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映画はテレビをどうするか。波紋を呼ぶラインナップでカンヌ国際映画祭が開幕

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映画界に大きなうねりが起きている。今年70周年を迎えるカンヌ国際映画祭には、まさしくその潮流を象徴するようなラインナップが並んだ。

カンヌ国際映画祭は名実ともに世界で最も権威ある映画祭である。第二次世界大戦の折に「ムッソリーニ賞」が制定されるなど、ファシスト色を強めたヴェネツィア国際映画祭に対抗し、「映画の自由」を固持するために作られたという開催経緯からも、カンヌは世界中の映画人にとって重要な映画祭だとみなされてきた。また「批評家週間」「映画監督週間」と言った部門を他の映画祭に先んじていち早く取り入れ、世界中の映画を紹介する役割も果たしてきた。映画人にとって、カンヌ国際映画祭への出品はそれだけで最高の名誉であると言っても決して過言ではない。

また、カンヌ国際映画祭ではマーケットも世界最大の規模を誇る。映画祭に見本市が併設されており、108カ国からのべ1万人以上ものマーケターが参加するのだ。「カンヌの作品を大量に買い付け、その年の買い付けはそれで終了」という配給会社も少なからず存在する。そんなカンヌ国際映画祭でどのような作品が上映されるかは、今後の映画界を占う試金石と言えるだろう。

カンヌ国際映画祭は、今年2つのメッセージを発した。

1. 映画の新たな時代に向けて - テレビとの融和

ほとんどの映画祭では「映画とテレビは同じDNAを共有している」というフィロソフィーのもとテレビ番組が上映される。しかしながら、ある種"お高く止まった"ところのあるカンヌ国際映画祭には「no TV series」の不文律があり、これまでテレビ番組を無視してきた。

IndieWireなどによればその不文律を破り、今年のカンヌでは70年の歴史上初めてテレビシリーズの上映が行なわれる。1本目は、25年ぶりに新シリーズが公開されるデヴィット・リンチ監督の『ツイン・ピークス』で、もう1本はジェーン・カンピオン監督の『トップ・オブ・ザ・レイク』である。2人ともカンヌの最高賞・パルムドールを獲得した"カンヌに愛された"大御所だとはいえ、このパラダイムシフトは非常に大きいものであると言えよう。

カンヌのプログラム・ディレクターであるティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)氏は昨年、IndieWireの編集者Eric Kohn氏に、
「カンヌは映画祭であり、テレビ番組を上映したいなら新たなフェスティバルを開催する必要がある」(via IndieWire

と述べた。しかし今年は、
「テレビは古典映画の美術を引用している」(via IndieWire

とテレビ番組のラインナップ入りをトーンを一変させて説明した。

この背景には2つの理由がある。1点目は、近年デヴィッド・フィンチャー(監督作品:『セブン』『ハウス・オブ・カード』)やマーティン・スコセッシ(監督作品:『タクシードライバー』『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』)など、カンヌにも縁のある才能豊かな監督がテレビの領域に移行し興行・批評ともに成功を収めたことである。

2点目は、テレビ業界自体の大きな伸長。Varietyなどによれば、カンヌ市長のデヴィッド・リスナード(David Lisnard)氏はNetflixやAmazonが提供するオリジナルコンテンツに視聴者が流れている現状を受け、2018年から"Cannes Series"という8日間にわたるテレビ祭を行なうことを1月初めに発表した(奇しくも、フレモー氏の皮肉めいた発言が実現したこととなる)。



video: Twin Peaks

『ツイン・ピークス』は『ブルーベルベット』などで知られる「カルトの帝王」デヴィット・リンチによるテレビシリーズである。1991年に放送が開始されると、たちまち大きな反響を呼び、熱狂的なファンを世界中に生み出した。しかしながら、1992年にカンヌ国際映画祭で上映された劇場版は、リンチ監督特有のカルト的演出が行き過ぎたこともあって、打って変わってブーイングの嵐。あのクエンティン・タランティーノが酷評するといった有様であった。とはいえ、25年経った今でも新シリーズ再開を願うファンは多く、その声にリンチ監督が応えた格好となった。



video: BBC

『トップ・オブ・ザ・レイク』は『ピアノ・レッスン』で知られるオーストリアの女性監督、ジェーン・カンピオンによるテレビシリーズだ。シーズン1は非常に高い評価を受け、主演のエリザベス・モスにゴールデングローブ賞女優賞をもたらした。

また、テレビシリーズ以外にも新たな波がカンヌに訪れていることも見逃せない。『バベル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』等で知られるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督のVR作品が上映される。SXSWやサンダンス映画祭など、新たな技術をいち早く取り入れてきた映画祭と異なり、オーセンティックな映画を上映してきたカンヌ国際映画祭が初めてVR作品を上映することも間違いなく"事件"であると言えよう。

