ブームを巻き起こす音楽漫画の系譜。ヒップホップ漫画『少年イン・ザ・フッド』は!?

日刊SPA!

 日本の漫画コミックスの新刊発行点数は、2019年時点で1万2805点(『出版月報』2020年2月号より)にも上り、日本が漫画大国であることを表している。そのなかでも、この10年でジャンルとして定着したのが、“音楽漫画”だ。各漫画誌にはクラシック、ジャズ、バンドなどを題材にした音楽漫画が数多く連載され、週刊SPA!でも連載中のヒップホップを題材にした『少年イン・ザ・フッド』も、単行本1巻が9月2日の発売翌日には重版が決まり、上々のスタートを切った。

“音”を表現するのが難しい漫画において、なぜここまで“音楽漫画”が愛されるようになったのか。その経緯を、漫画家トークイベント「マンガのハナシ」を主催するジュンスズキ氏に聞いた。

◆“音楽漫画”愛される歴史

「ベートーベン、ショパンの伝記系はまた別として、音楽漫画の始祖といえるのは’58年に少女漫画誌『少女クラブ』で連載開始されたちばてつや先生『ママのバイオリン』と思います。タイトル通りに貧乏出身の少女が、ママのバイオリンを片手にプロを夢見る物語。この作品の登場以降、60~80年代の少女漫画の世界では“音楽ジャンル”のヒット作が次々登場しました。例えば、’69年にはトキワ荘の紅一点である水野英子先生による『ファイヤー!』、’75年には池田理代子先生の『オルフェウスの窓』、’80年にはくらもちふさこ先生の『いつもポケットにショパン』と続きます」

少女漫画の恋愛要素と“クラシック”は読者に夢を見させるための相性が良かったのも、その一因であろう。かたや男性漫画誌ではなかなかヒット作は生まれなかった音楽作品だが、80年代後半から一気に変化を見せ始めたとスズキ氏は続ける。

「キッカケは80年代当時の“バンドブーム”です。BOOWY、Xが大ブレイク。その流れでバンド漫画として’85年に上條淳士先生の『TO-Y』が大ヒット。蛭田達也先生の『コータローまかりとおる!』でもバンド編が描かれ、原作:佐木飛朗斗先生、作画:所十三先生の『疾風伝説 特攻の拓』でもライブシーンに大きくページが割かれるなど、バンド漫画が続々誕生。そして90年代後半は野外音楽フェスの誕生に触発される形で、ハロルド作石先生の『BECK』がヒット。ほかにも一色まこと先生の『ピアノの森』がアニメ化するほどヒット。女性漫画誌でも矢沢あい先生の『NANA-ナナ-』もアニメ化および実写化され、音楽漫画=売れるという構図が徐々にできあがっていきました」

『NANA-ナナ-』など音楽漫画発の実写映画、アニメのCDも発売されるなど、“メディアミックス”も成功したのも大きな要因であろう。そしてスズキ氏が「音楽漫画が市民権を得る決定打になった」と話すのは二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(’01年)だ。

「クラシック音楽をテーマにしながら恋愛要素もあり、その素晴らしい内容でドラマ、映画化するなど社会現象になりました。『BECK』や『NANA-ナナ-』が音楽漫画を定着させ、『のだめ』がさらに裾野を広げた。音楽漫画が完全に市民権を得た、と言っていいでしょう。のだめ以降、『デトロイト・メタル・シティ』のギャグ路線、『けいおん!』など“ほのぼのバンド路線”など細分化したジャンルも次々受け入れられるようになっていきました」

漫画市場ですっかり定着した“音楽漫画”だが、現在新たな支流になりつつあるのが“ヒップホップ”だという。

「フリースタイルラップ番組がブームになり、この数年で10作近いヒップホップ漫画が出ています。ただ、なかなかヒップホップ好きに届かず、打ち切りも多いのが現状です。そのなかでもSPA!連載中の『少年イン・ザ・フッド』はヒットの可能性を秘めていると思います。ストーリーは96年と現在が交差して進行していくため、新旧ヒップホップカルチャーの解説本のような役割を果たしており、まず読み応えがある。さらに細かいコマ割のなかに、背景にチーチ&チョン似のキャラが潜んでいたり、帽子に人気ラップグループの“サイプレス・ヒル”のロゴが隠れていたり、ヒップホッパーが好きな“元ネタを掘る”行為も楽しめる。漫画好きではなく一般の“音楽好きにも響くと思います」

『少年イン・ザ・フッド』にも、社会現象が起きるほどのヒットを期待したい!

