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東電、原発事故で事業停止した企業へ賠償金支払い拒否…「所在地は対象外」と虚偽の説明

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 2011年3月の東京電力福島第一原発事故によって経営破綻し、実質国有化された東京電力は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から累計ですでに10兆円近く借りている。同事故で被曝や避難を強いられた人々に賠償金を払うためだ。

賠償は、原発事故によって売上が落ちたなどのいわゆる「風評被害」を受けた人々や企業に対しても行なわれている。東電の延命のために国がこしらえたこのシステムでは、賠償に必要な分だけを借りることが可能で、東電の賠償用資金は事実上青天井。元手に困ることも、ことさら値切る必要もない。

一方、原発事故によって被害を受けた被害者には、同様の支援措置は用意されていない。国が被害者のために用意したのが「原発ADR」の仕組みである。被害者の数があまりにも多かったため、そのすべてを裁判所で裁くと大混乱に陥り、被害者の救済も遅れるとして、迅速な解決を目指し、国(文部科学省)と法曹界の協力の下、原発ADRの制度が設けられた。

「原子力損害賠償紛争解決センター」(ADRセンター)における仲介費用は無料。同センターが個別の事情に応じた和解案を提示して、東電との賠償交渉を仲介してくれる。従って東電に対する損害賠償請求では、東電との直接交渉や裁判以外にも、このADRセンターを利用する道もある。

ただし、ADRセンターでの和解が不調に終わった場合、被害者は改めて東電と直接交渉するか、裁判を通じて損害賠償請求するほかなく、賠償が果たされるまでにさらなる時間がかかることになる。裁判をしても納得のいく賠償金を勝ち取れる保証があるわけではないので、ADRセンターの示した和解案でしぶしぶ妥協する被害者も多い。

だが、直接交渉した後にADRセンターや裁判所で東電と争った結果、東電からいまだ一銭も賠償してもらっていない被害者がいる――と聞いて驚いた。

実は、東電がこの被害者に対し、頑なに「びた一文支払わない」と拒否し続けているわけではない。少しは支払うと言っている。にもかかわらず、裁判所が判決で示した被害の認容額がなんと「ゼロ査定」だったのだ。裁判所は、被害者救済を阻んでいったい何をしようというのか。

●事故直後は「放射線管理区域」レベルだった、郡山駅周辺の放射能汚染

福島県郡山市内で高級クラブとカフェを経営していたA社は、福島第一原発事故により、営業停止を余儀なくされた。東日本大震災に伴う地震により、店舗の備品が壊れるなどの被害を受けたものの、すぐに営業を再開する予定だったが、地震に続いて発生した原発事故により撒き散らされた膨大な量の放射能を恐れた従業員たちが郡山から避難してしまい、営業を再開できなくなってしまったのだ。

JR郡山駅前のビル内にあったA社の高級クラブは、60名以上のホステス(同クラブでは「キャスト」と呼称。以下、女性従業員と記す)を揃えた大箱の繁盛店で、郡山を出張で訪れた男性客や接待などに利用されてきた。だが、原発事故後、女性従業員の半数が避難で郡山を離れ、原発事故発生から3カ月が過ぎた時点で仕事に復帰できそうな女性従業員は10人ほどしか残っていなかった。そこでA社はこれまでの店舗での事業再開を断念。店の規模も縮小せざるを得ず、家賃が半額ほどの店舗物件に移転して、11年6月、クラブを再オープンすることにした。

しかし、売上は以前の半分にまで激減。ビジネスや観光で郡山市を訪れる人が極端に減ってしまったことに加え、入れ替わるようにして郡山駅周辺の繁華街を訪れるようになった「復興作業員」たちは、高級クラブの客層とは明らかに異なる人たちだった。そして15年1月、A社は事業を停止し、クラブも閉店した。

ところで筆者は11年5月、取材で郡山市を訪れている。その時の模様は拙著『刑事告発 東京電力』(金曜日)で報告した。当時の郡山市の汚染状況がよくわかるので、以下、抜粋して引用し、補足説明を加えながら紹介する。

福島県内では、天気予報ならぬ「放射能観測情報」がラジオで聞けるのだという。日によって、空間放射線量が上がったり下がったりするそうだ。

(11年5月5日)午後7時前、JR郡山駅前のビジネスホテルに着き、クルマを降りると、駐車場の線量は毎時0.8マイクロシーベルト。文部科学省謹製の汚染マップでも同じ値が記されていた。文科省の発表も結構当てになるようだと感心するのと同時に、持参したロシア製の簡易測定器RADEX「RD1703」の性能確認をする恰好の機会ともなる。

文科省の汚染マップによれば、ホテルを出て郡山駅に近づいていくにつれ、放射線量が上がるようだった。駅に向かって歩いていくと簡易測定器の数値はどんどん上がり続け、郡山駅東口駅前広場ではなんと毎時1.8マイクロシーベルトを記録し、絶句する。放射線管理区域に指定し、その旨を表示した看板を立て、立ち入ることができるのは診療放射線技師等の資格を持った者だけにすべきレベルの深刻な汚染だ。

