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去年の「君の名は。」みたいだ「ベイビー・ドライバー」でおれたちのエドガー・ライトは一皮剥けてしまった

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キュートで切実なクライムサスペンスを撮って、「おれたちのエドガー・ライト」は一皮剥けてしまった。『ベイビー・ドライバー』は超面白いけど、そんな(非常に勝手な)寂しさもある映画だった。


音楽に乗ってグルーヴする、カーアクションとラブストーリー
主人公は「ベイビー」という通称で呼ばれている物静かだが天才的な腕を持つドライバー。彼の仕事は強盗の実行犯を乗せて警察の追跡を振り切る逃走車の運転だ。ベイビーは幼いころの事故により耳鳴りが消えないが、iPodで音楽を聞くことで耳鳴りをかき消し、さらにリズムに乗って車を運転することでさらに速く走ることができる。

犯罪組織のボスであるドクとの昔の因縁と借金から、裏家業を抜け出すことができなかったベイビー。しかし馴染みのダイナーで新しく働き始めたウェイトレスのデボラと恋に落ち、さらに借金を完済したことでヤクザな生活から足を洗う決意をする。しかし腕のいいドライバーを組織が見逃すはずもなく、半ば脅されるようにして最後の仕事である郵便局襲撃に巻き込まれる。一緒に仕事をするのは自らをサイコ野郎と自称しすぐに発砲するバッツ、ベイビーに一定の理解を示し凶暴だが独自の犯罪哲学を持つバディと、その妻であるダーリン。無事に逃げ切ればこれでお役御免のはずの郵便局襲撃だったが、積み重なったトラブルから状況はのっぴきならないことに……。

劇中、ベイビーはほぼずっとiPodで音楽を聞いており、その音楽と効果音が映像とリンクした演出が本作の大きな見どころ。車が車線を変更し、スピンし、銃が発砲され、人が走る。その動きが音楽と共にグルーヴしたり、また特定のタイミングではしなかったりする。基本的にこの部分はベイビーの主観に基づいているので、調子がいい時はビートと運転のタイミングが噛み合うし、トラブルがある時は動きと音楽がリンクしない。ベイビーは寡黙な若者だが、我々観客は彼の心のうちを音楽でもって掴むことができる。

イヤホンで音楽を聞きつつ、踊りながらアトランタの街を歩くベイビーの姿はとにかく楽しそうだ。でも、サングラスで目元を覆いイヤホンで両耳を塞ぐというのは心を閉ざしていることの裏返しでもある。トラウマを負った青年であるベイビーにとって、危険な仕事はある種の逃避だ。そんなベイビーがどのタイミングでサングラスを外し、どのタイミングでイヤホンを他者と共有しているかを細かく見ていくと、彼が誰に対してどこで心を許したかがわかるようになっている。

この映画はボーイミーツガールものであると同時に、ハイテンポなクライムサスペンスでもある。深夜のコインランドリーでイヤホンを分け合いながらリズムを刻むベイビーとガールフレンドのデボラの姿はとにかくキュート。しかし強盗から逃走までの緊迫感や細かく車を乗り換えるプロセスの描写はマイケル・マンの『ヒート』さながら。心浮き立つようなロマンスと生々しい犯罪とが、音楽の力でシームレスにつながっているのである。まことに欲張りで要素の多い映画ながら、全ての要素が絶妙にうまく着地しているのはまさにエドガー・ライトの手腕ならではだろう。

さらば、「おれたちのエドガー・ライト」
エドガー・ライトという監督は、映画好きの中でもとりわけボンクラ層に愛されてきた監督だ。基本的にはイギリスでずっと活動してきた人で、商業映画デビュー作の『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビ対ダメ人間とでも言うべき主題にハイセンスなギャグをまぶし、続く『ホット・ファズ』では刑事ドラマあるあるを裏返したストーリーの上に熱いボンクラ賛歌を盛った。2013年の『ワールズ・エンド』では「取り残された男たちが救われるためには一旦世界の方に終わってもらうしかない」という結論にたどり着き、その極論っぷりに我々は震えた。

つまり、ダメなオタクにとっては大変優しくわかりやすく、その上めちゃくちゃセンスのいい映画を撮る人だったのである。さらに2004年の『ショーン・オブ・ザ・デッド』はDVDスルー、2007年の『ホット・ファズ』はファンの署名によって劇場での上映が決まるという公開方法だったため、応援してきた人間の思い入れも強い。キモい言い方をすれば「おれたちのエドガー・ライト」だった。

『ベイビー・ドライバー』は、そんなエドガー・ライトが撮った初めてのハリウッドのメジャー作品である。そしてその題材になったのは、サイモン・ペグとニック・フロストのコンビのような、いつものボンクラたちではなかった。超キュートでフレッシュなベイビーとデボラのラブストーリーを、シリアスな(『ベイビー・ドライバー』はいつものエドガー・ライト作品に比べるとぐっとギャグが少ない)クライムサスペンスと研ぎ澄まされた演出が引き締める、直球のエンターテイメントだったのである。

これ、去年でいうと新海誠の『君の名は。』を見た時の感覚に近い。ウジウジしたダメ男の自己憐憫をやたら美しく描写する芸でやってた人が、完成度の高いボーイミーツガールでハッピーエンドなストーリーをぶちかまし、見事勝った様子を見たのと同じ感慨である。なんかアイツ、知らない間に一皮剥けちゃったなあ……というような。いやまあ新海誠もエドガー・ライトも、別におれの友達でもなんでもないんですけどね……。
(しげる)

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