メンターに「自らの気づき」を確認せよ。コロナ禍で「仕事を学ぶ」ために必要なこと /社会学者、関西学院大学准教授・鈴木謙介


コロナ禍のいま、テレワークが広まったこともあり、「先輩や上司の背中が見えない時代」ともいわれています。そのなかで、まだ就職して間もない若い世代はどのように学んでいけばいいのでしょうか。アドバイスをもらったのは、社会学者で関西学院大学准教授を務める鈴木謙介先生。

そもそも、いまの若い世代はどういう世代なのか――。そんなことから話を聞きました。
○■価値観の世代間ギャップが薄れつつある現在

――いまの20代前半の世代は、社会学の見地からはどんな世代だといえますか?
鈴木 じつは、現在の社会科学全般において、世代が同じならば同じような特徴や価値観を持つという考え自体がなくなりつつあります。世代でくくることに意味がなくなっているということです。

――その理由とは?
鈴木 そもそも世代によって考え方がちがってくるのは、社会の変化があるからです。たとえば親の世代は中卒や高卒で働くのがあたりまえだったのに、その子どもは大学を卒業するのがあたりまえになるといったふうに社会の変化があれば、親子間で考え方のちがいが生まれるというようなことが起きます。逆に、世代によって生きる環境が似通っている状況だと、世代間のギャップはあまり生まれません。

――つまり、いまはそうではないと?
鈴木 そのとおりです。とくに価値観においては、世代間での差が縮まる傾向にあります。ひとむかし前なら、親の世代は「結婚するまでは性行為をするなんてあり得ない」という人が多かったものですが、いまは親も子どもも「好きだったらいいじゃないか」と思っていることが多いでしょう。世代の差が見えなくなっているのです。

ただ、その一方で社会の多様性は増しているから、同世代のなかでのちがいのほうは大きくなっているということがあります。それこそ日常をともにする親とは共通の趣味の話をできるのに、まったく別の趣味や考え方を持つ同世代の友だちには話が通じないといった経験をすることもままあるでしょう。
○■若い世代に特徴的なマルチタスクなコミュニケーション

――もういまは、世代間のちがいはなくなっていると?
鈴木 そうとは限りません。たしかに考え方や価値観における世代間のギャップは以前ほど大きなものでなくなりつつありますが、「行動」という点では世代によるちがいが見られます。なかでも大きいものが、メディアに対する行動。インターネットへのアクセスの仕方やスマホなどの使い方です。

――若い世代にはどんな特徴があるのでしょうか。
鈴木 たとえば、スマホにタブレット、PCなど複数のディスプレーを同時に見ながら別々の作業を行うこと。あるいはSNSの複数のアカウントを使いわけて、趣味のアカウントでは趣味の情報だけを入手するといったこともあるでしょう。つまり、マルチタスクなインターネットの使い方をする、マルチタスクなコミュニケーションをすることが若い世代に特徴的な行動といえます。

――マルチタスクなコミュニケーションですか。
鈴木 そうです。するとどういうことが起こるかというと、ひとりの人とのつき合いにかける時間が減るのです。複数の人とマルチタスクにコミュニケーションを取るのですから、あたりまえのことですよね? NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識」調査
※1によれば、若い世代ほど「友人とは形式的なつき合いがいい」と考える割合が多くなっています。

――わたしはいま40代ですが、勝手ながらちょっと寂しい友人関係だなとも感じます。
鈴木 でも、博報堂生活総合研究所の「生活定点」※2のデータを見ると、「自分の自由な時間が欲しい」という傾向と同時に、「親しい人と過ごす時間も欲しい」という傾向も若い世代にはしっかり見られます。

つまりは、こういうことなのだと思います。マルチタスクにいろいろな人とつき合うようになった結果、ひとりの相手と、長く濃密につき合うことが難しくなった。だからお互いを束縛せずに形式的につき合うが、一緒にいるときはなごやかにいい時間を過ごしたい――。そういう考え方が若い世代のひとつのスタンダードになりつつあるのではないでしょうか。
○■若い世代に人材育成への不満を持たせるふたつの要因

――若い世代の上司などにあたる世代には、この考え方を理解しづらいという人もいるかもしれません。
鈴木 年長世代には、人間関係は「遠いか近いか」しかないと思っている人が多いでしょうからね。このギャップが、若い世代の働き方や生き方を考えていくうえでのひとつのキーポイントになるはずです。

――というと?
鈴木 ここまでの話を聞くと、年長世代からすれば「濃密なつき合いを敬遠する若い世代は、組織のなかでしっかり仕事を覚えようといった意識が低いのでは?」と思う人もいるはずです。ところが、日本生産性本部が行っている『新入社員意識調査』 ※3

