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吉高由里子が売春&快楽連続殺人鬼に豹変した!! 人間の暗黒面に迫る犯罪ミステリー『ユリゴコロ』

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 ユリの花は純潔のシンボルとされており、ユリの根は不眠や精神不安に効果がある漢方薬ともなる。だが、同じユリ科でもスズランや彼岸花には猛毒があることが知られている。沼田まほかるのミステリー小説『ユリゴコロ』(双葉社)は、人間の中に潜む崇高さと邪悪さの両面を描いた作品だ。『紀子の食卓』(06)や『蛇にピアス』(08)といった先鋭的な作品で存在感を放ってきた女優・吉高由里子は、最新主演映画『ユリゴコロ』では売春婦&連続殺人鬼でありながら、自分の中に根づいたユリゴコロに従って一途に生きるヒロイン・美紗子を演じている。

沼田まほかるの原作小説が圧倒的に面白い。10月28日(土)には蒼井優、阿部サダヲ主演作『彼女がその名を知らない鳥たち』も公開されるが、沼田まほかるの作品は人間のダークサイドを徹底的に掘り下げることで、逆に人間の持つ善良な部分が浮かび上がってくるという独特のレトリックが駆使されている。普通の主婦、出産、離婚、お寺の住職、建設コンサルタント会社の設立、倒産……、そして56歳にして作家デビューという山あり谷ありの末の遅咲きの花。だが、そんな彼女が生み出す小説は、伝説の植物マンドレイクのように、奇妙で妖しく、一度でも本を開いてしまった者を虜にしてしまう悪の魅力に溢れている。

カフェのオーナーである亮介(松坂桃李)は、婚約者の千絵(清野菜名)が謎の失踪を遂げ、さらに男手ひとつで亮介を育て上げた父親が末期癌であることが分かり、人生のドン底であえいでいた。ある日、亮介は父親がひとりで暮らす実家の押し入れから、「ユリゴコロ」と題名のついた手書きのノートの束を見つける。その内容は、ひとりの女性が次々と殺人を犯す過程が書かれた生々しい手記だった。亮介は、その手記の執筆者が誰なのか分からないまま、夢中になって貪り読み始める。

「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とは違うのでしょうか」。そんな一文で始まる手記は、美紗子(吉高由里子)の生い立ちから始まる身の毛のよだつ物語だった。子どもの頃、他の子のように笑ったり、泣いたりする感情をうまく持つことができなかった美紗子は、深い井戸の中にカタツムリやミミズといった生き物を放り込むことに安らぎを覚えるようになる。美紗子に強い感情が芽生えたのは、小学校の同級生が庭の池で溺れ死んだ事故を目の前で目撃した瞬間だった。その日以来、美紗子は人間の死に立ち会うことで、自分の中にある“ユリゴコロ”がざわめくことを知る。やがて成長した美紗子は、自分の中のユリゴコロを確かめるかのように、次々と人を殺めるようになっていく。動機なき殺人ゆえに、なかなか警察の手が美紗子に及ぶことはなかった。

原作とは異なる映画版として、本作の脚本&演出を手掛けたのは熊澤尚人監督。『君に届け』(10)や『近キョリ恋愛』(14)などコミック原作の青春ラブストーリーものをヒットさせてきたが、「これまでとは違うテイストのものにトライしたい」と沼田まほかる原作小説の映画化に取り組んだ。熊澤監督が意欲的に撮り上げた過去パートが実に素晴しい。美紗子の小学校時代、同級生の女の子が池で溺れるシーンは“映像の魔術師”と呼ばれるニコラス・ローグ監督のサイコサスペンス『赤い影』(73)の冒頭シーンを思わせる。また、木々が生い茂った暗い庭の中に、ひとりで佇む美紗子の顔にだけ反射光が当たり、その表情が浮かび上がる。黒澤明監督の『羅生門』(50)の薮の中のシーンのようでもある。美紗子の中にユリゴコロが芽生えたことを示す印象的な映像となっている。若手カメラマン・今村圭佑の才気がほとばしった名シーンだ。

また、佐津川愛美が演じる、美紗子の親友・みつ子もインパクトのあるキャラクターとなっている。高校を卒業した美紗子は専門学校に通うようになり、他人とうまく交流ができずにいるみつ子にシンパシーを覚える。一般社会で生きることに苦痛を感じているみつ子は、リストカットすることでしか生きている実感を味わうことができない。みつ子がひとりで自殺しないよう、美紗子は「わたしも切って」と自分の手首を差し出す。お互いの手首に刃物を当て、血を流し合う美紗子とみつ子。誰も知らない深い谷間で、2つのユリの花が寄り添うようにひっそりと咲く。みつ子役の佐津川愛美は、ストーカー被害に遭う『ヒメアノ~ル』(16)や呪いのビデオの犠牲となる『貞子VS伽椰子』(16)など不幸を引き寄せてしまう女の子を演じると俄然輝きを発する希有な女優だ。生きづらさに悩み続けるみつ子は、やはり美紗子の手によって優しくあの世へと送られることになる。

再び、ひとりぼっちになった美紗子は就職もうまくいかず、夜の街に立つ娼婦となる。肉欲をユリゴコロにしているだろう男たちに自分の身体を投げ出し、いくらかのお金を受け取る美紗子。また、美紗子が街娼となったことで、不審死を遂げる男の数も増えていく。己の性欲を解放することしか頭にない男たちの、何とも無防備なことか。吉高由里子演じる美紗子は、シャーリーズ・セロン主演作『モンスター』(03)のモデルとなった実在の女殺人鬼アイリーン・ウォーノスのようだ。吉高の冷ややかな一重まぶたが不気味に感じられる。だが、美紗子は死刑執行されたアイリーン・ウォーノスと違って、洋介(松山ケンイチ)という罪の意識を抱えた孤独な若者と出会ったことで、殺人とは異なる新しいユリゴコロを見出すことになる。

原作にほぼ忠実な過去パートがとても素晴しい反面、原作を脚色した現代パートには正直なところ物足りなさを感じてしまう。映画版『ユリゴコロ』は美紗子と洋介とのラブストーリーとして収斂していくわけだが、サイコキラーを身内に持ってしまった一家の頭が割れんばかりの葛藤やそんな彼らが考え出した禍々しい解決策が、原作に比べてかなり希釈されてしまったように思う。クライマックスとなる千絵との再会シーンも釈然としない。熊澤監督は松山ケンイチが出演したホラー映画『親指さがし』(06)では、“呪いとは人間の心の中にある罪悪感が生み出したもの”という興味深いテーマを扱っていただけに、キラキラと輝くことができない人間の隠された心情を熊澤監督には今後も追い続けてほしい。

沼田まほかるが生み出したユリゴコロは、生きる気力を持てずにいる人間に活力を与えるが、適量を誤ると人間を死に至らせる劇薬にもなってしまう。ユリゴコロに触れてしまった熊澤監督、今村カメラマンらスタッフ、そしてキャストの面々が、これからどんな変貌を遂げていくのかに注目したい。(文=長野辰次)

『ユリゴコロ』原作/沼田まほかる 監督・脚本/熊澤尚人出演/吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江 配給/東映、日活 PG12 9月23日(土)より全国公開(c)沼田まほかる/双葉社 (c)2017「ユリゴコロ」製作委員会http://yurigokoro-movie.jp

外部リンク(日刊サイゾー)

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