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小説家兼ベンチャー企業役員・上田岳弘がたくらむ「価値基準を超えた小説」とは

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純文学にSF的なモチーフを融合させたスケールの大きい作風で多くのファンを魅了する作家・上田岳弘。’15年には『火花』を抑えて見事三島由紀夫賞(『私の恋人』)を受賞、カズオ・イシグロを見いだしたイギリスの文芸誌『GRANTA』若手ベスト企画ではデビューから最速で選出される一方、実はベンチャー企業の役員でもある。そんな純文学界の若手旗手にして異端児の彼が世に送り出した新しい小説プロジェクトが『キュー』。上田自らの発案で始まった、老舗文芸誌『新潮』とヤフーによる共同プロジェクトにどんな理想を抱いているのか聞いてみた。

◆立場にとらわれず得意な人が動けばいい

――上田さんの連載小説『キュー』は文芸誌上に掲載されているだけでなく、週2回の更新ペースでスマホで無料配信されている点が大きな特徴です。まずはこの企画を思いついた経緯についてお聞かせください。

上田:以前、古井由吉さんに「今後、日本の文学はどうなっていくんでしょうか?」という、めちゃくちゃ大きな質問をぶつけたことがあるんです。今思えば、ずいぶん酔っぱらっていたなと恥ずかしくもあるのですが……。そのときに古井さんから「海外では新興企業が芸術を支援することが普通に行われている」という話を聞いて、「これだ!」と思ったんです。

――そこからヤフーとの共同プロジェクトに結びついたわけですか。

上田:ヤフーのスタッフさんとはもともと知り合いで、いわゆるページビューやクリック率といった、数字で判断できる価値基準を超えた新しい「何か」ができないかずっと話し合っていたところだったんですよ。古井さんのお話を聞いて、その何かに「小説」が当てはまるんじゃないかって思い当たったんです。

――つまり今回の『キュー』プロジェクトは、IT業界と純文学、双方にとってプラスになる試みだと。とはいえ、作家自ら座組みを作るって、なかなか珍しいことですよね。

上田:そうですね(笑)。でも、僕は会社の業務でもアライアンスを担当していて、複数の会社の強みを組み合わせれば面白いんじゃないかっていう提案をしょっちゅうするんですよ。今回のこともそれと同じ。こういうことは、立場や業種にとらわれず、得意な人が率先して動いて文学のためになればそれでいい

◆本を読まない人たちに届くような仕組みを

――では実際に、このプロジェクトが「文学のためになる」と判断したポイントはどこにあるんでしょう。

上田:まずリーチ力ですね。月刊文芸誌の部数が約1万部と考えると、スマホのブラウザ上で『キュー』を読んでくれた人は、桁が違ってきていることがわかっています。それは、文芸誌に載せているだけではまったく届かないような層にも届けられるということ。たとえば、本文を読み進めることでジェネレーティブアートという、動く挿絵をSNSで共有できるシステムになっているのですが、それをシェアしてくれたアカウントを確認すると、これまで文芸誌に触れたことがないような人たちにも届いていることがわかる。いい意味で「誤配」が始まっているんです。

――そうした誤配から具体的にどんなことを期待していますか。

上田:以前、文学とはまったく関係のないリクルート社の役員をしている友人に、試しに僕のデビュー作である『太陽』という小説を読んでもらったことがあるのですが、「なんかガルシア・マルケスみたい」って言われたのがすごく印象に残っていて。要するに、その人も学生の頃はマルケスみたいな小難しいものも一応読んでいたわけです。ところが就職して忙しくなって、次第にそういうものから遠ざかって自己啓発本みたいなものしか読む機会がなくなってしまった。小説を読まないと自認している人の半分は、実はこのタイプだと思うんです。そういう人たちが、まずは枠組みの新しさから再び文学に興味を向けるきっかけになれればいいなと思います。

※このインタビューは11/14発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【上田岳弘】

’79年、兵庫県生まれ。’13年『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。’15年『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞を受賞。’16年、イギリスの老舗文芸誌『GRANTA』のBest of Young Japanese Novelistsに選出。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』

取材・文/茗荷谷ゆかり 撮影/尾藤能暢


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