では、「職場の飲み会と友人の飲み会が重なった場合に職場の方に出席する」と回答した割合は、2018年で82.3%、「担当したい仕事」として「職場の先輩や他の部門とチームを組んで、成果を分かち合える仕事」と回答したのが81.1%でした。一方で、「仕事の手順を細かく決めておいて欲しい」という回答が55.3%、「残業が少ない会社を望む」割合は75.9%という結果も出ています。

――こういったことがなぜ起こっているのでしょうか。
鈴木 ふたつの要因が考えられます。ひとつは、先に話した人間関係に対する考え方のちがいです。「共有する限られた時間のなかで得られるものを大事にしよう」とする若い世代の行動パターンに対して、「人を育成するにはそれなりに時間をかけないといけない」と考える年長世代がうまくなじめないのです。そのため、「教わりたい」と考えている若い世代が満足するような指導ができていないと考えられます。

――なるほど。もうひとつの要因はどんなものでしょう?
鈴木 企業の人材育成の問題ではないでしょうか。ジョブ型と呼ばれる欧米の雇用契約では、「どんな仕事をどのようにすればいいか」ということが明確に決められています。ところが、日本の雇用契約のほとんどはメンバーシップ型と呼ばれるもので、簡単にいえば「先輩の背中を見て学べ」というスタイルがずっと残ったままです。

そのため、人材育成の方法を上司や先輩も言語化できず、若い世代が望む「いい距離感のなかで、かつ限られた時間のなかで形式的に教える」ということが難しい。このことが、若い世代に「この会社は仕事を教える気がないのかな?」と感じさせる原因になっているのです。
○■自分にとってのメンターを見つけて、寄っていく

――そうはいっても、自分のためにも若い世代が学んでいくことは必要ですよね。
鈴木 そのとおりだと思います。若い世代も、待っているだけでは年長世代が変わってくれるわけではありません。だとしたら、社内外問わず、自分が「この人に教わりたい」というメンターとなる先輩を見つけて自ら寄っていくべきです。そのときに大切になるのが、先輩の指示をこまかくメモに残すなどして、「気づき」を拾い上げていくこと。

加えて、その気づきを、「こういう話がありましたが、こういう認識でいいですか?」と先輩にいちいち確認する。というのも、先にもお話したように、先輩たちは仕事のやり方や人材育成の方法を言語化していないからです。

――若い世代の側から、言葉にして確認していくわけですね?
鈴木 そうです。わたし自身も、大学で教えている学生に対して「こんな感じでお願いね」みたいにあいまいな指示をすることも多いものです。すると、学生から「その指示はこういうことですか?」と返ってくるので、「あ、それで……」となる(苦笑)。ただ、これまではそういうスタイルでも大きな問題は生じなかったでしょう。

――どういうことでしょう?
鈴木 頻繁に顔を合わせることができたからです。わからないことがあったら、その都度先輩の席に行って確認をすればよかった。ところが、コロナ禍によりテレワークが広まり、先輩たちと直接会話をする機会が減っています。

ですから、メールを使うにしろSlackなどのチームコミュニケーションツールを使うにしろ、定期的な報連相の機会を設けて、そのときに先輩の指示から拾い上げた気づきを確認する。それが、いまの若い世代がこの時代に学んでいくために大切なことではないでしょうか。

※1 NHK放送文化研究所「日本人の意識」調査
日本人の基本的なものの見方や考え方を長期的に追跡。1973年から5年ごとに行っている時系列調査。

※2博報堂生活総合研究所「生活定点」
1992年から隔年で実施する時系列観測調査。日頃の感情、生活行動や消費態度、社会観など、多角的な質問項目から、生活者の意識と欲求の推移を分析することを目的としている。

※3日本生産性本部『新入社員意識調査』
新入社員を対象に就労意識をテーマとする調査を長年にわたって実施。その年ごとの新入社員の特徴やデータの経年変化を発表。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文 清家茂樹 写真/玉井美世子

鈴木謙介 すずきけんすけ 1976年、福岡県に生まれる。関西学院大学社会学部准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専門は理論社会学。情報化社会の最新の事例研究と政治哲学を中心とした理論的研究をつなぎつつ、独自の社会理論を展開している。サブカルチャー方面への関心も高く、2006年よりTBSラジオ『文化系トークラジオ Life』のメインパーソナリティーを務める。著書に『未来を生きるスキル』(KADOKAWA)、『<反転>するグローバリゼーション』(NTT出版)、『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』(NHK出版)、『カーニヴァル化する社会』(講談社)、『SQ “かかわり”の知能指数』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
『未来を生きるスキル』(KADOKAWA)
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