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私たちは「ビジネス書」と、どう付き合うべきか?

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書店に行けば、今日もビジネス書の棚は新刊だらけ。どれを読んだらいいかわからない人もいれば、全部読まなきゃ置いていかれる気がして不安な人もいるでしょう。

そこで今回お話をうかがうのは、『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』という刺激的な本の著書でもある、ライターの漆原直行さん。仕事柄、多くの経営者やビジネスパーソンに取材し、ビジネス書業界の裏側を見てきた漆原さんが語る、近年のビジネス書業界、およびこれからのビジネスパーソンに求められる教養とは?
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漆原直行(うるしばら・なおゆき)

1972年東京都生まれ。フリーの編集者でライター、ビジネス書ウォッチャー。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』(マイナビ新書)、『読書で賢く生きる。』(中川淳一郎氏、山本一郎氏との共著、ベスト新書)など。2012年から続く中川氏、山本氏とのトークイベント「ビジネス書ぶった斬りナイト」は、「ココロに効く(かもしれない)本読みガイド」として継続中。

ゼロ年代から一転、10年代のビジネス書業界はスター不在

――まずはビジネス書業界の現状を教えてください。

ビジネス書が一番賑やかだったのはゼロ年代、端的にいえば、勝間和代さんと本田直之さんです。その前に神田昌典さん(『非常識な成功法則』)、本田健さん(『ユダヤ人大富豪の教え』)などもいましたが、やはりこのふたり、特に勝間さんの存在は大きいですね。

さらに彼女自身も、自分のキャラクターを前面に押し出す一方で、本を売ることにかけてはものすごく真面目に努力をする人なので、相乗効果で爆発的なヒットにつながったのだと思います。

そうしたゼロ年代に話題になっていた著者に影響を受けたような、フォロワー的な著者も次々登場し、そこから新たなスター著者が生まれるかとも思ったのですが、正直なところ、小粒感は否めない印象です。やはりもともとのキャラクターの違いが大きかったのでしょう。少なくとも10年代になってからは勝間さんや本田さんみたいな、エッジの効いた著者があまり出てこなくなったのは事実。ビジネス書というカテゴリーを代表するような卓越した著者、アイコン的なキャラクター不在の状態が続いています。

――それでもビジネス書が隆盛なのはなぜですか。

ビジネス書の著者っていうのは、他ジャンルに比べて自分で売ろうと努力してくれる人が多いんです。本をセルフブランディングや自分のビジネスに誘導するためのフロント商材ととらえ、ときにはセミナーで売るために著者自身が何百冊も買い取ってくれることもあります。出版不況と言われる現在、それだけでも出版社にとってはありがたい存在なんです。
10年代にヒットした主なビジネス書の裏側
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『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健(2013年、ダイヤモンド社)

著者の岸見先生は哲学者・心理学者で、90年代に『アドラー心理学入門』(ベスト新書)を出しています。それを読んで感銘を受けた編集者とライターが、京都にいる先生のもとへ足繁く通ってじっくり作ったのがこの本。いまどきとしては珍しいほど時間と手間をかけて練り上げたからこそ、いい本になったのでしょう。

ついでにいえば、ライターの古賀さんはビジネス書業界では超売れっ子の聞き書き(いわゆるゴースト)ライターで、担当編集者は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『ウェブはバカと暇人のもの』などを手がけた名物編集者。実は私も刊行間もない『アドラー心理学入門』を読んだことがありますが、その時はピクリとも胸に響かなかった。そこらへんがヒットメーカーとそうでない人の違いでしょう(笑)。

『人生がときめく片付けの魔法』近藤麻理恵(2010年、サンマーク出版)

掃除の本がなぜビジネス書に? と思われるかもしれませんが、身のまわりを小ざっぱりすると幸せになれるとか運気が上がりますというのと同じで、“お掃除自己啓発”みたいな切り口はわりと昔からあったジャンル。断捨離とかトイレを掃除すると幸せになれるというのもあるし、最近でいうとミニマリストも重なってくる文脈です。

『統計学が最強の学問である』西内啓(ひろむ)(2013年、ダイヤモンド社)