国が定める「放射線管理区域」の目安は、毎時0.6マイクロシーベルトの空間線量であり、ここではその3倍の放射線が飛び交っている。人の行き交う中、アラーム音が鳴り続けて止まらないので、アラームが「毎時0.6マイクロシーベルト以上」で鳴るように設定していた簡易測定器の電源を切る。

呆然と立ちすくむ私のすぐ前を、マスクもしないOLや学生服姿の若者たちが何ごともなかったかのように次々と通り過ぎていく。公衆が行き交うのが当たり前の場所であれば、放射線への感受性が高い人も、きっとここを通るだろう。

私のような取材記者がこうした場所に滞在するのは、ほんの一瞬のことでしかない。心配なのは、この場所で日々、暮らし続け、被曝し続ける一人ひとりの郡山市民である。何しろ放射線は見えない。今の福島県で生活し続ける人たちにこそ、簡易測定器や積算線量計が必要だった。

引用は以上である。A社がクラブを再オープンする1カ月前の郡山駅周辺の汚染状況はこのようなものであり、女性従業員たちが大挙して避難してしまったのも無理からぬことだった。

●青天井で保護される「加害企業」が賠償金を値切る

11年8月、文部科学省の下に設置された原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が「中間指針」を発表。東電は、この指針に基づき被害者への補償をするとした。だが、加害企業である東電はこれまで、「自分たちには法的責任がある」ということを表明していない。国が定めた原子力損害賠償制度と、原賠審が出した「指針」に基づき補償するというスタンスを、東電は頑なに取り続けている。つまり、法的責任を曖昧にしたまま、被害者に対して「補償」話を提示してきたわけである。そしてこの曖昧なスタンスこそが、A社とその関係者たちを6年もの間、苦しめ続けている。

クラブを再開させたものの、売上が回復せずに苦しむA社は11年9月、東電の「補償相談室」に問い合わせた。すると、「A社様の所在地(すなわち郡山市)は賠償の対象外となっておりますので、お支払いできません」と言われる。あたかも加害者が被害者に“施し”をしてやるかのような物言いである。

実を言うと東電は、11年9月26日に郡山市で賠償説明会を行なっていた。A社も出席していたその説明会で、東電は次のように説明していたという。

・郡山市内の法人は、減収分が賠償の対象になる。
・決算書があれば請求できる。
・基準年度は直近3年のうち、売上が一番高い年でいい。
・賠償請求は被害者が因果関係を証明するものだが、請求書による賠償請求では、因果関係の証明なしに東電が責任を認める。請求書がなければ膨大な時間がかかり、賠償金の支払い時期がいつになるかわからないので、請求書で賠償請求をしていただきたい。

その一方で東電の補償相談室はA社に対して賠償はできないとし、なぜ請求できないのか尋ねても、「理由はお答えできない」と言うのである。

郡山市内に限らず、福島県内では風評被害による減収に対する賠償が行なわれていた。事故前後の粗利の差を決算書で比較して、下がっていたら「逸失利益」として賠償するという考え方に基づく。この考え方に基づけば、事業規模を縮小した場合も、業種を変えた場合も、決算書が赤字だった場合も、さらには会社の所在地を福島県外に移した場合も、東電は賠償することになる。計算方法が簡便なため、東電に直接請求して賠償金を受け取った法人も多い。

繁盛店だったA社のクラブの場合、この計算方法で算出した逸失利益は事故後の半年間でおよそ1億1300万円にのぼっていた(前年比)。むろんその間も、従業員たちに給料を支払い続けていた。

A社では、原発事故の発生に伴い東電からの賠償を受けていた福島県内の美容室、居酒屋、造園業、カラオケ店、旅館、ホテル、冠婚葬祭業者などに、東電の対応について尋ねてみた。だが、A社と同じような扱いを受けた法人はひとつもなく、なぜか東電はA社に対してだけ賠償金を払えないというのだ。

解決を図るにはもはや直接交渉では埒が明かないと考えたA社は11年12月、ADRセンターに仲介を申し立てた。しかしADRセンターは、1年近く待っても和解案を出す気配がない。まったく頼りにならないので、ADRセンターへの申し立てを取り下げ、再び東電と直接交渉することにした。今度は、公認会計士からの助言も得ながら交渉する。

13年4月、東電が和解案を提示。金額は1471万円だった。A社にしてみれば、半年間の逸失利益の10分の1程度の金額である。とても承服できる和解案ではない。A社は14年12月、東京地裁に提訴した。

だが、16年9月に裁判所が示したA社の逸失利益は、なんと“ゼロ査定”。原発事故による被害を一銭も認めないという、常軌を逸した判決だった。

なぜ、こんなことになったのか。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

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