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【今週はこれを読め! エンタメ編】めざせ一発逆転!?~両角長彦『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』

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 亡くなった私の父は、納得がいかないことに対し妥協して頭を下げたりすることができない性格で、そのためしょっちゅう仕事を変わってくる人間だった。一方で弟と私に対しては甘く、「ふたりはおとうさんの宝物だから」といった言葉を照れもせずに言える父親だった。父親としては満点に近いが、夫としては15点くらいだったのではないかと思う。

本書の主人公・柴田に、自分の父親の面影を見る思いがした。柴田はあまり売れない小説家。文芸編集者だった妻のナミとは、柴田がある文学賞に応募したときに知り合った。ナミが働いて家計を支えていたのだが、娘の裕子が生まれたのを機に退職。その後貿易会社の事務職として再び働き始めたものの、ナミひとりの収入が頼りという経済的には不安定な家庭だ。成功体験を手に入れたいと東大を目指すことに決めた柴田は、受験に関しては根拠のない自信に満ちあふれたタイプ。が、結局ろくな試験勉強をしなかった結果、不合格となる。今度こそ愛想を尽かすかと思われたナミだったが、離婚するしないでひと騒ぎあったりしつつも、なんとか柴田がもう1年受験勉強に専念するということで折り合いを付けた。娘にはめっぽう優しいが、生活力は0。ナミは結婚前、書かずにいられないから小説を書いているように見える柴田に惚れ込んだわけだが、百年の恋も冷めるときは冷める。

本書は著者の実体験を元にしているらしいけれども、いったいどこまでが事実なのだろうか。というのも受験話だけではなく、お金に困ったナミが夫に内緒でキャバレーでバイトを始めたところ言い寄ってくる男が現れたり、家の近所に犯罪のにおいのするやたらと怪しい男が住んでいたり、柴田の同級生がとんでもない行動に出たりと、いかにもミステリー作家らしいストーリー展開になっていくからだ(若干ファンタジーというかホラーというかなテイストも)。昨今話題になっている東大理IIIにお子さん4人を合格させた佐藤ママさんの体験記に、もしこのようにさまざまな騒動が盛り込まれていたら、さらに幅広い読者層を獲得したかも?

とはいえ、最大の読みどころは果敢に受験に挑む男の姿であり、家族小説としての側面であろう。昔だったらガリ勉と揶揄されたようなケースも最近は肯定的に捉えられることが多く、勉強することの重要性が見直されている気がする。それでも東大を受験するほど勉強に打ち込む受験生はやはり一部分であるし、それが30過ぎの妻子持ちともなればなおさらだ。家族の助けなしに受験生としての柴田は存在し得なかった。浪人生活に入ってからは飯の種である小説を書くことすらままならない夫に対して(言いたいことは言うものの)ナミは最終的には容認するし、裕子に至っては全面的にパパの味方だ(娘の高校受験の1週間前に会社を辞めてくるような強烈エピソードも多々あったが、私も父に対して不思議とマイナスの感情は持ったことがない。ナミのように、私の母もまた偉大だったのだろう)。柴田の兄も義父(ナミの父親)も、なんだかんだで応援してるし(家族ではないけれども、柴田の高校の同級生で現在は予備校講師の溝口の存在も大きい)。さて、2年目の挑戦はいかに...?

ということで、著者ご本人という以上に、ご家族のみなさまのためにぜひ本が売れるといいなと願う。両角長彦氏は2009年『ラガド 煉獄の教室』(光文社文庫)で第13回ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、同作でデビュー。本書では、模試が終わった後に観た映画の記述もあるのだが、その作品のチョイスがなかなか(アクション好き?)。日本推理作家協会のサイトにある会員名簿によると、趣味の映画鑑賞は年間200本ペースとのこと。映画評の仕事なども依頼があるといいですね。

(松井ゆかり)

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