神戸アートビレッジセンター「KAVC FLAG COMPANY 2020-2021」会見レポート~「面白く使ってもらうために、劇場は何ができるのか? を考えたい」(木下)

SPICE

2020/9/11 06:00



小劇場やミニシアター、ギャラリーやカフェも設えている、神戸市営の複合アート施設[神戸アートビレッジセンター]、通称「KAVC(かぶっく)」。2017年から体制が変わり、地元密着路線をさらに深化させている所だが、その象徴とも言える企画が、関西で活躍する若手劇団の公演を集中的に上演する「KAVC FLAG COMPANY」(以下KFC)だ。1年目は7劇団が参加し、額縁舞台からオールフラットまで多彩に使える、KAVCホールの自由度を最大限に活かした、ユニークなスタイルの作品が続出した。

2年目となる今年度は、6劇団が参加。「劇場をより面白く使ってくれそうな集団」を基準に選んだというだけあり、見せ方が実験的だったり、挑発的なテーマを扱う団体が見事にそろったという印象だ。2020年8月20日には、KAVCで記者会見を開催。館長の大谷燠(いく)、プログラム・ディレクターのウォーリー木下(sunday)、そして各劇団の代表が今回の意気込み──とりわけ新型コロナで様変わりしたこの世界で、どういう思いで次回作と向き合うかを語った、その模様をレポートする。

大谷は第一回目のKFCを振り返り「7劇団とも「あ、こういう劇場の使い方があるのか」という発見が、次から次にありました。しかも参加劇団同士が、互いに影響し合うような環境が生まれて、だんだん(使い方が)エスカレートしていって、大変面白かったです」と語る。

(左から)KAVCプログラム・ディレクターのウォーリー木下、館長の大谷燠。
(左から)KAVCプログラム・ディレクターのウォーリー木下、館長の大谷燠。

その上で、新型コロナウイルスによって、演劇がハード・ソフトの両面で変革を迫られている現状に触れ「こういう時代は、新しい演劇の形を模索できるチャンスだと、僕は思っています。演劇関係者は苦境に立たされている状態ですが、演劇が世界からなくなることはないと思うし、劇場がなくなることがあってはいけない。コロナを乗り越えることは「社会にとって、いかに舞台芸術が必要か」を問い直す、大事な機会になると思っています。

演劇やダンスが、形を変えながら継続していくためにも「なぜ社会に演劇は必要なのか?」「 なぜ自分たちは演劇をするのか?」ということを、自ら問い直してほしい。それを観客に投げ返し、さらにこういう機会だからこそ生まれてくる新しい観客とのつながりを、模索していくことにつながればいいかなあと思います」と、今の状況を前向きにとらえて、活動し続けることを呼びかけた。

そして木下は、2年目のKFCについて「基本は昨年と同じ路線だけど“劇団と一緒に、KAVCで面白いことをしてもらう”という方針が、よりハッキリしています」と語る。

「KAVC FLAG COMPANY 2020-2021」会見風景。
「KAVC FLAG COMPANY 2020-2021」会見風景。

僕らが劇団を選んでいるように見えるかもしれないですけど、実はこの企画で選ばれているのは劇場の方。「みんなにこの劇場を面白く使ってもらえるか?」「そのために劇場は何ができるのか?」ということを、劇場運営の人間として考えていきたいです。劇場って、公園みたいなもの。なるべく面白い遊具があって、なるべくルールがないのが重要かなあと思います。

昨年は、動員に向けてエネルギーを使いきれなかったという反省があるので、今回は全部の劇団を観る人を増やしたいです。お客さんは、複数の劇団を観ることで、演劇の見方が増えていくはず。さらにWSや批評などを通して、より深く演劇の文脈を知る機会にしていただきたいと思います」と意欲を見せた。

