ネトウヨ総理に残された道はただ一つ。潔い退陣だけだった/倉山満

日刊SPA!

―[言論ストロングスタイル]―

◆もはや、ネトウヨ総理に残された道はただ一つ。潔い退陣だけだった

私は昨年7月の参議院選挙を機に、安倍内閣への消極的支持を捨て、積極批判の立場を採った。

思い起こせば、2013年10月1日に安倍晋三首相は消費増税を宣言し、自らの命綱であるアベノミクスを腰折れさせた。その後も弱すぎる野党に助けられ続け、憲政史上最長政権を築いた。

消極的支持の間に増長したのが、「ネトウヨ」どもだ。連中は「安倍内閣を一言でも批判する者は保守ではない」とばかりに異論を封じた。狂った連中だ。狂人に正論は通じない。だから、好きにやらせてやった。その結果、何ができたか。消費税増税すら止められない総理大臣を、北朝鮮やロシアや中国が恐れるはずがない。それどころか、官僚機構や自民党の既得権益層からしても、「何も怖くない総理大臣」だ。彼らからしてみれば、未来永劫、総理大臣でいてくれて構わない。

割を食うのは国民だ。少しばかり景気を回復したが、それも二度の増税とコロナで吹っ飛んだ。今どき、「安倍外交は史上最高」など、よほどの狂信的な安倍応援団でなければ恥ずかしくて言えまい。この8年間、すべての周辺諸国の靴の裏を舐め続けただけだ。確かに靴の裏の舐め方は上手かったが、それが何になったと言えるのか?

私は「安倍内閣には何の実績も無い。吉田茂や佐藤栄作ら、歴代の長期政権を築いた首相に比肩する実績を一つでも挙げてみろ」と挑発したが、安倍応援団からは感情的な反発があっただけで、有効な反論は何一つなされなかった。

そして8月24日、連続在任記録で佐藤内閣を超えた。その日の新聞とテレビは一斉に「実績はあるがレガシーはない」と書き立てた。私の言った通りではないか。

一度として100議席を超えたことが無い野党を相手に、邪魔する者などいない状況で、安倍晋三さんは支持者のネトウヨ以外から誰も評価されない、可哀そうな存在と化した。もはや、ネトウヨ総理に残された道はただ一つ。潔い退陣だけだった。

◆国際情勢は緊迫

さて、日本のような小国と関係なく、国際情勢は緊迫している。

コロナ禍など利用する道具にすぎないとばかりに、米中のつばぜり合いは続いている。そして27日、中国は南シナ海にミサイルを発射した。同地域の監視を強めるアメリカに対し、牽制の意味と見られている。

一部のイカサマ言論人は「アメリカが中国をやっつけてくれる」と大はしゃぎだ。さらに頭の悪いことに、「世界は中国を潰そうとしている」「特に米英は安倍外交を歓迎している」などと、ネトウヨの喜びそうな扇動で商売をしている。

これに、居酒屋で野球の応援をするかの如く、ネトウヨどもは狂喜乱舞する。残念ながらこうしたマイノリティーの声がやかましく、少なからずの人が惑わされている。

日々の仕事に忙しく、基礎的な国際政治の勉強などする暇が無い善良な人々が、一応は作家だの評論家だの肩書のある人がそれなりのメディアで語ると、「本当なのか?」と信じたくなる気持ちはわかる。

国際政治は魔法ではないのだから、少し本筋を見れば嘘には騙されなくなる。

◆国際政治の本筋を無視した、イカサマ言論人の「米中戦争」「中国崩壊」商売は後を絶たない

そもそも、「中国をやっつける」の「中国」「やっつける」とは、何なのか。

「中国」とは、中華人民共和国なのか、中国共産党体制なのか、習近平政権なのか。政治家の裏切りなど日常茶飯事の中国では政権崩壊の危機など常にあるが、コロナ禍を軽く乗り越えた習近平が今すぐに放逐される予兆が、どこにあるのか。また、支配体制や国そのものが崩壊して、それが日本の利益になるのか。

我が国は近代史において苦い経験がある。1911年の辛亥革命において、清朝が崩壊した。その後に成立した中華民国は一度として安定することなく、動乱に巻き込まれて大日本帝国は滅んだ。

もう10年くらい「○○年に中国が崩壊するぞ」との、「中国崩壊」商売は後を絶たない。だが、その時への備えを日本がしてきたなどという話は、聞いたことが無い。

また、「やっつけてくれる」とはどういうことか。まさか、アメリカが世界大戦を覚悟で軍事力を行使するのか。もし大戦争を覚悟するならば、地上軍の動員があるはずだ。最近では、湾岸戦争しかり、アフガン戦争しかり、イラク戦争しかり。

事情は、中国の側も同じだ。戦争に勝つとは、「土地を占領し、その事実を敵に呑ませること」だ。いくらハイテク兵器の時代になっても、戦いの本質は変わらない。

米中による大戦争が絶対に無いとは言わないが、それならそれなりの予兆があるのだから、ニュースを見る時は気を付けておけばよい。

◆トランプ大統領に中国を潰す意思と能力があるのか

そもそも、今のドナルド・トランプ大統領に、中国を潰す意思と能力があるのか。

アメリカの絶頂期は、ドワイト・アイゼンハワー大統領の時代だ。その頃は「大戦争二つと小規模紛争一つに同時対応できる国力を持つ」と豪語していたほどだ。ところが、21世紀のアメリカは同盟国の助けを借りて一つの小規模紛争を行うのが精いっぱいだ。

トランプは、ソ連を本当に潰したロナルド・レーガン大統領を模範としている。だが、そのレーガンも一期目の途中でようやくレーガノミクスが成功して経済力を回復し、そこからようやくソ連潰しにとりかかれた。トランプは取り柄の経済がコロナで吹っ飛び、再選も心もとない。

果たして、今のトランプにアイゼンハワーやレーガンのような力があるのか。そのような状況で中国を潰すなどと考えているのか。

今の政権の考えは、公文書を読めばわかる。トランプは中国を潰すどころか、断交すら考えていない。確かに中国を甘やかしてきた歴代政権の姿勢を反省している。では何をするかと言えば、中国に可能な限り言うことを聞かせるだけだ。中国の巨大市場を離す気はない。

国際政治を動かしているのは徹頭徹尾、力の論理だ。最終的には軍事力で解決を付けるのが国際政治だ。同盟国とは、「いざという時に、一緒に命懸けで戦う国」のことだ。

アメリカにとって、日本はこの意味での同盟国なのか。安倍内閣8年間、一ミリでもこの意味での同盟国に近づいたのか。

他人事のように眺めていては、いつまでたっても日本は国ではない。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】

憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。最新著書に『13歳からの「くにまもり」』

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