クリエイティブなiPadは「教育委員会のお気に入り」になれるか?

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Image: Shutterstock

iPadこそ天下無双のクリエイティブなギア。

そう思ったことがある人、あるいはそう信じたい宗派の方々はいないでしょうか。 僕は常日頃から、この甘い(?)誘惑にかられています。「そうだ! iPadでかっちょいいトラックを作って、いっそのことミュージシャンとしてやっていけないかな。死ぬほど忙しいギズモードの編集長なんかすっぱりと辞めてしまおう」と、一年に一度くらいの頻度で思いつめます。

それで、手持ちのiPad Proで使えそうな音楽アプリを一晩中チェックしてまわることになります。なのですが、その度にまだまだ貧弱なDAW(Digital Audio Workstaion)アプリの性能に絶望してあきらめます。だいたい「ああ、あと2~3年はDAWアプリの進化を待ったほうが良さそうだな」と夢を断念することになるんです。

別にPCでやってもいいんです。でも、本格的なレコーディング環境を構築しようとするとそれなりに高くつきます。わりと良心的な価格のLogic Pro Xでも2万4000円。PC本体だけでなく、オーディオ・インターフェイスやリファレンス用のスピーカーかヘッドフォン、入力用の鍵盤やパッドやらを揃えるなら、最低でも20万円ぐらいはかけたいところ。大昔に購入した機材はあるのですが、規格が古すぎてダメ。できればUSB-Cで環境を揃えたいし、iPadで揃えたほうがなにかと手っ取り早いんです。周辺機器は、欲を言えば高品質なマイクがあればいいなというぐらい。アプリは高くても1万円ぐらい。どんなに多く見積もっても3万円あれば十分なはずです。周辺機材で場所をとらないどころか、ベッドに寝っ転がっても音楽作れそうだしなあ…と思考が堂々巡りをはじめます。

アメリカのオルタネイティブなラッパーやプロデューサーの間では、iPhoneひとつでささっとラップを録音して、Garage Band(無料の入門用音楽ソフト)とかでトラック仕上げちゃうのがトレンドとしてあります。ですがそれも逆にスキルと才能が必要で、ある種の職人技だと思うわけですよ。操作性の面では、ディスプレイが大きいってことが重要。本体含めて4~10万ぐらいの予算でどうにかなるiPadが、やはり選択肢としてはいい気がするんです。

5歳もクリエイティブツールとして使えるiPadのポテンシャル


重い腰をあげて書き始めたら前置きが長くなってしまいました。iPadのクリエイティブなツールとしてのポテンシャルの高さは異常なレベルだと思います。優れたコミュニケーション・デバイスとしてのiPhoneを起点に、Apple Watchは生きていくためにより大事なヘルスケア機能を強化しているし、iPadはそれとは真逆に人生そのものを豊かにする、創造的なツールとしてフォーカスされているところにどうしようもなく惹かれます。Apple(アップル)って、そういうデザイン思想があるところがやっぱり魅力的。

一方で、子供やお年寄りにとってもiPadはいいツールです。母親に誕生日プレゼントした初代iPad Miniは未だ現役ですし、5歳の息子は僕のiPad Proを隙あらば奪いとって、夜な夜な『Fortnite(フォートナイト)』(まだやれるよね)や『マインクラフト』にハマっています。要はゲームにどっぷりつかっているだけとも言えますが、彼は生粋のテックキッズなんでそれもまたよし。最近はiPadのおかげで、趣味の折り紙で作った恐竜を撮影したり、さらに画像加工なんかも自然とできるようになりました。

児童全員にiPadを支給した市も登場


そんなことを考えていたら、iPadの教育ツールとしての可能性はどうなっているのかが気になってきました。このコロナ禍においてオンライン授業のニーズも高まっていますし、文科省のGIGAスクール構想でも、創造性を高めるデジタル教育は大きなテーマになっています。実際にiPadを学校に導入している自治体ではどんな使い方をされてるんだろう? と興味津々となり、今回は2つの自治体の関係者にいろいろお話を聞いてみました。