それぞれの参加劇団のコメントは、以下の通り。

【Ahwooo(あうー):中野そてっつ】

「Ahwooo(あうー)」の中野そてっつ。
「Ahwooo(あうー)」の中野そてっつ。

「私たち3人は高校生の時に、KAVCの舞台を使わせていただいた時に出会ったので、ここを目標の場所にしていました。最初は大勢でこの舞台を埋めようと思ったのですが、今の状況で安全を考えて、泣く泣く劇団の3人だけで作ろうとしています。Ahwoooは、うちの2人(の俳優)がすごく魅力的で、2人のいろんな面が観たくて結成した所があるので、ぜひこの2人を観に来ていただきたいです。
最近観に行った作品が2つとも、コロナを題材にした話で「コロナ禍でしか作られへん作品や」と感動しつつも「作品にまで(コロナが)入ってきやがって」という苛立ちもありました。「絶対コロナは(作品には)入れたらへんからな」という気持ちが、今はめちゃくちゃあるんですけど、結果的に2020年に作品を作る限り、つながってしまうんだろうな……と思いながら、作っているところです」。


【努力クラブ:合田団地】

「努力クラブ」の合田団地。
「努力クラブ」の合田団地。

「僕は中学高校ぐらいから、何も成し遂げたことがないというか「何なんだろう? この心の苦しさ」みたいなことを、ずっと考えていて。特にこのコロナで人と会えなくなって、一人で自分のしんどさと向き合う時間がすごくできてしまい、いっそうしんどいという。これは自分の努力ではどうにもならん、誰かに救ってもらいたい、あるいは全部なかったことにしてもらいたいと思って、こういうタイトル(『救うか殺すかしてくれ』)でやろうと思いました。
自分の孤独や「誰からも愛されてないんじゃないか?」という気持ちと、本当にきちんと向き合って作っているので、(観る人の)寂しさや悲しさを、自分たちの芝居で引き受けられるんじゃないかと思っています。そしてせっかく選んでもらったからには「優勝したい」ぐらいの気持ちで頑張ろうと思います(一同笑)」。


【安住の地:中村彩乃】

「安住の地」の中村彩乃。
「安住の地」の中村彩乃。

「私たちの劇団は、結構耳とか視覚的な所で、インパクトのある伝え方をするように心がけているので、こういう風に(椅子に)もたれて、入ってくるものを楽しむということをしていただけます。と同時に、一つのシーンや台詞の根拠を突き詰めて作るので、こうやって(前のめりで)観た時にも裏の意味をにじませられる。アトラクション的に楽しんでいただけると同時に、考える種をお渡しできる劇団だと思っています。
うちは座付作家が2人いて、今回はこの2人が共同で執筆します。本来は今年オリンピックがあったので、当初からスポーツを題材にすると決めていましたが、コロナの影響とかも多分作品に組み込まれていくと思います。今まで関西の他の地域で公演をしたことがなかったので(注:劇団の拠点は京都)、神戸でさせていただけるのが嬉しいです」。


【オパンポン創造社:野村有志】

「オパンポン創造社」の野村有志。
「オパンポン創造社」の野村有志。

「(作品タイトルの)『オパンポン☆ナイト』は、短編数本をオムニバスで上演して、そのすべての作品に「Mr.オパンポン」こと野村有志が出るという、いわば「野村祭」みたいな感じです。オパンポン創造社はもともと、僕の「演劇がやりたい」欲と「仕事がない」という所から、僕のプロモーションで始めたものなので、見どころは「僕」(笑)。とはいえ、一つのことを多角的な視点で描くことで、奥深いものでありつつも、どなたでも楽しめるような娯楽を目指しています。
昔は演劇をやるのは、両親しか反対してなかったんですけど、このコロナ禍で「演劇をする」という生き方が、世間で批判される立場になる可能性もある。いろんな価値観が変わる中で、その答は見つからないと思うけど、探すことはできる。それを探していく中で、何か面白いものができたらと思います。そしてできれば、優勝したいと思います(笑)」。