2. 映画制作におけるゲームチェンジャー - Netflix、Amazon Studioの台頭

これまでカンヌとNetflixは反目しあってきた。今年も、『グランド・ブダペスト・ホテル』などで知られるウェス・アンダーソン監督の脚本を務めてきた、ノア・バームバックの初監督作品『The Meyerowitz Stories』がその期待値に反して、Netflix配給ということがネックになりコンペティションではなく「監督週間」行きになるのではないかとささやかれていた。

しかしながら蓋を開けてみれば『The Meyerowitz Stories』はコンペティション入り。さらに、Netflixが制作に携わった別の作品もコンペ入りした。『殺人の追憶』『スノーピアサー』などで知られる韓国の俊英、ポン・ジュノ監督による『Okja/オクジャ』だ。50億円という巨額の制作費が投じられ、ティルダ・スウィントンやジェイク・ギレンホールといったスターが登場する本作は、劇場公開より先にNetflixで配信される。ストリーミング配信作品がコンペティション入りするのは史上初の出来事だ。



video: Netflix

ティエリー・フレモー氏は「カンヌ国際映画祭は、映画の実験室のようなもの」として、NetflixとAmazonは「新たな参加者」であるとして迎え入れ、今年のコンペティションの中で重要なポジションに位置付けた。上記2作品以外にも、トッド・ヘインズ監督の『Wonderstruck』はAmazon Studiosによって配給される。

マンチェスター・バイ・ザ・シー』がアカデミー賞脚本賞を獲得したように、ストリーミング界隈のプレイヤーが頭角を現し始めている。カンヌもその流れに呼応するかのように、彼らの実力を認め、門戸を開いた。

しかしながら開催を目前とした5月10日、風向きは変わった。カンヌ国際映画祭は、2018年からフランスの映画館で上映されていない作品はコンペティションの対象外とする措置を発表した。The Guardianによれば、フランス映画協会(FNCF)からの猛烈な抗議の声を受けての決定だったという。公式に出した声明では以下のように述べられている。
『The Meyerowitz Stories』と『Okja』を、Netflixのサブスクライバーだけでなく、誰でも観られるようにフランスの映画館で上映してほしいとNetflixに呼びかけましたが、叶いませんでした

この声明に対してNetflixのCEOリード・ヘイスティング氏はFacebook上で「『Okja』は6月28日公開です。カンヌがコンペティション入りするのを阻止したくなるような素晴らしい映画です」と皮肉交じりにコメントした。



Netflixは、これまでにもカンヌだけでなく、グローバルな映画産業と対立してきた。2015年のサンダンス映画祭で圧倒的な評価を得た『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の公開に関して、Netflixは「ストリーミング配信は劇場公開後90日を置かなければならない」というアメリカ映画界のルールを破り、劇場公開と同時にストリーミング配信を行なうことを発表した。これを受け、大手シネコンチェーンは、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の劇場公開を拒絶した。

アカデミー賞脚本賞を獲得し、ストリーミング配信に先んじて全米で劇場公開した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のように、劇場に好意的な態度を取っているAmazonに比べ、Netflixは積極的に伝統的な映画界から距離を置こうとしているように見える。「栄光ある孤立」となるか「傲慢な新参者」として疎まれるか。「黒船」が続々登場する映画界のうねりに呼応するかのようにカンヌが発したメッセージは、今後の映画界にどう影響を及ぼすのだろうか。

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映画祭開幕後も、カンヌが投じた一石は波紋を呼んでいる。オープニング・フィルム『Ismael's Ghosts』の上映後、審査員記者会見の場において、審査委員長であるペドロ・アルモドバルと審査員のウィル・スミスが舌戦を交わした。

IndieWireによれば、アルモドバルは、「大きなスクリーンで映画を観ることが映画体験であり、映画はNetflixより先に劇場公開されるべきだ」と述べた。これに対してスミスは「私の子どもたちは週に2回は映画館に行くし、またNetflixでも映画を観る」として、
「映画館に映画を観に行くことと、家でNetflixを観ることはかなり異なる経験だ。Netflixが映画館を食い潰すようなことは起きないと思う。これらは別の形のエンターテイメントだからだ」「Netflixは近くで劇場公開されてない世界中の映画を観せてくれる」

とコメントした。カンヌと縁が深いアート系の監督であるアルモドバルと、カンヌにほとんど縁がないアメリカ出身の俳優であるスミスの間で意見が二分したことは象徴的であり、海外メディアでも反響を巻き起こした。これはカンヌに留まらず、映画界全体にとっての問題となりそうだ。

※ライターは5月20日からカンヌ国際映画祭に参加し、概況や注目作品についてレポートいたします!
   

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