ビジネスパーソンたるもの、数字に強くなければ仕事ができないよね、というのは昔からあって、ビジネス誌でも年に数回は特集が組まれています。特にビッグデータを人工知能で解析してビジネスに活用する手法が広がってからは、統計学的手法の素地くらいは持っておきたいということで、10年代の前半に統計学がブームに。そのなかでもっとも受けたのがこの本です。

その流れでいえば、今年に入ってから目につくのが、AIが人間の仕事を担うようになって、あなたの仕事は10年後、20年後もあるのか、といったテーマ。そのジャンルでは『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(松尾豊、角川EPUB選書)はいい本だと思いました。

『仕事に効く教養としての世界史』出口治明(2014年、祥伝社)

ビジネス書のひとつのジャンルとして、経営者が書いた本は欠かせません。実際、松下幸之助さんの『道をひらく』や『社員心得帖』のように、今や古典的名著となっている本もありますし、京セラ名誉顧問の稲森和夫さんのように、現役の経営者のなかにも名著を出している人は少なくありません。

そんな経営者本のなかで、書き手として現在、一番のヒットメーカーなのが、ライフネット生命代表取締役会長の出口治明さんです。

出口さんが一貫して提唱しているのは「ものごとを本質から考えよう」ということ。そのために大切なのが、歴史の知識。どんなに時代が変遷しても人間の本質は変わらない。つまり、歴史を学ぶことは人間の本質を学ぶことであり、ものごとの本質を学ぶことでもある、というわけです。『仕事に効く~』は好評で、先ごろ続編も出ました。新書では『人生を面白くする本物の教養』(幻冬舎新書)が特にヒットしています。
これからのビジネスパーソンにはリベラルアーツ的教養が必須
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――今はアイコン的スター不在ということですが、全体的な傾向としてはどうですか。

全体的に“本質論”が増えているという印象はあります。ゼロ年代は仕事術のようなノウハウ的、ライフハック的な方向に振れていたので、その揺り返しとして、もっと大局を見よう、本質を知ろうという流れですね。あと、読むと元気が出る、なんとなく高揚感が味わえるといった、ぼやっとした自己啓発本に読者も飽きてきたのかもしれません。先に挙げた出口さんの歴史本がヒットしたりするのも、「もう少し内容のある本を読んで、ちゃんと勉強しなきゃダメかも」と考えた読者たちから、入門書として支持された側面があるように思います。

――歴史というのも、昔からビジネス書としては有力なコンテンツですね。

特に管理職クラス以上ともなると、好きな戦国武将のひとりも持っていないと話題についていけない、格好がつかない、というのもありますから(笑)。それもまたビジネスパーソンとしては必要な教養ですが、今求められているのはもっと幅広いというか、歴史とか文学といったひとつのジャンルを超えたリベラルアーツ的な教養です。

――リベラルアーツ?

日本語に訳せば「一般教養」ですね。たとえば接待の席で、相手の部長さんと自分のところの社長がいて、話が盛り上がっている。海外貿易のことから尖閣諸島、日中関係、さらにはテロリズムの話題に飛んで、中東と宗教の関係にまで話が及んだとして、そんな会話にどこまでついていけるか?

これは以前、さきほどお名前を挙げた出口会長を取材した時にうかがった話でもあるのですが、「外国人と会話する際、政治や宗教の話はご法度。ゴルフとワインの話題さえできれば困らない」なんて言うビジネスパーソンは、認識が浅いと。外国人だってお酒を飲みながら、経済だけでなく宗教や歴史や文学、政治思想の話もしたいし、盛り上がるんだけど、日本人に話しても何も出てこないから、しかたなくレベルを合せてくれているんだと言うわけです。

――けれど、やはり「歴史なんて仕事には関係ない」という人もいると思います。

確かに、歴史も宗教も、直接今の仕事には結びつかないかもしれません。けれど、たとえば「ワールドビジネスサテライト」を観ていれば、ビジネスという大きなカテゴリーの中に、株価や日銀の話題もあれば、アメリカの政治、人工知能から街角の流行まで、いろんな話題が出てくる。今、リアルビジネスでは統計とかAI、ビッグデータ、ディープラーニングなんていう言葉がふつうに使われるようになって、IT以外のジャンルで仕事をしている人でも、それくらいの知識は持っていて損はないというのと同じです。