【劇団不労社:西田悠哉】

「劇団不労社」の西田悠哉。
「劇団不労社」の西田悠哉。

「最近、一つのコミュニティで起こる集団暴力に、フォーカスを当てた作品に取り組んでいて、今回はブラック企業をテーマにします。ネットの誹謗中傷や、コロナ禍での自粛警察など、一般市民がすごく暴力性を発揮することに対して「何でそういうメンタリティになってしまうのか?」というのに、もともと関心がありまして。このコロナ禍にどこまで触れるかはまだ決めてませんが、精神性については、コロナを経た今の日本の空気が引き継がれると思います。
僕はすごくおばあちゃんっ子で、おばあちゃんが観に来た時に楽しめる作品を、普段から心がけています。あと、もともとお笑いとホラー作品がすごく好きなので、演劇でも「笑いと恐怖」は一つのテーマ。娯楽としての即物的な怖さと面白さをベースにしつつも、もっとその先に行ける作品を作れたらと思っています」。


【うんなま:繁澤邦明】

「うんなま」の繁澤邦明。
「うんなま」の繁澤邦明。

「舞台上と客席で、想像力をどこまで共有できるか? をテーマにし、劇団のターニングポイントとなった作品を再演します。ホールの客席と舞台を丸ごと舞台美術として使って「演劇って何なんだ?」ということ……劇場で演劇をやる中で、私たちは何を共有できて、何を共有できないのか? ということ考える作品にしていきたい。目指すは優勝です(笑)。
再演ではあるけれど、コロナを経たことで、演出面や俳優のアウトプット……たとえばこの数ヶ月で、人と人との距離感が変わったことなどが反映されるのでは。うんなまの芝居は「よくわからない」と言われるけど、それがあまり悪いこととは思ってないんです。世の中はわかりやすいことがたくさんあるけど、あえてわからないことを一緒に考えることで、「わからない」の先に「面白い」が見つかるような作品を作れるんじゃないかと思います」。


また木下はKFCを通して、改めてKAVCが地域密着型の劇場として活動していくことを表明するとともに、将来的にはKFC参加劇団と一緒に、何らかの企画を押し進めるプランがあることも明かした。

劇場って大きく分けると、東京や海外からお客さんが入るものを呼んでくる所と、なるべく地元の人たちと一緒に新しいものを作る所の、2つがあると思います。KAVCは、僕がお世話になった頃は明らかに後者の姿勢を取っていたし、今もそうあって欲しいです。でもここ数年「演劇空白の10年間」みたいなのがあり、本当に「KAVCってどこにあるの?」という人が結構多くて「これはヤバい!」と(笑)。改めて関西を中心としたクリエイターの人と一緒に、作品を作っていく場所にしたいと思います。

実はこれまで、そしてこれからKFCに参加した劇団さんとは、永続的に何かできないか? という話をしていて、最終的にはKAVC製作で作品が作れたらと思っているんです。今は……ちょっとふしだらな言い方ですけど(笑)、いろんな人とお見合いをさせてもらってる、みたいな所があります。お互いがお互いのことを知っていって、相思相愛になった団体と、ぜひ何か一緒に作っていきたいです」。
「KAVC FLAG COMPANY 2020-2021」会見風景。
「KAVC FLAG COMPANY 2020-2021」会見風景。

昨年のKFCでは、プロセニアム形式で公演を行ったのは、7団体中わずか1団体。残りは対面式だったり、オールスタンディングだったり、三方客席スタイルだったりと、まさにKAVCの空間を遊びまくった野心作が見事に出そろった。今年もまた「KAVCでないと実現できなかった」というような、伝説的な作品が飛び出してきそうな予感がする。

さらに館長の大谷が「演劇というものを、オンラインでどのように伝えていくことができるのか? ということを問われるかもしれない時代」と問いかけた通り、自分たちの作品を、配信でどのように見せるのか? という点でも、参加劇団同士が刺激し合いながら、様々な実験を繰り広げていくことが予想される。昨年に続いて、今回のKFCもまた、間違いなく全劇団要チェックだ。

ちなみに「優勝劇団を決める」という趣旨は(少なくとも今の所)ありませんので、あしからず(笑)。

取材・文=吉永美和子

当記事はSPICEの提供記事です。

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