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演出家ヤン ジョンウンに聞く~平昌冬季オリンピック開・閉会式を手掛ける鬼才が、浦井健治演じる『ペール・ギュント』を語る

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ヘンリック・イプセン作『ペール・ギュント』が、2017年12月に東京・世田谷パブリックシアターの開場20周年記念公演として上演される(同月、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでも上演)。韓国演劇界を代表する演出家であり、2018年2月には平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック開・閉会式の総合演出もつとめるヤン ジョンウンを迎えての日韓文化交流企画。浦井健治、趣里、マルシアら日本の俳優と韓国の俳優が出演する。新演出に挑むヤンに『ペール・ギュント』への意気込みを聞いた。


――『ペール・ギュント』は、ヤンさんが芸術監督を務める劇団旅行者(ヨヘンジャ/극단여행자/YOHANGZA THEATRE COMPANY)で何度も練り直し上演し続けてきた代表作です。それを日韓の俳優で新たに上演しようと思われたのはなぜですか?

日韓交流の企画として提案いただいたとき、この作品の持っているグローバルな感覚で、世界が繋がっているという旅路を描くのがいいのではないかと思いました。

――今回はキャストもスタッフも変わりますね。

新しい演出になります。日本の俳優が作品をリードし、そこに韓国キャストが入って行く感じになると思います。私の作品の基本は役者がどう存在するかということ。さらにスタッフも日本の方になり、打ち合わせをしていますが、新しい素晴らしいアイデアが出てきています。いい科学反応が起こっていきそうです。

――長大な原作を上演台本に脚色されるにあたってのポイントは?

イプセンの持っているテイストは損なわないようにしながら、今の21世紀に合致するように変えていこうと思いました。21世紀に見せるべきものにしたつもりです。そもそも、「自分探し」というとても強いインパクトをもっている作品なので、現代にも寄り添ったテーマになっているかなと。

――現代人は自分自身をどんな風に見失っていると感じていますか?

現代人は自分自身を失っているという感覚ではなく、直視できない、自分の心の内から出てくる声にちゃんと耳を傾けられないのだと思います。周りとの関係性やシステムの中で自分を見つめることができないでいる。そこを見つめることが自分探しではないかと思います。

――現代人が自分を見つめられなくなったのは何故だとお考えですか?

20世紀という時代には、自分を失うというのが実存主義的な哲学に基づいてあったのかもしれません。しかし21世紀の今、デジタルやSNSがあふれた環境の中で生活していると、ポストモダニズム以降のそのさらにもうずっと先の時代に生きているように感じるんです。何にフォーカスしていいかわからないまま、振り回されて生きている。昔に比べて自己表現の欲求も高くなっているでしょう? でもその反面、自分の中の欲求に引っ張られて道を見失っていることもある。心理的葛藤がもっと複雑でかつ微妙で、衝突が細かく分かれているように思います。


―――日本の出演者とは全員初めての顔合わせですね。浦井健治さんの印象は?

少しお話しして、出演している作品も拝見しました。ぱっと見るとすごく健全な青年のイメージですが、内面には複雑さと繊細な感受性をもっている。そして強い直観力を持っている。楽しみですし、期待しています。

――キャストはオーディションで選ばれたそうですね。ソールヴェイに趣里さん、母オーセにマルシアさんと、女性の役もキーになってきます。

趣里さんは強烈なエネルギーをもっていますね。目を離すことができない。韓国でタコを生きた状態で食べる料理があるのですが、食べようとすると動くんです。そんな圧迫されている環境から抜け出そうというイメージを想起させるような、生命力を感じます。かつ繊細でやわらかい。マルシアさんは、ひと目見てオーセだなと思いました。愉快で豪快で率直で、力強い母性を感じました。成熟した女性の魅力も持っている方ですね​。

――音楽は国広和毅さんが新たにつくるそうですね?