また、昨今の世界情勢を語るうえで、イスラム国(IS)に代表されるテロ組織に関する話題は避けて通れません。そんな時、ヨーロッパや中東の歴史をザックリとでも理解しているかどうかで、雑談レベルでも話せる事柄は大きく変わってくるはすです。

たとえば「ショスターコビッチってどこの作曲家?」「『夜と霧』ってどんな本だっけ? 作者は?」と尋ねられたとき、パッと答えられるかどうか。まあ、これは今、たまたま頭に浮かんだ言葉を言っただけですけど(笑)、その手の雑学知識って、べつに仕事の上ではどうでもいいことなんですよ。でも、デキるビジネスパーソンは、往々にしてモノ知りだったりするもの。

実際、仕事で多くの立派な経営者やビジネスパーソンにお会いすると、みなさん最低限の教養というか、リベラルアーツ的な知識をお持ちの方が多いと実感します。自分の専門分野だけでなく、興味や関心のあるジャンルについては、ちょっとした評論家レベルといっていいくらい精通してらっしゃる方も少なくありません。

――教養がある人とない人、何が違うのでしょう。

ありていに言ってしまうと「何かを学ぶ意欲」だと思うんです。興味のあることを知りたい、学びたいという意欲を持ち続けられるかどうか。もっというなら、世の中の仕組みをちゃんと理解したいとか、迷った時に自分が立ち返るべきはどこなんだろうということを考えて、そのための方策として知識を得るとか、考察を深める作業をサボらずにやっているということ。読書の大切さにもつながりますよね。
いつの時代も、基本は“古典”“定番”にあり
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――とはいえ、今まで、すぐに役立つノウハウが書いてあるような本ばかり読んでいた人が、いきなり本質を考えろと言われても難しいですよね。

実は最近、長文に対する耐性が低い人が多いのが気になります。2ちゃんねる用語でいう「今北産業」(今来たところだから3行で説明してくれ)的な、あるいはツイッターの140字でぜんぶ語り切れ、みたいな。それ以上の説明は読みたくないし、できないヤツはダメだ、みたいな風潮も強い。

ネット社会だからしかたない面もありますが、おかげで「〇個の法則」とか「年収〇倍」など、キャッチーだけど似たようなタイトルの本ばかりが並ぶビジネス書業界になってしまったという側面もあると思います。

――それでも読まないよりはマシなのでは……。

確かに。人ってその時どきで興味が変わりますよね。それで一時的に集中してそのジャンルに詳しくなって、飽きてってことを繰り返す。でもその過程で、文献や本を自分なりに読み解こうとする努力さえ怠らなければ、それなりに知的レベルは蓄積されていくと思います。

以前、池上彰さんの「週刊こどもニュース」をまとめた本が、わかりやすいというので若手のビジネスパーソンに受けたことがありますが、子供向けでも読まないよりはずっといい。しかしそんなわかりやすい本ばかりじゃダメってことも確かです。

まずは入門編として、薄くても子供向けでもいいから1冊を読みきったうえで、それを土台に、信頼できる定番本や古典にいけば間違いありません。ビジネス書でいえば、たとえばスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』やデール・カーネギーの『人を動かす』のように、多くのビジネスパーソンや成功者たちが「影響を受けた」と公言しているような古典本を1冊読めば、それだけでありがちな“お手軽な仕事術+軽めの思考術+自己啓発風味のちょっとイイ話”みたいな安っぽいビジネス書を何冊も読んだくらいの収穫があるでしょう。

読んでもすぐ忘れてしまうという人もいますが、だったらもう一度気になった部分だけでも読み返せばいい。ブームやトレンドに振り回されるのではなく、一冊の古典を深く読み込むようなビジネス書の読み方もあっていいと思います。

文章・小野千賀子 写真・朝比奈雄太


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