まずは大阪府枚方(ひらかた)市。大阪と京都の中間に位置するベッドタウンで、人口40万人ほどとかなり大きな都市です。小中学生合わせると児童数は3万2000人ほど。枚方市では本年度、その3万2000人全員にiPadを支給しました。その物量の凄さからしてかなりの本気度を感じます。

「枚方市では学力向上の取り組みとして、主体的・対話的で深い学びを実現する授業を目指しております。ICT教育に関しても誰ひとり取り残すことなく、各生徒に最適化された深い学びを実現したいと考えていて、昨年度から授業にもICT端末を導入しています。iPadに決定した一番のポイントは、教師・生徒にとって使いやすいというところです。 特に今年は春先からのコロナ禍もあって、保護者の方からタブレットを購入したほうがいいのか? という問い合わせが多かったんです。そんなことから導入のスピードを早める必要があると考え、今年度に全学年一気に導入という形になりました。実際に1人1台を導入することを伝えると、保護者の方にも安心感が生まれたようです。兄弟がいる場合は1家族で1台支給なのかと思っている方もいましたが、1人1台だと説明するとかなり驚かれていましたね。今後は各ご家庭でも使い方のルールなどでご協力いただくことになります。 枚方氏は市長もICT教育に強い熱意を持っていて、1人1台というのは市長の強い思いから実現しました。こうした端末を使う教育に関しては、各自治体も方向性を手探りしている状態だと思うんですが、今後は枚方市がノウハウを開拓して他の自治体にも率先して情報発信できるようになるのが理想です」(枚方市教育委員会 学校教育部 教育指導課長 嶋田崇氏)

「コロナ禍における遠隔学習の重要性も考慮して、今は各生徒が校内だけでなく自宅への持ち帰りも含めて使用しています。特に今回のコロナ禍においてはオンライン授業の重要性が大きく高まっていますから、今後の第二波・第三波が訪れたときに自宅に端末を持ち帰ることで、学びを止めないということにつながってくると思います。もちろんMDM(Mobile Device Management)で個々の端末管理はしていて、家でゲームに使ったり、余計なアプリを入れて使わないように制限管理はしています。 プログラミングに関しても力を入れていて、micro:bit、レゴWeDo、アンプラグドのルビィなどのツールやアプリを順次各学校に配置して、簡単なレベルから生徒たちに慣れ親しんでいってもらいたいと考えています」(同教育指導課 係長 大久保伸一氏)
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Photo: 大阪府枚方市教育委員会

「授業ではiPadならではの動画撮影やプレゼンテーション機能といった機能はもちろん、遠く離れた自治体の学校との交流など、さまざまな活用をしています。具体的な使い方としては、班で1台のiPadを共有して、天気図をタッチしたり書き込みをしてグループで話し合い、実際の天気はどうなるかと予測を立ててまとめたものをKeynoteでプレゼンテーションする授業などがありました。iMovieで動画を編集するなど、プレゼンテーションのスキルもどんどん向上しています。あとは熊本市の学校の生徒会と交流して、防災対策でどんな取り組みをしているのかをiPad上で話し合う試みもありました。現地の防災士の方とのオンラインでのやりとりを体育館でスクリーンに映写し、防災教室を開いていただいたりもしています。また職業講話でJAXAの職員の方に登場いただいて、施設や宇宙船の内部紹介をしていただいたりという授業もありました。これは生徒にも好評でしたね」

iPadを導入した学校では、生徒たちがいろいろな使い方を自ら開拓することが多く、小学校低学年がいつの間にか自分たちなりにユニークな使い方を見つけていて、大人顔負けのプレゼンをする実例もあるとか。発想次第で大きく可能性を広げてくれるツールなだけに、学校や教育委員会の方々も使い方を大人たちで決めつけるのでなく、生徒たちがやってみたいことをサポートしていくことが大事だと考えているようです。