ジュンスズキ氏

漫画家トークイベント「マンガのハナシ」主催者。コミックサイトを制作・運営をするWEB制作会社の社長でもある。@jun_suzuki

◆音楽漫画年表

■1950年~ ストーリー漫画としての音楽漫画の始祖

・『ママのバイオリン』 ちばてつや 1958 少女クラブ

■1960~ 1980年 少女漫画時代

・『ファイヤー!』水野英子 1969年 週刊セブンティーン

・『オルフェウスの窓』池田理代子 1975年 週刊マーガレット

・『いつもポケットにショパン』くらもちふさこ 1980年 別冊マーガレット

■1985年~ 少年誌の音楽漫画スタート

・『TO-Y』上條淳士 1985年 週刊少年サンデー

・『3 THREE』惣領冬実 1988年 週刊少女コミック

・『アイデン&ティティ』みうらじゅん 1992年 ガロ

■1990年代後半~ 群雄割拠・フェスとの相乗効果時代

・『快感♥フレーズ』新條まゆ 1997年 少女コミック

・『神童』さそうあきら 1997年 漫画アクション

・『ピアノの森』一色まこと 1998年 ヤングマガジンアッパーズ

・『BECK』 ハロルド作石 1999年 月刊少年マガジン

・『NANA-ナナ-』 矢沢あい 1999年 Cookie

■2000年~ のだめ誕生・社会現象。音楽漫画が先々の市民権を得るきっかけに

・『ラズレズ』TKD、竹谷州史 2000年 コミックビーム

・『皆殺しのマリア』TKD、竹谷州史 2002年 コミックビーム

・『DRAGON VOICE』西山優里子 2001年 週刊少年マガジン

・『のだめカンタービレ』二ノ宮知子 2001年 KISS

・『プライド』一条ゆかり 2003年 コーラス

・『Hey!! ブルースマン』山本おさむ 2003年 モーニング

・『俺と悪魔のブルーズ』平本アキラ 2004年 アフタヌーン

■2005年~ DMC大ヒット、多様性の広がり

・『デトロイト・メタル・シティ』若杉公徳 2005年 ヤングアニマル

・『ソラニン』浅野いにお 2005年 週刊ヤングサンデー

・『けいおん!』かきふらい 2007年 まんがタイムきらら

・『坂道のアポロン』小玉ユキ 2007年 月刊flowers

・『青空エール』河原和音 2008年 別冊マーガレット

・『ウッドストック』浅田有皆 2008年 週刊コミックバンチ

・『ハレルヤオーバードライブ!』高田康太郎 2009年 ゲッサン

・『カノジョは嘘を愛しすぎてる』青木琴美 2009年 Cheese!

・『日々ロック』榎屋克優 2010年 ヤングジャンプ

■2010年~ 安定してヒット作が出る時代に突入

・『ましろのおと』羅川真里茂 2010年 月刊少年マガジン

・『四月は君の嘘』新川直司 2011年 月刊少年マガジン

・『少年ノート』鎌谷悠希 2011年 モーニング・ツー

・『SOUL CATCHER(S)』 神海英雄 2013年 週刊少年ジャンプ

・『BLUE GIANT』石塚真一 2013年 ビッグコミック

・『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』 原作:町田一八 作画:長田悠幸 2013年 月刊ビッグガンガン

・『風夏』瀬尾公治 2014年 週刊少年マガジン

『なでしこドレミソラ』みやびあき 2016年 まんがタイムきららフォワード

『バジーノイズ』むつき潤 2018年 ビッグコミックスピリッツ

『アリスと太陽』凸ノ高秀 2018年 週刊少年ジャンプ

■2014年~ ヒップホップカルチャーブーム

・『とんかつDJアゲ太郎』小山ゆうじろう 2014年 ジャンプ+

・『アフターアワーズ』 西尾雄太 2015 コミックビーム

・『サウエとラップ~自由形~』陸井栄史 2017年 週刊少年チャンピオン

・『ライミングマン』若杉公徳 2017年 ヤングアニマル

・『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』 インカ帝国 2017年 LINE

・『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』服部昇大 2017年 このマンガがすごい!comics

・『Change!』曽田正人 2018年 月刊少年マガジン

・『キャッチャー・イン・ザ・ライム』背川昇 2018年 ビッグコミックスピリッツ

・『ヒプノシスマイク』 2018年 少年マガジンエッジ、月刊少年シリウス、月刊コミックZERO-SUM、マガジンポケット

・『パリピ孔明』原作:四葉タト 作画:小川亮 2019年 コミックDAYS

(取材・文/週刊SPA!取材班、協力/ジュンスズキ氏)

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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