志があったにも関わらず、彼は凍りついてしまった」という。そこで、監督は、コトラールが大事にしている愛犬への感情を演技への助けにしたほか、撮影中はチェコの有名女優も含め、絶えずコトラールの世話をする付き添い人を用意し、幼い子どもにとって問題のあるいくつかのシーンでは彼を現場にすらいさせないよう配慮し、時には大人のボディダブルも採用するなど最大限のケアを行ったという。

本作は完全に順撮りされており、劇中心優しく無垢(むく)な“少年”が地獄の旅路を経てその表情に強さや精悍(せいかん)さが加わっていく様は、クランクアップ時には11歳になっていたコトラール自身の成長の記録ともいえるだろう。

■国際的スター出演のきっかけは<26年前>の出会い

監督が脚本を執筆している間、少年の命の行方を握ることになるドイツ兵ハンスの姿が浮かび、この役に理想的な人物はステラン・スカルスガルドであると感じたという。監督は、原作が国際的評価も高い作品であることに自信を持って俳優たちに問い合わせを進めたというが、スカルスガルドにはエージェントを介さず自身で連絡したそうだ。

実は、監督とスカルスガルドは、26年前にプラハで偶然出会った仲で、それ以来会う機会のなかった間にスカルスガルドはすっかり国際的スターに。監督が電話するとスカルスガルドは、「my god、ヴァーツラフ!」とすぐに反応し、脚本を読むことに同意。スカルスガルドが出演に最初に興味を持ったことが、他の俳優との交渉を進める上で助けになったという。

映画『異端の鳥』は10月9日より全国公開。

当記事はクランクイン!の提供記事です。

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