デモ音源を聞いたのですが、インパクトがありとても強烈でユニークでした。寂しさの中に孤独のエネルギーを感じましたね。独創的で力があり、センスのある良い音楽に仕上がりそうです。

――劇団旅行者の上演では、東洋性の色濃い音楽だったと感じたのですが。

アジアの楽器を使っていたのでそういう風に聞こえたかもしれませんが、とくに東洋性を強調しようとは思っていませんでした。この作品の、世界の人々と時間と空間がすべてボーダーレスになっている状態を提示したいので、むしろ、そこ(東洋性)から解放されたものを作りたいと思っています。そのうえで、あえて夢を語るとしたら、この作品で世界ツアーに行けたらと思っています。


――ヤンさんの作品は、ヴィジュアル面も興味深いです。

私が追い求める世界は、詩的でありながら五感を動員して観るものです。言葉も大事ですが、当然、視覚的な部分が重要になってきます。そのあたりも、日本の新しいスタッフからアイデアをたくさんいただいて構築していこうと思っています。私自身は飽きっぽい性格なので、いつもなにか新しいものを求めています。

――飽きっぽいとのことですが、『ペール・ギュント』はずっと追い求めていますね。

この戯曲の中に「玉ねぎの皮」というくだりがあるのですが、この作品は剥けば剥くほど新しいものが出てくるんです。信念だったり、新しい真実を見出すことができる。まだまだ剥くべき皮がたくさんあるのです。

――ヤンさんはBeSeTo演劇祭(日本・中国・韓国による共同演劇祭)の韓国代表ですが、日本の演劇との関わりも教えてください。

思い返すと日本の演劇とは切ってもきれないですね。太田省吾さんの作品や新宿梁山泊も観ました。1960年代のアバンギャルドな舞台の写真も拝見しましたし、何よりも高校生のときに出会った黒澤明監督作品の映画、文学や漫画に影響を受けています。それだけ韓国と日本は近い距離だということですね。海外で初めての演劇的体験はヨーロッパでしたが、その作品のスタッフは日本人だった。20数年前ですね。韓国で劇団を立ち上げるよりも前のことです。

――今回の上演でさらに近くなりますね。

これをきっかけに、もっと日本を愛そうと思ってます。以前は両国に分離感があったのですが、今は繋がる感覚が強くなり、親近感があります。政治的なことはありますが、アーティストのほうがずっと前を走っていますから。ただ、国の支援は欠かせませんし、大きなシステムや方向性を示す力をもっていますから、チャンスがあればそういった力を使ってさらに交流がうまくいくようにしていきたいです。

――『ペール・ギュント』の後には、平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック開・閉会式の総合演出が控えています。

オリンピックを通じて新しい経験をさせていただいています。スケールが大きくて楽しいです。一方で、私の主宰する劇団も100席ちょっとの小劇場「ヨヘンジャ劇場(여행자극장)」をソウルにオープンしました。現在は劇団のことになかなか関われない状況ですが、メンバーの公演を観に行ったとき、初心を思い出して熱いものがこみ上げてきました。正直、オリンピックが終わったらどこに向かうか自分でも分かっていない状況ですが、演劇をもっと考えるいい機会になりました。今は、自分自身に期待しているところです。


取材・文=田窪桜子 写真撮影=髙村直希
公演情報 日韓文化交流企画『ペール・ギュント』

■原作:ヘンリック・イプセン
■上演台本・演出:ヤン ジョンウン
■出演:
浦井健治
趣里、万里紗、莉奈、梅村綾子、辻田暁、岡崎さつき
浅野雅博、石橋徹郎、碓井将大、古河耕史、いわいのふ健、今津雅晴、チョウ ヨンホ
キム デジン、イ ファジョン、キム ボムジン、ソ ドンオ
ユン ダギョン、マルシア
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201712peergynt.html <東京公演>
■日程:2017/12/6(水)~2017/12/24(日)
■会場:世田谷パブリックシアター (東京都)
<兵庫公演>
■日程:2017/12/30(土)~2017/12/31(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)

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