スローモーション撮影を駆使した体育の授業を展開


もうひとつiPadを大量に導入した事例としては、神奈川県鎌倉市が挙げられます。神社仏閣が多い古都として知られ、自然も豊かな環境で都内への通勤者も多い人気の都市で、現在の人口は17万人ほど。小学校は16校、中学校は9校あり、その全校に各40台のiPadを導入しました。今後導入台数を増やしていき、本年度中には全生徒に1台ずつ行き渡らせる予定となっているとのことで、かなり力が入っているようですね。

「子どもたちの創造性を伸ばすことに加えて、他者と一緒に学ぶ協調性を育てる意味でもiPadは有効なツールだと感じています。他のタブレットと比べてアプリが充実していますし、クラウドを利用しやすいということで、仲間と共同作業しながら何かを作り上げていくという作業に最も適していますね。現状では校内中心の使用に留まっていますが、今後は1人1台の環境が整っていくこともあり、家庭学習のために自宅へ持ち帰って使うことも計画しています。特にコロナ休校中は、各家庭ごとにインターネットの導入事情が異なっているのが遠隔授業での懸念材料でしたが、今後はインターネット環境がないご家庭でも同じ学習ができるようになるというのは大きなメリットになると思います。もちろん情報モラル教育やリテラシーの啓蒙は、iPad導入と同時にやっていかなければならない大きな課題です。フィルタリングなどの対策を講じることはもちろんですが、単に危険だから使わせないとか、なんでもかんでも制限をするだけではなく、インターネットを効果的に活用しながらモラルを学んでいくような方向を模索することが大事だと思います」(鎌倉市教育委員会 教育指導課長 石川眞喜氏)
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Photo: 鎌倉市教育委員会

「無料の学習支援アプリが充実している点や、直感的な操作体系が優れているという点がiPad導入の大きなポイントになりました。具体的な使い方としては、Clipsによる簡単なものから、iMovieを使った本格的なものまで、動画編集機能がよく活用されています。初歩の段階としては45分の授業で3枚の写真を撮って、それをClipsでつなげて自己紹介しようという授業を行ないました。小学6年生では『鎌倉市の良いところを全世界にアピールしよう』というテーマで1年間かけて動画を作成し、それを世界に向けて公開する試みも行なっています。カメラの能力が優れているので、解像度の高い写真や動画が簡単に撮影できるのは便利ですね。体育の授業でスローモーションを活用して生徒の身体の動きを解析したり、さまざまな方向で有効に使用しています。iPadは、初めて触れる生徒でも45分の授業中に自分たちで使い方を理解して、友達同士で教えあってすぐに使いこなせるようになるんです。生まれたときから身近にデジタル機器があったネイティブ世代ですし、ICT機器との親和性も高いという意味では、彼らにとって強力なツールとなり得ることを痛感していますね」(同教育指導課指導主事 情報教育担当 上太一氏)

「ビッグデータから得たデータをまとめながら社会科のレポートを作成したり、MetaMojiで自分たちの住んでいる町の地図を作ったりする授業も好評ですね。鎌倉市ではWiFiモデルではなくセルラーモデルを導入したんですが、それは教室だけでなく野外でも活用できるという点を重視したからです。鎌倉という都市は歴史的な背景もありますし、市内に学びの場が多いので、校外に持っていっても活用できるという点は重要です。GPSが付いているので、校外学習時に生徒の位置確認もできますし、紛失したときの探索もできるという点も便利ですね」(同教育指導課指導主事 情報教育担当 濱地優氏)

枚方市と鎌倉市の両市ともに、iPadを生徒のクリエイティブな可能性を大きく拡張させるためのツールとして位置づけているのが印象的でした。もちろん、このコロナ禍で効率的な学習をするためにICT機器をリモート活用することは重要ですが、子どもたちはiPadを通して学校の勉強をしているだけではなく、もっと大きな世界とつながっているわけです。

そんなツールの使い方を、自分たちで開拓していくキッズたちはちょっと頼もしい。もしかしたら、彼らはアフターコロナの世界をもう見通しているのかもしれませんね。

当記事はギズモード・ジャパンの提供記事です。

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